
ナジア・フサリ
ベイルート:レバノン政財界で影響力を持つ人々が、パレスチナ・イスラエル間の危機や暴力的な衝突の拡大により、レバノンが地域紛争に巻き込まれ得る現況への懸念を表明している。
一般労働連盟のハッサン・ファキ副会長は、「レバノンに残された希望を消滅させてしまう全面的な混乱状態」が発生する可能性が高まっている現況について警告を発した。
ファキ副会長のこのコメントが発表された土曜日、レバノンの人々には、ガソリンスタンドで行列を作ったり、不足している医薬を探しに薬局を訪れたりする日常が戻っていた。
補助金無しの牛肉1Kgの値段が120,000レバノン・ポンド (80米ドル) を超え、肉類の売上は激減したままとなっている。
ファキ副会長は、「レバノンでは、経済がすべての階層の人々に対して非常に危険な兆候を示す状態に至っており、何もかもが耐え難いほど窮迫した状況になっています」と述べた。
また、ファキ副会長は、「レバノンを何年間も運営してきた政治システムが決定した政策の結果」、国民が「限界を超えた貧困に達してしまったのです」と付け加えた。
レバノン経済は、新型コロナウイルス禍への対応と壊滅的な経済状況による2重の損失からの回復に努めている。
現在は、新型コロナウイルスへの感染者数が減少したことから、経済状況の好転への期待が高まりつつある。
その一方、レバノン軍は、土曜日、レバノン市民以外が国境南端を越えてイスラエルに向かうことを阻止し始めた。パレスチナ各派が難民たちにイスラエルの占領地での攻撃への抗議運動を呼びかける中での措置である。
民間人の衣服を着用した複数のヒズボラ工作員が、国境地帯での阻止措置に、特にイスラエルの入植地に面したブルーライン近傍地点を中心として、協力している。ヒズボラは、これにより、レバノンの状況を混乱に導く意図を持たないことを示しているのだ。
この阻止措置は、21歳のレバノン市民であるムハンマド・タハン氏がイスラエル人兵士に射殺された翌日から開始された。
抗議活動への参加者と有刺鉄線のフェンスまで同行したタイヤ地域の活動家の1人は、アラブニュースに、「パレスチナの旗とヒズボラの横断幕を持ったデモ隊がムトラ入植地に面するレバノン側から有刺鉄線を乗り越えようとしました」と語った。
「タハン氏は前に進んでイスラエルのセキュリティカメラを破壊しました。イスラエル側は、タハン氏に発砲し、その銃弾が脇腹に当たり彼は絶命したのです」。
ヒズボラは、タハン氏の死を悼み、レバノン南部の都市アドルンで土曜日に行われた同氏の葬儀に参列し、遺体をヒズボラの横断幕で包んだ。
タハン氏の家族を知る活動家は、しかし、次のように述べている。「タハン氏は左派の人物であり、家族は共産主義者です。彼らは苦境に沈黙で立ち向かっています」。
ヒズボラが、レバノン内のパレスチナ人グループの1つに、レバノン南部からパレスチナ被占領地にグラートロケット弾を木曜日夜に発射したことを認める声明を出すよう要請したものの拒否されたとの、真偽は未確認の報道が複数あった。
レバノン軍は、土曜日、南のイスラエルに続く海岸線の安全対策を強化した。検問所をレバノン兵士たちが設置し、国境地帯を移動する人々の身元確認が開始された。
国境を南に越えることは、レバノン市民のみに許可され、レバノン市民以外の場合は特別許可が必要となった。
レバノン軍は、国境を挟んでムトラ入植地に相対するマルジャユーン地域に通じる全ての経路を封鎖した。
土曜日には、有刺鉄線のフェンスを越えようとした4人のパレスチナ人をレバノン兵士が阻止した。
反ヒズボラの活動家であるアリ・アルアミン氏はアラブニュースに、「ヒズボラは、内部事情と地域の情勢のため、イスラエルのレバノンへの対応が激化すると組織として持ちこたえられません。そのため、ヒズボラには選択肢があまり無いのです」。
「パレスチナ人グループがロケット弾の発射を認める声明の発表の要請を拒否したことが事実だとしたら、レバノンで街頭活動を展開するヒズボラの組織力や影響力が弱まっているということになります。ヒズボラには失敗する余地が一切ありません。組織の内部情勢と地域の動向を踏まえた失敗のコストを見積もることが出来ないからです」。
イスラエル軍の報道官であるアヴィチャイ・アドリー氏は、抗議活動を行っていたレバノン人とパレスチナ人に対する発砲とタハン氏の殺害を正当なもととしている。
アドリー報道官は、「容疑者たちは統率の取れた行動をしており、爆発物らしきものを後に残していきました。イスラエル側に侵入し、イスラエルで破壊活動を遂行する意図が明らかな行動をしていたのです」と述べた。
同報道官は、レバノンは「レバノン国内で起きていることやレバノンに端を発すること、そして、イスラエル市民に危害を加える一切の試みに対して責任があります」と言った。
タイヤ出身の活動家であるフセイン・エズ・エルディン氏は、何百人ものパレスチナ人の若者が、「土曜日に、主要幹線道路を国境にむけて渡ろうとしました。国境線を前に抗議活動を行うためにずっと北部のキャンプからやって来た若者も何人もいました。しかし、レバノン軍とヒズボラ傘下の他の保安組織が非常線を張り、若者たちが道を渡ってブルーラインに到達することを阻みました」と述べた。
「南の国境地域の人々は2種類に分かれます。まず、抵抗勢力と連携し、発生する事態を利用して何とか新たに勝利を収めようとする人々がいます。」と、エズ・エルディン氏は付け加えた。
「そうした人々とは別に、ヒズボラや他のいかなる組織とも関わりを持たず、状況の推移を危惧しつつも何とか国益に沿った行動をしようとしている人たちもいます」。
エズ・エルディン氏は、また、「どの組織にも属していない人々は、パレスチナの大義に全面的に共感していても、国境での抗議を促す呼びかけには応じていません」とも述べた。
「そうした人々の一部は、南部の国境に行くことは単なるプロパガンダに過ぎず、むしろシリアとの国境に行って密輸活動に対する抗議活動を行うことの方がレバノンの国益に資するとすら考えています」。
南部の国境地帯周辺では慎重な言動や行動に重きを置く雰囲気が支配的ではあるものの、イード・アル=フィトルの祭日の後に2日間続いた完全ロックダウンが解除されたレバノンには、土曜日、平常に近い生活が戻ってきた。