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シリアの選挙、レバノンに緊張と暴力をもたらす

キリスト教右派・レバノン軍団のメンバーが、大統領選の投票のためにシリア大使館に向かう途中のシリア人有権者を乗せた車を、レバノン・ベイルートの北に位置するズーク・モスベの町で襲う、2021年5月20日、木曜日。(AP)
キリスト教右派・レバノン軍団のメンバーが、大統領選の投票のためにシリア大使館に向かう途中のシリア人有権者を乗せた車を、レバノン・ベイルートの北に位置するズーク・モスベの町で襲う、2021年5月20日、木曜日。(AP)
月曜日、ベイルートの北に位置するズーク・モスベの町で、「バッシャール・アサドへの組織的投票」に抗議する活動家たちが、レバノン軍の兵士ともみ合う。(AP)
月曜日、ベイルートの北に位置するズーク・モスベの町で、「バッシャール・アサドへの組織的投票」に抗議する活動家たちが、レバノン軍の兵士ともみ合う。(AP)
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21 May 2021 05:05:29 GMT9
21 May 2021 05:05:29 GMT9
  • レバノンに滞在しながら、アサド政権への支持を表明したシリア難民に対し、怒ったレバノン人がストリートファイトを繰り広げる
  • リチャード・コウユムジャン元大臣は、アサド支持派の有権者に対し、「ご都合主義者であり、避難民ではない」と主張している

ナジャ・ホウサリ

ベイルート:レバノンに滞在するシリアの人々に、祖国への帰還を求める声は、10年に及ぶシリアの内戦で、政治的に深く分断された問題となっている。最近ではシリアの次期大統領選挙を巡って、更に分断が深まっている。

木曜日、来週水曜日に投票が行われるシリア大統領選挙で、現大統領のアサドに組織票を投じようと、シリア大使館に向かうシリアの国外居住者や難民に向かってレバノン人グループが怒りを爆発し、殴ったり、車に投石したりする騒ぎが起こった。ヒズボラがレバノン全土の有権者を大使館に運ぶための輸送手段を組織したとも言われている。

アサド大統領は今回4期目の大統領選挙に立候補しているが、彼が大統領を続けることがほぼ確実な選挙で、他の2人の候補者との象徴的な選挙戦を繰り広げている。

シリアの野党や多くの欧米諸国、アラブ諸国は、今回の選挙はアサド政権に正当性を与えるための偽装であると考えている。また、この選挙は、大統領選挙の前に新憲法の制定を求める国連決議にも違反している。

レバノンには86万5,531人のシリア難民が登録されており、また数十万人のシリア人が日雇いや季節労働者として家族とともにレバノンに滞在している。

レバノンにいるシリア人には、戦争のためにレバノンに逃れてきた政権支持者や反対派の人々が混じり合っている。レバノンそのものが現在は深刻な経済危機に陥っており、シリア人難民の受け入れコストも高いため、帰国を求める声が高まっている。

ヤーゼの大使館地区に通じる道路は、木曜日の早朝からシリアの有権者を乗せた車やバスで渋滞している。多くの人がアサド大統領と政権軍を支持するスローガンを唱え、シリアの国旗を振り、アサド大統領の写真を掲げている。彼らは、投票の前後にメディアに対して、アサド大統領に投票したと告げている。

これには多くのレバノン人が怒りをあらわにした。レバノン軍団のメンバーは、レバノン北部とベイルートを結ぶ海岸沿いの高速道路に行き、アサド大統領の写真やシリアの国旗、シリア政権与党であるシリア社会民族党(SSNP)の旗を掲げた車を止め、窓ガラスを壊したり、乗員に暴行を加えたりしている。

レバノン軍団のメンバーはメディアに対し、次のように不満をぶつけている:「彼らはアサドに忠誠を誓っているのに、なぜ難民としてレバノンに居残っているのか?」また、レバノン軍団のメンバーは、アサド大統領を支持するシリア人は難民の資格を剥奪されるべきだと主張している。

ベイルートのアシュラフィエ地区でも同じような光景が見られ、レバノン人の若者がシリアの国旗を掲げた車を追いかけまわす事態が生じ、レバノン軍が介入して両者を引き離している。

54歳のモーセン・サレ・アル=アフマドは、ベカーのチャタウラからバスで大使館に移動中に死亡した。公式の予備調査では、原因は心臓発作とされている。

木曜日の朝の出来事以来、軍は、国防省や陸軍司令部の周辺にあるシリア大使館や、それにつながる道路の警備を強化している。

しかし、午後になってさらに衝突が起きた。今度はシリア人によるもので、ナール・アル=カルブ近くの海岸沿いの道路を走っていたバスから降りたシリア人集団が、通行人に暴行を加えたり、車に石を投げたりして、MTVのジャーナリストを含む数人が負傷したと伝えられている。

レバノンの政治家の中には、親アサド派のシリア人有権者の行動をすぐに非難する者もいた。

メイ・チディアック元大臣は次のように述べている:「彼らは避難民であると主張し、国際社会に金銭による支援を求める一方で、レバノンの疲弊した経済にさらなる負担をかける厄介者に過ぎない!そしてシリア大使館の扉の前では、バシャール・アサド大統領の支持を声高に表明している。命の危険に脅かされていないのであれば、サッサと自国に戻って欲しい」

また、別の元大臣であるリチャード・コウユムジャンは、次のように述べている:「バシャール・アサド大統領に忠誠を誓うのなら、我々の国ではなく、自分の国に戻って行って欲しい。彼らはご都合主義者で、政権に追われて避難しているわけではないのだから」

しかし、ヒズボラの元議員であるナワール・アル=サヒーリは、シリアの有権者に対する攻撃は、「人種差別と誠実さの欠如」を示していると評した。

アリ・アブドゥル・カリム・アリ駐レバノン・シリア大使は、一連の攻撃は「痛みを伴うものであり、攻撃を関係当局に照会する」と述べ、レバノンに対し、「シリア人が自国に戻るための迅速な出口を見つけるために協力して欲しい」を呼びかけた。

シリアの外交官は、多数の有権者が大使館周辺に集まったことについて、「シリアの人々が、シリア国外では見つけられなかった安全な場所に戻りたいという願望を反映している」と述べた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のリサ・アブ・カレド報道官は、アラブニュースに次のように語った:「UNHCRは、レバノンのシリア難民に加えられた圧力、脅迫、嫌がらせ事件や、シリア大統領選挙に関連する事件の報告を数々受けている。報告されている事件は、書類の没収から身体的危害の脅しまで多岐にわたります」

彼女はまた、「誰に投票するかは個人の選択であり、難民認定や国際的な保護の必要性とは関係ありません。現大統領に投票したからといって、難民の地位を失うこともありません。UNHCRは、脅迫や圧力の報告を受けており、それが多くの難民を選挙への参加に向かわせた可能性もあります」

カレド報道官は、「UNHCRは非政治的な人道組織であるため、シリアの選挙ではいかなる役割も果たしません」とも述べている。「とはいえ、脅迫や圧力をかけられる事案が難民から報告された場合は、レバノンの関係者と協力して、レバノンで難民が引き続き保護されるように対応しています」

レバノンに滞在している全てのシリア人難民が投票権を行使できたわけでは無い。アルサルの難民キャンプでキャンプの監督をしているアブ・アフマドは、アラブニュースに次のように語った。「ほとんどのシリア難民は大統領選挙に興味を持っていません。大使館で投票した人もいるかも知れませんが、彼らは(集団的な)信念を象徴してはいません。難民は欲求不満であり、避難生活の中で経験した苦しみや恐怖を忘れることができません」

「現在、何かが変わったと言えるのであろうか?アサドは再選される資格があるのであろうか?何の根拠があって?人々は何か変化が起こることを期待していたが、起こっているのは、国際社会でアサドのイメージが磨かれていることだけだ」とアフマドは続けて述べた。「投票所で時間を無駄にするよりも、今の自分の力を維持する方が有益だ。ここでは、ホームレスであっても安心していられます」

数週間前にシリアを訪問し、難民の帰還について話し合ったラムジ・ムシャッラフィーヤ暫定社会問題大臣兼観光大臣は、「発生したすべての侵害は不当である」と糾弾し、「(シリアの有権者を)守ることが我々の優先事項である」と述べた。

これまでレバノンのシリア難民を擁護してきた元国会議員のハレド・アル=ダヘルは、木曜日に次のように述べている:「レバノンにいる難民でバッシャール・アサドをまたシリアの大統領に選ぼうとする者は、シリア政権と何の問題も持たず、他の特定の目標や目的のためにレバノンに滞在していることになる。そのような者に難民の資格はなく、レバノン領から出ていかなければならない」

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