
ガザ市(パレスチナ自治区): 紛争で荒廃したガザを高層ビルの10階から見下ろしながら、パレスチナの人権弁護士ラジ・スラーニ氏は新たな訴訟の数々を抱えている。先月のイスラエルとの紛争の犠牲者に関するものである。
長年に渡り、スラーニ氏はイスラエルが封鎖している領地で国際刑事裁判所(ICC)に提出するための訴訟を積み重ねてきた。
66歳になるラジ・スラーニ弁護士は2015年以降、既にハーグの国際刑事裁判所に数十件の訴訟を起こしている。パレスチナ自治政府が国際刑事裁判所のローマ規程を批准した後のことである。
スラーニ弁護士によると、この訴訟はイスラエルが犯した戦争犯罪の犠牲者となったパレスチナ人を代弁するものであるという。
3月にICCの主任検察官がイスラエル占領地の状況を徹底調査すると発表した。この日はスラーニ氏にとって希望の日となった。
イスラエルはICCを「政治的機関」であるとして退け、戦争犯罪の加害者であるとされる人物に対して独自の調査を実施中だと述べている。
スラーニ氏は1995年にガザを拠点とするパレスチナ人権センター(PCHR)を創設しており、ICCの調査によって被害者が自分たちの「尊厳」を回復し「適切な正義」を確認できるようになると語る。
「我々は夢想家です。なぜかと言えばつまり、周囲を見渡せば、現実は非常に悲しく、非常に悪いものだからです。すっかりバランスを失っています」イスラエル国家組織の強力さに対する自身の法的な奮闘を評し、スラーニ氏はそう語った。
ガザを支配しているイスラム運動組織ハマスとの戦いの中でユダヤ人国家イスラエルが意図的に民間人を標的にしていることを証明するべく、スラーニ氏は60人のチームとともに、できる限り全てのことを文書化しようとしている。
イスラエル軍はハマスが人口密集地域を意図的に軍事標的としているとして非難している。
スラーニ氏のリストは長大だ。2007年以降のイスラエルによる封鎖から2014年のガザ紛争の被害者の証言、そして2018年の「帰還の大行進」抗議運動に対する弾圧にまで及ぶ。1948年のイスラエル建国の際にパレスチナ人の世帯が故郷から避難、もしくは追放された。この抗議運動は故郷へ帰還する権利をパレスチナ人が主張したときのものである。
そして今、スラーニ氏は先日のハマス・イスラエル紛争を追加したところだ。
破壊された建物、被害者の詳細なリスト、イスラエル軍が使用したミサイルの報告書、爆撃地の地図。氏の忍耐強い仕事が何十もの書類棚に収められている。
スラーニ弁護士はエジプトとレバノンで学んでおり、今回の紛争は一方的なものだったと言う。
イスラエルは「中東における強力な軍事力であり、イランとヒズボラを挑発し、シリアに空爆を行い」200万人の人口が密集するガザ地区を爆撃して壊滅的な被害を与えた、と氏は語る。
ガザ当局によると、5月10〜21日の紛争で戦闘員を含む260名が死亡したという。
イスラエルでは、兵士を含む13名がガザから発射されたロケット弾で死亡したと警察と軍が伝えている。
ハマスを「テロリスト」組織と呼ぶイスラエル軍は民間人を標的にしたことを否定しており、「巻き添えの被害」を避けるために最善を尽くしていると主張している。
それでは不充分だとスラーニ氏は言う。
「紛争は軍隊同士のものです」氏は語る。「民間人は避けなければなりません」
スラーニ氏はイスラエルの攻撃で殺された家族を次々にリストに記録した。
「ハマスとはショルーク・タワーのことでしょうか? ハナディ・タワーのことでしょうか? ジャラ・タワーのことでしょうか?」スラーニ氏は怒りを込めて問いかけ、ハマスに拠点を提供しているとイスラエルが主張したために煙を上げる瓦礫の山と化した商業・住宅用高層ビルの名を挙げた。
「水道パイプラインがハマスと何の関係があるのでしょう? 電力や下水道システムがハマスと何の関係があるのでしょう?」氏は紛争の影響を受けたインフラを指してそう語った。
イスラエルはハマスのロケット弾に対する自衛権があると主張する人々に対し、スラーニ弁護士はパワーバランスの不均衡を指摘する。一方は戦闘機を所持し、もう一方には閉じ込められた人々がいる。
「ガザは最大の野外刑務所です」スラーニ氏は語る。「イスラエルは私たちを石器時代に送り込もうとしているのです」
スラーニ氏は自身がイスラエルの監獄で3年過ごした際、「全ての瞬間」を利用してヘブライ語と人道法を学んだと言う。
「私は人生の全ての期間を占領下で生きてきました。イスラエルの占領が公正なものだと言える人は誰もいません」氏はそう語った。
本が並ぶ氏のオフィスにはロバート・F・ケネディ氏の胸像が置かれている。個人の道徳的な勇気が不正義を克服できるという米国の故上院議員の信念を記念した人権賞だ。
スラーニ氏は1991年にイスラエルのアビグドール・フェルドマン弁護士とともにこの賞を受賞した。スラーニ氏はこの名誉を誇りに思っているが、2016年に当時の米国副大統領だったジョー・バイデン氏もこの賞を受賞したことには失望させられたと語る。
「ロバート・ケネディ氏が語った『全ての人に正義を』を守る人を求めています」氏はそう述べ、イスラエルの自衛権を主張するバイデン氏を批判した。
「法の支配、正義と尊厳。私たちが求めているのはそれだけです。私たちが代弁している犠牲者たちのために」氏は語る。
「復讐をしようという個人的な願望はありません。しかしパレスチナ人は正義と尊厳を受け取る権利があると思います」
AFP