
ナジャ・フーサリ
ベイルート:ベイルート郊外にある国立レバノン大学のハダス・キャンパスで、野良犬が撃たれて埋められている様子を撮影した動画が公開された。レバノンの経済危機が深刻化する中、飼い主に捨てられた動物の問題が深刻化していることが浮き彫りになった。
愛護団体によると、レバノンでは5万匹もの野良犬が街中を徘徊していると推定されている。そのほとんどが去勢手術やワクチン接種を受けていない中、野良犬達が攻撃的になり、結果狂犬病対策のワクチンの在庫が少なくなるなど、公衆衛生上のリスクが生じている。
今週、大学の構内で埋められた状態で発見された5匹の犬の画像は、怒りと共に世界中に拡散された。捨てられた犬たちは、学生たちが保護し、餌を与えていた。
レバノン大学の75ヘクタールのキャンパスはフェンスで囲まれておらず、多数の学部のほか、学生、学部長、客員教授の宿泊施設や、スポーツ・健康施設などがある。
動物保護活動家のギナ・ナファウィ氏がアラブニュースに語ったところによると、野良犬たちは学生たちに名前を付けられ、食べ物を差し出すと反応していたとのことだ。
「1匹の犬がリーダーになりました。そして他の犬に、私たちに近づいても大丈夫だと教えていることに気が付きました」と彼女は語る。
「先週の金曜日、私達は犬たちがどこに行ったのか見つけられませんでした。大学の管理者や警備員が犬を処分したがっていたという話も聞きました」
ナファウィ氏によると、別の犬は苦痛を伴った状態で生きたまま発見され、学生たちの不安は高まっている。その症状は、家畜や野生動物に強い毒性を持つ殺虫剤「ラネート」を飲まされたことを示唆していた。
「私たちは血痕や撃たれた犬を何匹か見かけました。ただ、他の犬も構内に埋められているとは聞いていましたが、この目で見るまでは信じられませんでした。異臭がする場所を手で掘ってみると、5匹の犬の遺体が埋められていました」
彼女によると学生たちは、仔犬を含む犬たちが山間部に連れて行かれて放置され、他の動物に殺された可能性があるとも聞かされたという。
動物保護団体「Paw」の副会長であるロジャー・アカウィ氏がアラブニュースに語ったところによると、レバノンでは、パンデミックやレバノンポンドの切り下げの影響で、5万匹ものペットの犬が飼い主に捨てられているとのことだ。
「路上に放置されている犬のほとんどは、去勢手術もワクチン接種も受けていません。犬は優秀なハンターだと思われていますが、そうではありません。犬は人間に依存して生きているのです」と語る。
「人々は知らないでしょう。2匹の犬の交尾によって、2年以内にさらに400匹の犬が生まれ、その犬たちは狂犬病のワクチンを接種しなかったことによる病気も併発するであろうことを」
アカウィ氏は、当局がこの問題を放置しているため、レバノンは「大惨事に向かっている」と警告する。
「人々は玄関先で犬に遭遇し、多くの人が死ぬことになるでしょう。病気を恐れて誰も遺体に触れたり、埋葬したりする気は起きないでしょう。狂犬病ワクチンは国から補助金が出ているものの、業者が輸入に関心を示さないため入手は困難です。今の所、ワクチンは緊急用途の少量が存在するだけです」
ソーシャルメディアが野良犬の殺処分を巡って騒然とする中、学生たちは大学の管理部門に説明を求めた。この「虐殺」の責任者が責任を負うべきだと訴えたのだ。
訴えを受け大学当局は「キャンパス内および周辺における野良犬問題への対応」について遺憾の意を表明する声明を発表した。
声明では「慎重な調査が開始された。管理局は動物愛護協会やハダス当局に何度も相談したが、根本的な解決には至らなかった」としている。
管理側は、複数の学生が2匹の犬に噛まれたとし、狂犬病に対する薬やワクチンが不足していることから、野良犬は公共の安全を脅かしていると付け加えた。
しかし、ナファウィ氏は、大学で学生が犬に襲われたという証拠はないと述べている。「キャンパスが犬たちの埋葬地になってしまったのです。大学側はすべての法律を無視して、私たちが問題を誇張していると非難しているのです。これは恥ずべきことです」
彼女は続けて「このような問題に対処する責任が自治体にはありますが、今のところ優先順位が高いとは考えられていません。狂犬病のワクチンがないために、去勢されていない犬やワクチンを打たれていない犬が人間社会に脅威を与えていることを理解しているのでしょうか」と語った。
アカウィ氏は、この問題の解決策は「犬を捕獲し、去勢し、自然に帰す」ことだと語った。
同氏によると、慈善団体は野良犬を扱うボランティアを育成しているが、設備やワクチンを購入する資金は足りていないという。「自治体の予算では、特に我々が直面しているこの経済危機の中では、この問題は重視されていません」
アカウィ氏は、政府にとって野良犬の問題は優先事項ではないと語る。
「私たちは内務大臣に会い、パンデミックの際にロックダウンを実施して人々を家に閉じ込めることは、レストランの廃棄物を頼りに生きている野良犬の虐殺につながると警告しました。自分達で購入した食材を犬に食べさせるため、制限下の夜間外出の許可を求めましたが、それは却下されました」
ナファウィ氏は、レバノンの人々が経験している苦しみに比べれば、犬の死に対する怒りは不条理だと考える人もいるかもしれないと語る。「でも、最も弱い存在への適切な対処を学ばなければ、社会がより平和で寛容になることはありません」と述べた。
2017年8月、ミシェル・アウン大統領は、自治体による野良犬の扱いに関するルールを含む動物保護・福祉法に署名した。
そして2018年8月、「Ethical Treatment of Animals(動物の倫理的扱い)」団体は、レバノンの司法当局から、犬を虐待した男性を10日間拘留し、2,650ドルの罰金を科す判決を勝ち取った。これは、レバノンの司法当局初の、動物虐待を犯罪とする判決であった。