
ハバーシュ/イラク イラクで “maku”は「何もない」ことを意味するが、5人の子を持つイッサ・アル・ザムズム氏は “maku”をよく使い、電気もない、家もない、再建もない、仕事もないと言う。
ダーイシュのテロリストと軍隊との激しい戦闘から8年、イラク北部の戦争によって破壊されたザムズム氏が住む村の再建は停止している。
「ここには何もありません。電気もなければ仕事さえありません。何もないのです」と42歳のザムズム氏はため息をつく。
ザムズム氏は首都バグダッドから180kmほど北にあるハバーシュという村に、妻と家族と共に暮らしている。村には2014年の激しい戦闘の際に爆風で破壊された家が、あちらこちらに多数残されている。
爆撃の際に穴の空いた一部の屋根が、今もまだボロボロに崩れ弾痕の残る残骸の中に残されている。
ある部屋ではめんどりがひよこを見守っている。別の部屋では不潔なマットレスが壁際に積み上げられている。
そこはザムズム氏の所有する建物ですらない。彼の家は居住不可能なままだ。
イラク政府は2017年12月にダーイシュに対する軍隊の「勝利」を最終的に祝ったものの、破壊の規模は凄まじいものだった。
「再建ですか、わかりません。戦争以来、何も起こっていません」とザムズム氏は悲観的に言った。
10kmも離れていない町アメルリがダーイシュに包囲された際、ハバーシュは高い代償を支払わせられた。
2014年、主要な町モスルと周辺地域を制圧したジハーディストたちはアメルリを攻撃するため南下し、周囲にあるハバーシュなどの集落を攻撃の拠点とした。
イラク軍、シーア派民兵組織、クルド人部隊からなる連合部隊が、厳しい市街戦を伴う包囲を破るため反撃を開始し、ダーイシュの部隊は押し戻された。
だがすでに激しい攻撃を受けていた地域の住民にとって、苦しみが終わりを告げたわけではなかった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ダーイシュによる包囲の後で「イラク治安部隊だけではなく親政府民兵組織と志願兵もが(アメルリ周辺のハバーシュを含む)スンニ派の村や地域を襲いました」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは人工衛星画像を使用して、ハバーシュの「放火によるものとされる、建物からもうもうと立ち上がる煙」をマッピングした。
支援組織のノルウェー難民問題評議会(NRC)によると、2万人がこの紛争により住まいを追われている。
「大きな人道的ニーズがあります」とNRC。
綺麗な水や電気などの基本的なニーズに加えて、身分証明書を手にすることさえ多くの人にとって困難だ。
「多くの方々が行政区域を追われていて、居住区の書類を手に入れることに大きな困難を抱えています」とNRC。
さらには「ダーイシュと関係があると思われることで、安全を確保する問題を抱えている人もいます」
ハバーシュのほとんどの住人と同じく、ザムズム氏の隣人アブデルカリム・ノーリ氏もスンニ派のムスリムだ。
シーア派が多数を占めるイラクではスンニ派は時に、かつて過激派の支援をして共謀していたのではないかと疑いの目で見られることがある。
ダーイシュのジハーディストはスンニ派の信仰の過激な解釈に従っている。
「恥ずかしい生活です。仕事がありません。飼っている5頭の羊に生かされています」とノーリ氏は言った。
議員に援助を申し立てたが何も変わっていないとのことだ。
ノーリ氏は宗教に触れることも宗派について話すこともない。2006~2008年に起こった血みどろの宗教間対立により数万人が命を落とした国では、極めてデリケートな話題なのだ。
イラクにおいてダーイシュが独自に宣言した「カリフ国家」が崩壊して4年が経った今、多くのスンニ派は自らを嫌がらせと差別の被害者だという。
昨年のアメリカ合衆国国務省の報告では、「政府が関係したシーア派民兵組織が引き続き強制的にスンニ派を追いやっている」との、スンニ派職員による懸念が引用されている。
報告では「バグダッド北部の地域でスンニ派が手当たり次第に逮捕」され、ダーイシュとの関係を疑われて勾留されているという、職員による説明が引用されている。
ハバーシュがあるサラハディン州の職員は、ダーイシュのジハーディストについて言及することなく、「安全上のリスク」が再建を遅らせていると説明した。
ハバーシュは政府の管理下にあるが、過激派はわずか15km北でいまだに影響を及ぼしている。
ビルアフメッド村へ続く道では、ハシド・シャービの軍隊(シーア派が率いるかつての非合法軍事連合で、現在はイラク国家安全保障機構に統合されている)が警備をしている。
「ビルアフメッドはわれわれの手に負えない状況です。中には入れますが外に出られるかは保証できません」と高官は述べた。
AFP