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アブラハム合意2周年 アラブとイスラエルの国交正常化のコストとメリット

アブラハム合意に署名する、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、米国のドナルド・トランプ大統領、UAEのアブダッラー・ビン・ザーイドアール・ナヒヤーン外相。2020年、ホワイトハウス。(AFP)
アブラハム合意に署名する、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、米国のドナルド・トランプ大統領、UAEのアブダッラー・ビン・ザーイドアール・ナヒヤーン外相。2020年、ホワイトハウス。(AFP)
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17 Sep 2022 01:09:55 GMT9
17 Sep 2022 01:09:55 GMT9
  • イスラエルは、UAEとの協定の一環として、占領下のパレスチナ地区の併合計画の保留を約束した
  • 2年経った今、合意の調印者でさえイスラエルの行動が良い方向に変わっていないのではないかと疑っている

ルーカス・チャップマン

ワシントンD.C.:2年前の今週、UAEとバーレーンは、ホワイトハウスでの式典においてドナルド・トランプ米大統領(当時)の立ち会いのもとで「アブラハム合意」に署名し、前月にイスラエルとの間で達していた和平合意を正式なものとした。

2020年9月15日、UAEのシェイク・アブダッラー・ビン・ザーイド外相、バーレーンのアブドゥルラティーフ・アル・ザヤーニ外相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ元首相がこの文書に署名すると、その瞬間は中東外交の新時代の始まりとして歓迎された。

イスラエルは合意の一環として、占領下のパレスチナ地区の併合計画を保留すると発表した。シェイク・アブダッラー外相は、UAEは二国間解決へのコミットメントを続けると述べ、パレスチナの大義に対する支持は「揺るがない」と発言した。

2020年10月、経済的・外交的メリットを即座に得られるとの見通しから、スーダンはイスラエルとの国交を正常化した。2021年1月にスーダンはアブラハム合意に署名したが、これは同国が米国のテロ支援国家リストから削除されたのとほぼ同時期だった。

モロッコはスーダンの2ヶ月後にイスラエルとの国交を正常化した。2021年11月には、イスラエルのベニー・ガンツ国防相とモロッコの国防相が安全保障協定に署名した。イスラエルは国交正常化と引き換えに西サハラにおけるモロッコの主権を承認した。

ホワイトハウスの芝生の上で行われたアブラハム合意調印式から2年が経過した今、各二国間関係への影響や、誰が最大のメリットを得たかなど、合意がもたらした結果のいくつかを論理的かつ公平に評価することができるようになった。

イスラエルとアブラハム合意調印国は、外交関与や経済協力の他に、エネルギー、農業、観光、安全保障、技術革新など、数多くの共通利益に関して提携することが期待された。

合意締結以降、イスラエルとバーレーンの政府関係者は公的に相互交流を行っている。イスラエルはバーレーンからのアルミニウム輸入を開始した。また両国は、海路でバーレーンに到着した貨物をイスラエル行きの航空便に積み替えることができるようにする協定を締結する予定だ。

ネゲブ・サミットのために到着したバーレーンのアブドゥルラティーフ・ビン・ラーシド・アル・ザヤーニ外相を迎える、イスラエルのヤイール・ラピード外相(左)。2022年3月27日、南部のネゲブ砂漠のスデ・ボケル。(AFP/ファイル写真)

昨年には、イスラエルのヤイール・ラピード首相(当時は外相)がバーレーンへの初の閣僚訪問を行い、マナーマのイスラエル大使館を落成させた。今年2月には、ガンツ国防相がバーレーンに公式訪問した初めてのイスラエル国防相となった。この訪問には、イスラエル海軍長官を含むトップの軍関係者や治安当局者が数人同行した。

ガンツ国防相とバーレーンの国防相は基本合意書に署名し、「情報活動の連携、演習の枠組み、両国の防衛産業の協力などの推進に寄与する」とイスラエル国防省が主張する安全保障関係を正式なものとした。

ガンツ国防相の訪問は、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊が隔年で実施している国際海上訓練の2022年版の開始に合わせて行われた。イスラエル海軍はこの演習に参加したが、同国が外交関係を持たないアラブ諸国・イスラム諸国と共に訓練に公式参加するのはこれが初めてだった。

モロッコとイスラエルは現在、教育、観光、越境投資、再生可能エネルギー、安全保障などの分野で協力を行っている。モロッコはユダヤの伝統が強く、多くの歴史的なユダヤの建築、遺跡、墓地のほか、アラブ最大のユダヤ人コミュニティーを有する。一方のイスラエルには、世界最大の国外居住モロッコ人コミュニティーの一つがある。

イスラエルの地中海沿岸都市テルアビブで行われた公式式典の際に撮影されたイスラエルとモロッコの国旗。(AFP)

モロッコのイスラエルとの貿易額が前年比84%増の4160万ドルを記録したことを、両国は新たな有益な貿易関係の始まりであると両国は見ている。イスラエルの技術的ノウハウと、アブラハム合意のパートナー国であるバーレーンおよびUAEの資本が組み合わせることで、化石燃料以外への多角化を図るモロッコの動きを加速できるだろう。

対照的に、イスラエルとスーダンの間の協定は、政情不安や2021年10月のクーデターのためにまだ完全な実現には至っていない。5月には、バイデン政権がスーダンへの開発・貿易・投資支援を停止した。これには、イスラエルとの国交正常化協定に関連した小麦出荷などの食料援助も含まれていた。

予想通りではあるが、イスラエルとUAEの間の貿易・通商は2年前の国交正常化以降盛んになっている。今年5月には、両国は包括的経済連携協定に署名した。この協定は、5年以内に二国間貿易額を100億ドル以上にまで増加させ、2030年までにUAEのGDPに19億ドルを上乗せすることを見込んでいる。

6月27日には、アミル・ハイエク駐UAEイスラエル大使がツイッターへの投稿で、今年最初の5ヶ月における両国間の貿易総額が、昨年同期の3億9950万ドルから増加して9億1210万ドルに達したことを明らかにした。

ユダヤ人入植に反対するデモの最中、国旗を掲げてイスラエル治安部隊と対峙するパレスチナ人やその他の活動家たち。(AFP)

イスラエルとUAEは過去2年間に、医療、二国間投資、宇宙旅行などの分野においても数十億ドル規模の契約を結んでいる。

7月には、米国、イスラエル、UAE、インドが新たなブロック「I2U2」の結成を発表した。これは、地域における技術提携の強化や、水、エネルギー、輸送、宇宙、健康、食料安全保障の6つの主要分野における国境を越えた課題への対処を目的としたものだ。

UAEとイスラエルの間の観光も2020年以降急速に拡大している。2020年11月から両国間の商用航空便が就航し、翌年にはデイリー便が導入された。アラブからの観光客をイスラエルに引き付けることを目指す観光ウェブサイトは、アル・アクサモスク、エルサレムのイスラム教徒地区、イスラム美術博物館への訪問を勧めている。

逆方向の観光客の流れははるかに大きくなっている。2020年と2021年には、パンデミックによる制限にもかかわらず約23万人のイスラエル人がUAEを訪れた。

イスラエルのアイザック・ヘルツォーク大統領(左から2番目)を迎える、アブダビのシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子(当時)(左)。2022年、アブダビ。(AFP)

しかし、イスラエルとUAEの間の観光客の増加は、2つの社会を隔てる大きな溝を顕にした。8月、アラブとイスラエルの多数の報道メディアが、テルアビブでの銃撃事件を受けてイスラエル警察がUAEからの観光客2人を短時間拘束したと報じた。

この2人は釈放され、逮捕した警察官から謝罪を受けた。しかし、多くのSNSユーザーから、イスラエル警察は人種差別的な取り締まりを行ったのではないか、2人はパレスチナ人と間違われたのではないかという声が上がった。あるツイッターユーザーは、「イスラエルは常にアラブ人を容疑者であるかのように扱う」と書いた。

アラブ諸国との国交正常化合意が、イスラエルで権力を握る強硬派がパレスチナ人やエルサレムの聖地に対してより理性的な立場を取るきっかけになることを世界中のアラブ人が疑問視しているが、UAE人が拘束されたとされる上述の事件だけがその理由なのではない。

サウジアラビアの元情報局長であり、駐イギリス大使と駐米国大使も務めたトゥルキ・アル・ファイサル王子は、アラブとイスラエルの国交正常化努力がパレスチナ人の権利の向上につながることに疑念を表明した。

同王子は5月、アラブニュースのトーク番組「フランクリー・スピーキング」で次のように語った。「パレスチナの人々は依然として占領下にある。今でもイスラエル政府に囚われているのだ。パレスチナ人を標的とした攻撃や暗殺が毎日のように行われている」

「イスラエルとUAEの間の和平(協定)への署名国にイスラエルが与えた保証にもかかわらず、パレスチナ人の土地をイスラエルが盗んでいる状態が続いている。だから、イスラエルに対するいかなる譲歩によっても彼らの態度が変わる兆候はないのだ」

7月には、UAEの研究者アブドゥルカレク・アブドゥラ氏が、ワシントン近東政策研究所がアラブ諸国の国民を対象に実施したアラブとイスラエルの国交正常化についての意識調査を引用して、UAE国民は国交正常化プロセスを否定的に見ていると指摘した。2022年に実施されたこの調査では、関係改善が好ましい影響をもたらすと回答したのは、調査対象となったUAE人のうち4人に1人だけだった。

ユセフ・アル・オタイバ駐米UAE大使は、アブラハム合意への署名に至るまでの間に、イスラエルのニュースウェブサイト「Yネットニュース」にこう書いている。「UAEやアラブ世界の大半の人々は、イスラエルは敵ではなくチャンスであると信じたいと思っている。我々はあまりにも多くの共通の危機に直面しており、より温かい関係に大きな可能性を見ている。併合に関してイスラエルがどのような決定を下すかは、この問題に対する同国の見方が変わったかどうかについての明白なシグナルになるだろう」

はためくUAEとイスラエルの国旗。2020年ドバイ万博にて。(AFP/ファイル写真)

合意から2年、ガザ地区に対する2回にわたる軍事攻撃を経た今となっては、アブラハム合意のもとでの国交正常化の取り組みがイスラエルの行動を変えたという幻想を抱いているアラブ人はほとんどいない。ましてや、イスラエルがパレスチナ人の土地を併合するという政策を終わらせたなどとは誰も思っていない。

エルサレムの聖地の神聖への侵害の停止、暴力の停止、平穏の回復を求めるアラブ連盟による繰り返しの呼びかけにも、イスラエルは聞く耳を持っていないようだ。

イスラエル治安部隊がアル・アクサモスクにおいてイスラム教礼拝者を攻撃し、ユダヤ人の礼拝を許可したことは、世界中のイスラム教徒に対する目に余る挑発であるとアラブ連盟は見ている。

アル・オタイバ大使は、シンクタンク「アトランティック・カウンシル」がアブラハム合意2周年を記念して9月8日に開催した討論会において、イスラエル・パレスチナ紛争の二国間解決を前に進めるためにさらなる努力が必要だと訴えた。

同大使はバーチャルで行われたこのイベントにおいて、「我々が今話していいることは全て大事なことだ。しかし、二国間解決について話すことは決して避けられない」としたうえで、パレスチナ人の問題は「部屋の中の象(見て見ぬ振りをされている問題)」だと表現した。

同大使はアブラハム合意に触れる中でこう述べた。「この合意は解決を意図したものだったとは思わない。外交が二国間解決に取り組む余地を作り出すための場所と時間を確保することを意図したものだったのだと思う。私は今でも二国間解決が唯一の選択肢だと信じている。これを追求する必要があると思う」

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