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イランの粘り強い抗議運動にとってリーダーの不在は絶望的か

専門家らはアラブニュースに対し、イランで拡大中のデモにとって中心的リーダーの不在は「良くもあり悪くもある」と語る。(AFP/ファイル写真)
専門家らはアラブニュースに対し、イランで拡大中のデモにとって中心的リーダーの不在は「良くもあり悪くもある」と語る。(AFP/ファイル写真)
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29 Oct 2022 11:10:42 GMT9
29 Oct 2022 11:10:42 GMT9
  • 「マフサ・アミニ革命」は体制がこれまでに直面した中で最も大規模かつ広範な抗議運動となっている
  • 抗議運動にとって明確なリーダーの不在は「良くもあり悪くもある」と専門家は言う

アレックス・ホワイトマン

ロンドン:マフサ・アミニさん(22)が体制の悪名高い道徳警察の拘束下で死亡した事件以来40日間にわたってイラン全土を揺るがしているデモは収束の兆しを見せていない。しかし、この運動が真の変革を実現できるかどうかについての専門家の見方は分かれている。

過去20年間、反政府デモの波が何度もイランを揺さぶってきた。1999年には新聞「サラーム紙」をめぐるデモの中で学生7人が死亡した。2009年の「グリーン・ムーブメント」では治安部隊によりデモ参加者72人が殺害された。

2019年の燃料・ガソリン危機の時は20万人が街頭に繰り出した。人権監視団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、死亡者は少なくとも143人に上った。

しかし、ヒジャブ着用についての国の厳格な規則に違反したとしてアミニさんが警察に拘束され死亡した事件に端を発した今回のデモはこれまでとは大きく違う。体制によるいつもの強圧的な対応が彼らの勢いを弱らせることができていないのだ。

イギリスの学術誌「クリティーク」の編集者でイラン政治専門家のヤサミン・マザー氏はアラブニュースに対し、「2009年のデモ参加者の多くは中産階級だった。2022年のデモには労働者階級や下位中産階級が参加している」と指摘する。

「だから、2009年と比べるとデモへの参加人数が多く、また参加者がより若く勇敢になっている。治安部隊の攻撃にも怯んでいないようだ」

「これに匹敵するのは1979年のデモくらいだ。このようなデモが、前例のない規模の労働者のストライキや全般的な騒乱と同時に起こっている。弾圧、インターネットの遮断、デモ参加者の逮捕・殺害、いずれも功を奏していないようだ」

イランで今年発生している全国的なデモは数十年で最大のものだ。(AFP)

実際、本記事執筆時点では、反政府グループが「マフサ・アミニ革命」と呼ぶ今回のデモは、1979年の革命で現体制が権力を握って以来、最も大規模で、最も激しく、最も多くの犠牲を伴う抗議運動となっている。

全国80都市以上でデモが発生しており、性別、年齢、民族的背景を問わず様々な人々が参加している。これらのデモの中で、これまでに学童を含む200人以上が死亡している。

当初この運動が主に問題にしていたのは体制が女性に課す厳格な服装規定だったが、その後より幅広い市民的自由の要求へと広がり、やがて聖職者体制の完全な廃絶を求める大合唱へと至った。

「チャタムハウス(王立国際問題研究所)」副所長で、同研究所の中東・北アフリカプログラムの上級研究員であるサナム・ヴァキル氏はアラブニュースに対し、今回のデモは体制がこれまで直面した中で「最も重大な」ものだと語る。

「政府による弾圧にも関わらずデモが粘り強く続き、女性、学生、労働団体、民族集団、若者たちなどの無数のグループが出てきて怒りを表明していることは、イラン国内の不満の広がりを物語っている」

「これらのグループは今のところ融合していない。このような分散型のアプローチも今回のデモの際立った特徴だ」

ヴァキル氏とマザー氏は、このような分散型のアプローチは「良くもあり悪くもある」と口を揃え、デモが続くにつれ中心人物の不在が問題となってくるのではと懸念する。

ガソリン価格値上げに抗議するデモの最中、炎上するバイクの周りに集まるデモ参加者たち。2019年11月16日、イラン中部の都市イスファハン。(AFP/ファイル写真)

「連携や組織の不在は、デモが激化し弾圧が強まるにつれ深刻な問題になりかねない」とマザー氏は言う。「(政府に対する)代替案が無いことは問題だ。デモ参加者の中から進歩的なリーダーが自然発生的に出てくるという考えは私は信じない。これまでのところそれは起こっていない」

運動を指揮するリーダーがいることの利点は、その人物が大勢を代表して運動の目的を明確に表現できるということだ。対照的に、現在のデモは革命というよりは大衆の怒りの爆発であり、最終的に尻つぼみになってしまうように見える。

「協力・平和構築研究センター」の共同設立者であるダニア・コレイラト・ハティブ氏は、リーダーの存在はいくつかの重要な方法で社会運動を強化できると語る。

同氏はアラブニュースに対し、「リーダーがいれば単なる怒りを超えたところまで行ける」と語る。しかし、人々は「このような運動には時間がかかることを忘れ」がちだという。成功した反政府運動は通常「少なくとも2年」を要している。

ヴァキル氏も、リーダーを見つけ出すには「時間がかかる」ことに同意したうえで、潜在的なリーダーを狙ったイラン体制による「効果的な」投獄、追放、口封じによって抗議運動がさらに妨げられていると指摘する。

ある意味では、明確なリーダーの不在は強みにもなり得る。体制内には「改革派」指導者たち、すなわち、今の政府関係者を何人か追い出し評判の悪い社会的規則をいくつか緩和することは考えているかもしれないが、最終的には体制とその政策の大部分は変えないままにしておこうと思っている者たちがいるが、マザー氏の見方では、分散型のアプローチによって、そのような者たちがデモを抑制することが非常に難しくなる。

チャタムハウスの準研究員で、同研究所の中東・北アフリカプログラムの元代表であるナディム・シェハディ氏は、リーダーを立てることは運動にとって有害だと考える。

マフムード・アフマディネジャド大統領の就任式に対する抗議デモでスローガンを叫ぶイランのデモ参加者たち。2009年8月、テヘラン。(AFP/ファイル写真)

同氏はアラブニュースに対し、「リーダーを立てることは、体制の強化につながる大きな間違いだと断言したい」と語る。「一人の人物を射殺することは非常に容易だ。そしてそれによって体制は強化される」

「私は2011年にも同じことを言った。国際社会がシリアに信頼できる反体制派を必死に作ろうとしていた時だ。それは反体制派に対し、生存能力、強さ、正統性、リーダーシップを証明する責任を負わせるものだ」

「イラン体制を弱らせるのは、支配を認めない分散化され一般化された反対運動だ。支配が不可能であることを強調し続けることが大事なのだ。個人をリーダーに立てれば彼らは負け、体制が笑うことになる」

ニューヨーク大学の歴史学者で『影の司令官:ソレイマニ、米国とイランの世界的野心』の著者であるアラシュ・アジジ氏は、リーダーは不要だとの意見に同意しつつも、強力な治安部隊と人口の約15%が支える「超中央集権的な」体制と闘うためには「組織とリーダーシップ」が必要だとも思っている。

同氏はアラブニュースに対し、「運動には、個々をつなぐ結節点を持った組織が必要だ」と語る。「それはイラン国内でも発生するかもしれないが、難しいだろう。しかし、国外のイラン人リーダーたちが争いをやめて団結すれば、国外から作ることもできる」

「これらの人々はイラン国内にアクセスできる。反体制派が団結すれば毎晩テレビに登場できるかもしれないのに、彼らはまだこの機会を掴んでいない。6週間経った今、彼らがこのことを問題として認識することを期待する」

チャタムハウスのシェハディ氏は、デモがどれだけ続くかは「はっきりしない」がそれはデモ参加者たちだけでなく体制の手にもかかっていると指摘し、いくつかの例に言及した。エジプトのホスニ・ムバラク元大統領は11日間のデモを受けて辞任した。リビアのムアンマル・カダフィ大佐は殺害された。シリアのバッシャール・アサド大統領は「国を炎上させる」ことで応え、今に至るまで政権に留まっている。

イラン西部のクルディスタン州にあるアミニさんの地元サケズのアイチ墓地に数千人が向かう中、頭を覆わずに自動車の上に立つ女性。2022年10月26日にツイッターに投稿されたとされる一般ユーザー撮影画像より。(AFP)

協力・平和構築研究センターのハティブ氏は、アサド大統領に関してはより慎重に「終わりは時間の問題」と主張しつつも、激しさを増す残虐行為にイランのデモ参加者たちが耐えられるかどうかが重要になると言う。

シェハディ氏もそれに同意し、デモ参加者たちは「非常に多くの死に耐える」ことができなければならないだろうと語る。また、体制の無制限の暴力は国際社会がそれを容認していることに起因していると指摘する。「国際社会が暴力に非常に寛容になれることを我々はシリアで目の当たりにしてきた」

「全てはデモ参加者たちのスタミナにかかっている」と同氏は言う。「彼らが持ちこたえられるとは思えない。この体制は極めて残虐に振る舞う意志があることを示しているからだ。体制が異なる派閥を団結させることができればデモは負けてしまうと思う。ただ、その頃には体制の終わりは時間の問題となっているだろう」

デモが変化を実現する仕方についての意見は分かれているものの、アラブニュースが話を聞いたアナリストは全員、体制に亀裂が入りつつあるようだという点では一致している。ハティブ氏は、イスラム革命防衛隊(IRGC)と国家安全保障最高評議会との間の相違を強調する。

「これらの権力の中枢の間で争いが起こる可能性が高いと思う。特にハメネイ師の後継者が決まるまではそうだ。同師は息子のモジタバ師を後継者として推しているが、彼は非常に不人気だ」

アジジ氏は、ハメネイ師が推しているというのは単なる憶測だとしつつ、モジタバ師がIRGC内での支持を確立しつつある兆候が見られると指摘する。「ただ、ハメネイ師がいなくなったらIRGCはその息子を必要としないかもしれない」

アジジ氏、マザー氏、ヴァキル氏は、デモをどう扱うかについて体制内に分裂が生じているという点でも同意している。強硬派は妥協を弱さと見なし、国を破壊することになるとしても強圧的なアプローチをさらに強化する決意を固めている。

「(アリー・)ラリジャニ氏のような実利的な改革派は、社会的な問題に対する妥協を、失われた政府の正統性を回復する手段と見なしている」とヴァキル氏は言う。「しかし、これらの問題への対処の仕方についてのコンセンサスがなければ政治的停滞が起こり、デモが優勢になるだろう」

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