
ナジャ・フーサリ
レバノン:大晦日を迎えたレバノン国民は、この国が政治経済の危機を深めたこの一年を振り返り、2022年を機会損失の年と評している。
1月にはサアド・ハリーリ元首相が「未来運動」党と共に政治生活から引退した。
ハリーリ元首相は、「イランの影響、国際的混乱、国の分断を考えれば、レバノンにはいかなる前向きな機会の余地もない」と述べていた。
ハリーリ元首相の引退がおよぼした影響の一つは議会のスンニ派議席に空白ができたことで、その結果として国政におけるスンニ派の役割は最小限となった。
1月末には、ナジーブ・ミカティ首相率いる内閣が招集能力を再獲得した。ヒズボラとアマル運動がその強力な議会外運動を通してベイルート港爆発事故を担当する司法捜査官の活動を停止させることに成功し、再び政権に参加した後のことだった。
政府は、政令と法案を施行する権限と能力を持っていたにもかかわらず、国際通貨基金(IMF)と合意した復興計画を実行に移す機会を掴むことができなかった。
必要とされている改革の大半、特に金融危機の解決に関連した改革は、以前として実行に移されていない。
内閣は、銀行再編戦略の承認、銀行秘密保持法の改正、金融犯罪の摘発・捜査、資産の回収、レバノン中央銀行(BDL)の国外資産への特別監査の実施などを実行に移す必要があった。
しかし、議会は2022年修正予算を承認しただけだった。BDLは為替レートを統一するための手続きを開始した。
ミカティ政権の唯一の実績は5月に議会選挙を実施したことだ。
この選挙では、国外居住者の票が急増することでヒズボラとその同盟者の覇権に終止符が打たれることを多くの人が期待していた。
この選挙では、2019年の抗議運動出身の無所属議員13人が初当選し、そこから起こる変化に一縷の望みがかけられた。
ところが、この「チェンジ」陣営はすぐにつまづき、その議員らは分裂した。
議会はその後、新大統領を選出することができなかった。
2022年には、シリアとの国境における物資、燃料、医薬品、小麦などの密輸や、「死のボート」と呼ばれるようになった欧州に向けた違法な人身売買が急増した。
今年起きたそのような悲劇で最大のものは、ボートが転覆し子供を含む22人が死亡した4月23日の事故だ。
議会選挙の後、ミカティ首相は新政府組閣を指示されたが、ヒズボラとその反対勢力の政治的相違の打開策を見出すことができなかった。
そういった失敗の中、レバノンは10月27日、米国のアモス・ホッホシュタイン氏の仲介のもとでイスラエルとの間に海上国境画定に関する合意を結んだ。両国はヒズボラの承認を得て、係争中だった海域を分割した。
8月以降は銀行襲撃が相次ぎ、3年前に預金を差し押さえられた人々が銀行員や客を人質に取った。
銀行を襲撃した人々の中には、レバノン議会の女性議員、若い女性、高齢の女性、何人かの現役兵士もいた。彼らが預金の引き出しを要求したのは、医療費、子供の教育費、がんを患っている親族の治療費などのためだった。
金融危機の悪化により、軍や治安当局は同盟国からの援助を待つことを余儀なくされた。
裁判官らは給与が下がったことに抗議して初めてストライキを実施した。
このストライキが年末まで続いたことで、検察庁の機能が停止し治安当局が逮捕を実施できなくなり、国家機関の崩壊は新たな段階に至った。
ヒズボラ支配地域では武装衝突が発生し、南部の国境近くの町ルメイシュのキリスト教徒の土地に施設を建設しようとしたヒズボラの試みが阻止された。
南部の町アル・アクビヤで国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)の車両が銃撃され、平和維持活動に従事していたアイルランド軍兵士が死亡した事件以降は特に、ヒズボラに対する国民の批判が高まった。
ヒズボラは銃撃の容疑者を治安当局に引き渡したと発表したが、攻撃を指示したことは否定した。
電話・インターネットサービスの料金や国の電気料金に新たな税金が課された。電気は完全に遮断されていた。
人々は街頭に繰り出し、インフレによる賃金低下に抗議した。闇市場の為替レートは1月には1ドル2万5000レバノンポンドだったが、現在は5万レバノンポンドになっている。
BDL、土地登記所、自動車登録局を含む公共部門の汚職捜査が始まり、数十人が逮捕された。
6年間にわたり論争にまみれたミシェル・アウン元大統領の任期が10月30日に終了した。
それ以降、議会は投票を10回行ったにもかかわらず新大統領を選出できずにいる。
当局が候補を承認しなかったため、ヒズボラとその同盟者は白票を投じたり活動を妨害したりした。
12月には、自由愛国運動(FPM)が違法と見なした閣議に閣僚らが参加したことから、FPMとヒズボラの間で政治的論争が発生した。
この論争の影響はまだ続いており、ヒズボラの大統領候補選択に影響を与える可能性がある。
ベイルート港爆発事故に関する調査は依然として停止しており、司法が妨害される事態が続いている。また、レバノンには今でも100万人以上のシリア難民が暮らしている。
2022年、レバノンは夏季を中心に100万人以上の観光客を呼び込むことに成功した。
ダンスグループ「マヤーズ」が米国のコンテスト番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で優勝し、レバノン国民は喜びに沸いた。この国の将来に多くの人が疑問を抱いている中、彼女たちの優勝は国民が大いに必要としている愛国心を与えてくれた。