



ラワン・ラドワン
ジェッダ:2022年が終わると、多くの人々が安堵のため息をついた。コロナ禍以後の疲弊、地政学的緊張、世界経済の不安定さなど、昨年の困難を挙げるときりがない。
昨年の変動と動揺がもたらした結果の一つに、社会全体に蔓延した怒りがある。政府や国際機関が解決策を見出せないような危機の連鎖に人々が辟易しているのである。
アラブ世界も例外ではない。アメリカの世論調査企業ギャラップ社が毎年発表している『Global Emotions Report』では、中東の3カ国が世界で最も怒れる国のひとつに選ばれている。これは、社会経済的な圧力と制度の不備が重なって、怒りを誘発していることが大きな原因である。
世界経済がコロナ禍を受けてのロックダウン、サプライチェーンの混乱、移動制限から回復しつつあるように見えた矢先、ウクライナ戦争によってインフレが急進し、食料・燃料価格の高騰が世界の最貧困層に重くのしかかった。
さらに、政情不安や、汚職、気候変動の影響も加わり、昨年は当然ながら、世界中の何百万人もの人々の間で、不安が募り、人心が荒み、暴動が起きた年となった。
物価の変動、気候変動、長引く政治危機が深刻な問題となっている中東と北アフリカでは、国民の間で怒りが広範囲にわたって存在し、なおも高まりつつあることがギャラップ社の世論調査で明らかになっている。
ギャラップ社が世界各国における不幸の度合いの追跡調査を開始したのは2006年のことだった。調査では、122カ国から収集した15歳以上の成人人口から、各国代表として抽出した確率的サンプルを対象としている。
その結果、世界の成人の41%が前日にストレスを感じたと回答しており、ストレス、悲しみ、怒り、心配、身体的苦痛などの集計結果であるネガティブ感情が昨年過去最高を記録した。
さらに、こうしたネガティブな感情は増大傾向にあるとみられ、2021年は2020年を上回る、近年で最もストレスの多い年となった。
過去10年間、アラブ世界では、大規模な抗議運動、政権崩壊、汚職、スキャンダル、戦争、大量移住による混乱が続いており、地域における優先事項や内部の力学に支障をきたしていた。
ギャラップ社の『Global Emotions Report』最新版では、前日に怒りを感じたと回答した者の割合では、レバノンが49%と最も高く、最上位にランクインした。
2019年以降、レバノンは過去最悪の金融危機に見舞われており、通貨価値が95%下落し、国民の多くが貧困ライン以下で生活している。
また、国会が麻痺しており、新大統領の選出に失敗してきたため、レバノンでは、制度的腐敗に対処し、国民の苦しみを軽減するために不可欠な構造改革が実現されずにいる。
レバノンでは、何百万人もの国民が流出してきた。その多くは、2020年8月に起きたベイルート港の爆発事故のトラウマをなおも引きずっている。出国者の中には、劣悪な環境と機会の不足に嫌気がさした、数多くの若者や熟練労働者も含まれている。
ギャラップ社の怒りランキングでは他にも、2021年10月の議会選挙をきっかけに1年間もの政治的麻痺に直面したイラクが4位(46%)を占め、根強いインフレに悩まされているヨルダンは6位(35%)であった。
ヨルダンは近年、生活費の高騰と高い失業率を受けての抗議行動の波に幾度か見舞われており、事態はコロナ禍とインフレによって悪化している。
ギャラップ社 World Poll News のマネージング・ディレクター、ジュリー・レイ氏は、レバノンが2021年版の結果で上位にランクインしたことは、同国の多層的な危機を考えると、驚きはないという。
「レバノンは政治的、経済的な機能不全に陥っていました。人々は食卓に食べ物を並べるのに苦労し、街に繰り出していました。ギャラップ社の調査でも、レバノンの成人の63%が、できることなら国を出たいと答えたほど、事態は深刻でした」とレイ氏はアラブ・ニュースの取材に答えた。
「『最も怒れる国』ランキングの上位に多くのアラブ諸国があることも、これらの国の多くがほぼ毎年『世界で最もネガティブな国』のリストに入っていることを考えれば、それほど驚くことではありません。
イラクが良い例です。2010年以降、イラク国内の人口の約半数(またはそれ以上)が前日に怒りを感じたと回答しています。そして、イラク国民の大半は多大なストレスや心配を経験しています」
ベイルートにあるカーネギー中東センターのシニアエディター、マイケル・ヤング氏は、多くのレバノン国民が何らかの形で怒りや不満を感じるのは理解できる、と言う。「システムはいなかるレベルでも機能していない」からだ。
「人々は常に搾取されていると感じています」と彼はアラブ・ニュースに語った。「体制は完全にカルテルに支配されています。国民が国家に何かを求めようとすると、五分五分で、国家はそれに応えることができません。
「だから、レバノン人は日常的に搾取されていると感じています。他国よりも高い税金を納めているにもかかわらず、世界のどこよりもはるかに劣ったサービスを受けているのです。
崩壊後、多くのサービスの質が低下しています。病院、教育、そしてエネルギーをめぐるあらゆるサービスなどです。それを受けて、当然ながら多くの不満が生まれました。本来は中流階級に位置していた人々が突如貧困に陥ったのですから。
それに加えて、2020年のベイルート港爆発事故では、200人以上が死亡し、ベイルートの半分が破壊されましたが、誰も責任を取らなかったのです。このような環境の中で生活していると、怒りが湧いてくるのも無理からぬことです」
このような絶え間ない困難によって、レバノン国民の多くは当然ながら不満を感じている。だが、不満の感情には、それだけでなく期待が重要な要因として働くとヤング氏は言う。
たとえば、レバノンのような国(中所得国でありながら、2019年以降、サービスや政治的安定性が急激に低下した国)を、アフガニスタンのような、半世紀近く戦争による機能不全が続いている貧しい国と比べてみよう。
「アフガニスタンのように、1970年代から絶え間ない紛争に見舞われ、生活水準が急速に落ち込んでいる国ならば、(低い期待度は)無理もありません」とヤング氏はアラブ・ニュースに話す。
「一方、期待度が高いものの、現実がそれを大きく下回る場合、怒りは、期待度が低くてリターンが相対的に低い場合よりも強くなります。
期待度の問題は、レバノン国民の不満の主因です。レバノン国民の場合、馴染んでいた従来の生活が、突如、破局を迎えてしまったのです」
世界で最も腐敗した国の一つであり、2021年8月にタリバンが政権に復帰したアフガニスタンは、ギャラップの世論調査で「怒れる国」として第5位(41%)にランクインした。
ここ数十年、ギャラップ社の世論調査において、回答者のネガティブな感情は着実に上昇している。一見、この傾向をコロナ禍が深刻化させているように見える。しかし、レイ氏が指摘するように、実際には「すべての国が異なる」。
「ネガティブな感情が強い国に共通して見られがちなのは危機です。それが経済的、政治的、社会的なものであれ、国民が何らかの混乱の中で生きているのです。
一方、このデータからは疑問も生じます。それは、不満が解消されない場合、国民がどのように反応するかを、アナリストや政府が予測できるかということです。怒れる国民はポピュリスト政治家を選ぶ可能性が高いのか、あるいは権力者に反逆する方があり得るのでしょうか。
調査のデータは人々の行動を予測するものではありませんが、人々の感情は確実に彼らの行動に影響を与えます」とレイ氏は述べた。
「ギャラップ社外の研究者らは、怒り、心配、ストレス、悲しみなどのネガティブな感情と、市民の不安やポピュリスト的思想や投票行動との間に関係があることを発見しました。
このデータから明らかなのは、政府は、単に国内総生産や市場のデータだけでは、社会福祉の度合いを測ることはできないということです。
「人々の感情は重要なのです」とレイ氏は言う。「指導者らは、これまで追ってきたGDPやその他の指標とともに、感情に関するデータにも注意を払うべきです」