
ラマッラー:イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は27日、議論の的となっている司法改革を延期すると発表した。4月30日の国会再招集まで審議を停止するとしている。この改革案をめぐって国内は混乱に陥っており、司法権掌握の試みだとの批判の声が上がっている。
ネタニヤフ首相は、「対話を通して内戦を回避する機会があるのであれば、私は首相として対話のためのタイムアウトを取る」と述べた。また、司法改革を法制化する決意は変わらないとしつつ、「幅広いコンセンサスを実現するための試み」を呼びかけた。
この発表の後、イスラエル最大の労働組合のトップは、同国経済を停止させる恐れがあったゼネストの中止を宣言した。それに先立ってはクネセト(国会)の外で数万人の国民がデモを行っており、司法改革の阻止を目指す抗議運動が激化している。
この混乱により国の大部分が機能停止している。主要国際空港からの出発便は停止された。ショッピングモールや大学は閉鎖され、外国公館の外交官は仕事を中止し、病院の医療スタッフは救急サービスのみを提供している。
ネタニヤフ首相の計画への抵抗が高まったのは、司法改革の停止を求めた国防相の解任を同首相が決定したことへの怒りを表明するために国内各地で自然発生的に数万人が街頭に繰り出した数時間後のことだった。彼らは「この国は燃えている」と唱えながらテルアビブの主要幹線道路で焚き火をし、この道路や国内各地の多数の道路を数時間にわたって封鎖した。
27日、クネセトの外に再びデモ隊が集まり、国会議事堂と最高裁判所の周辺道路を青と白のイスラエル国旗の荒れ狂う海に変えた。テルアビブやハイファなどの都市でも数千人規模の大きなデモが行われた。
クネセトの外でのデモに向かう人々の流れの中にいたマティヤフ・シュペルベルさん(68)は、「これが独裁への動きを止める最後のチャンスです」と話した。「最後まで闘うためにここに来ました」
ネタニヤフ首相のUターンは緊張をある程度は緩和したようだが、草の根の反政府抗議運動の主催者らは延期では十分でないと言う。
主催者らは、「一時的な凍結では不十分だ。クネセトで法案が否決されるまでは全国的なデモが強まり続けるだろう」と語った。
アラブ系のイスラエル国民はこれらのデモを概ね無視している。彼らに言わせれば、ヨルダン川西岸地区に対する軍事支配や国内でのアラブ人差別によってイスラエルの民主主義は既に失墜している。
あるパレスチナ高官はアラブニュースに対し次のように語る。「我々パレスチナ人の仕事はイスラエル国内の危機を深めることだと私は見ている。つまり、ネタニヤフ首相への反対を支持するのではなく双方を弱らせるということだ。彼らはどちらが最もパレスチナ人に危害を加えられるかを競い合うだろうからだ」
「司法改革問題は国内問題ではない。その目的はむしろヨルダン川西岸地区の支配だ。彼らが最高裁判所の改革を望むのは、それがパレスチナ人に対する人種差別的占領政策のブレーキになっているからだ」
パレスチナ人はイスラエルの騒乱を眺めつつ、その混乱が自分たちに与えるかもしれない短期的・長期的影響について考えている。民主主義と占領は共存できないという認識がこの危機によって高まったという人もいる。イスラエルの治安当局はテルアビブやエルサレムのデモにかかりっきりになっているため、ヨルダン川西岸地区や東エルサレムのパレスチナ人に対する厳しい支配をある程度は緩めるかもしれないという声もある。
このデモがイスラエルを弱らせて最終的にはパレスチナ人の利益につながると信じる人も中にはいる。しかし、この時点でパレスチナの抵抗勢力がイスラエル国内で攻撃を行えば、ネタニヤフ首相とその連立政権の(ベザレル・スモトリッチ氏とイタマル・ベン・グビール氏が率いる)右派パートナーらの政治的苦境から注意を逸らすことになり彼らを利するだけだとの声がほとんどだ。
パレスチナ解放機構執行委員会のメンバーであるタイシル・ハレド氏は、イスラエルの状況はパレスチナ人が新たな政治的アプローチを採用し、イスラエルの占領・差別・アパルトヘイト・民族浄化政策は民主主義の基本的価値観と相入れないという事実を強調することでイスラエルの地域および世界における孤立を深めるための貴重な機会を提供すると語った。
パレスチナ人がイスラエル最高裁判所で言い分を述べて成功するケースは限られており、イスラエル当局がパレスチナの土地をさらに併合するのを防ぐこともできていないものの、もしネタニヤフ首相とその政府が最終的に最高裁判所の実質的掌握に成功すれば、パレスチナ人が駆け込む所はハーグの国際司法裁判所以外には全くなくなってしまう。
パレスチナの政治アナリストであるガッサン・アル・ハティブ氏はアラブニュースに対し、もしイスラエルで政府に対するデモの波が続けばイスラエルの右派を弱らせることになりパレスチナ人の利益につながると語る。
しかし一方で、デモの影響の一つとして、イスラエルの税関職員がストライキを行った結果、ヨルダン川西岸地区とヨルダンを結ぶ唯一の陸路であるアレンビー橋が閉鎖された。そのせいでパレスチナとヨルダンの間の商用車の往来や、ヨルダン川西岸地区を出入りする旅行者の移動が麻痺している。
ネタニヤフ政権がヨルダン川西岸地区やガザ地区において安全保障上の脅威を作り出すような行動を取り、それに対するパレスチナ人の反応がイスラエルの左派と右派を結束させるかもしれないとの懸念がある中、アナリストや専門家らはアラブニュースに対し、現時点でイスラエル治安当局の指導者らがそのような意図的に挑発的な攻撃を行う試みに応じるとは思えないと語る。
退役大佐で元イスラエル国防省アラブ問題担当顧問のダヴィド・ハチャム氏は、ネタニヤフ首相は現時点では自身の苦境から注意を逸らすためにヨルダン川西岸地区に対する軍事作戦を行うことはできないと見る。しかし、もしハマスがイスラエルを攻撃すれば、安全保障がイスラエルの優先事項になって左右の政治家の間の相違が脇に置かれるかもれないという。
イスラエル・トゥデイ紙特派員のダナ・ベン・シモン氏は、ハチャム氏に同意して次のように語る。「(ヒズボラ指導者の)ハッサン・ナスラッラー師や(ハマス指導者の)ヤヒヤ・シンワル氏は現在のイスラエルの混乱を眺めながらこう囁いているだろう。『イスラエルを攻撃することでネタニヤフ首相とその政府に贈り物をするようなことはしない。彼らが勝手に分裂し溺れるがままにしておこう』」
ラマッラーの人権団体「アル・ハーク」の責任者であるシャワン・ジャバリン氏はアラブニュースに対し次のように語る。「パレスチナ人はイスラエルの危機を占領の存在とつなげて考えなければならない。イスラエル人はパレスチナ人への対応に関しては右も左も違わないからだ」
ギバット・ハビバ・センターの戦略ディレクターでイスラエル在住の政治アナリストであるモハメド・ダラウシェ氏はアラブニュースに対し、イスラエルに住むアラブ人は司法改革への抗議に参加していないと指摘する。「我々は最高裁判所を信頼していないし、国旗のもとでデモをするようなイスラエルへの愛国心を共有していない」からだ。
イスラエルに住むパレスチナ人は、イスラエルの最高裁判所はアラブ人の市民的問題に関しては比較的リベラルだが、それでもアラブ人に対する人種差別主義や占領を適法としているという意味ではディープステートの一部だと言っている。
もし司法改革が最終的に実行されればイスラエルに住むアラブ人の状況は一層悪くなるだろうとダラウシェ氏は言う。例えば、ナクバについて生徒に教えているアラブ人学校は資金の30%を失うことになるという。イスラエル国会でアラブ政党が禁止されたり、アラブ系国民に恩恵を与えるサービスの予算が削減され入植者や正統派ユダヤ教徒に振り向けられたりすることもあり得る。
アラブ人指導者らも平行して司法改革計画への抗議活動を独自に組織してネタニヤフ首相とその政府への圧力を高めるべきだとダラウシェ氏は言う。「闘わずして権利を放棄することは大きな間違いだからだ」