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イスラエルの入植計画、ヨルダン川西岸地区のユネスコ遺産の生態系を脅かす

段々畑の景観がユネスコ文化遺産に指定されている、ヨルダン川西岸地区のバティール村。(AP)
段々畑の景観がユネスコ文化遺産に指定されている、ヨルダン川西岸地区のバティール村。(AP)
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21 Jun 2023 02:06:40 GMT9
21 Jun 2023 02:06:40 GMT9
  • 住民らは、近くの丘の上でイスラエルの極右政権が入植プロジェクトを進めているため、間もなく自分たちの古来の生活様式が危険に晒されるのではと恐れている

バティール、ヨルダン川西岸地区:エルサレムの南西にあるヨルダン川西岸地区のこの農村では、聖書のダビデ王ゆかりの谷の中で、パレスチナ人が代々、段々畑を耕してオリーブ、果物、豆、そして地域全体で有名な極上のナスを栽培してきた。

しかし住民らは、近くの丘の上でイスラエルの極右政権が入植プロジェクトを進めているため、間もなく自分たちの古来の生活様式が危険に晒されるのではと恐れている。環境団体は、この入植地の建設によって、既に負荷がかかっている段々畑の水源が壊滅的な影響を被り、ただでさえ不安定な生態系に甚大な被害が及ぶ可能性があると警鐘を鳴らしている。

バティールの窮地は、イスラエル・パレスチナ紛争に伴う入植、土地係争、軍事活動などに巻き込まれることで、地域の環境、天然資源、文化遺産がいかに大きな被害を受ける可能性があるかに光を当てている。

バティールで代々農業を営む家系に生まれ育ったラシド・オウィナさん(58)は、計画されている入植地建設は「広大な土地を奪うでしょうし、どこで終わるか分かりません」と話す。「地域社会に精神的、経済的、社会的影響を与えるでしょう」

2つの環境団体「エコピース」と「イスラエル自然保護協会」はイスラエル当局に対し、この計画が丘の下に広がる豊かな段々畑に影響を与える可能性があるとして、計画を中止するよう請願した。

聖書曰くダビデ王がペリシテ人と戦った場所であり、現代文明に侵されていないように見える部分が所々にあるこの谷で、農家は2000年の歴史を持つローマ時代のため池から水を引き、山腹の段々畑で作物を育てている。

最近、岩肌から水が湧き出し、実をつけた桑の木の下の水路を、今は使われていないオスマン時代の線路(かつては段々畑で生産された作物をエルサレムに運んでいた)に向かって流れ落ちていった。

ヨルダン川西岸地区のバティール村で農家が作った作物を売るパレスチナの行商人。2023年6月4日(日)。(AP)

ハル・ギロ入植地の拡張はかなり以前から計画されていたが、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる超国家主義的・宗教的な新政権はこの種のプロジェクトを最優先事項としている。地元の入植者の指導者らはこの計画の実現に向けて強く働きかけている。

文化遺産を担当する国連機関ユネスコは2014年、バティール周辺の曲がりくねった谷にある数千年の歴史を持つ段々畑の景観を世界遺産に指定した。

ユネスコに提出された文書によると、「この給水のための複雑な灌漑システムによって作り出された乾燥した壁の段丘は、古代から利用されていた可能性がある」。「この伝統的な給水システムの一体性は、それに依存して暮らすバティールの家々によって保証されている」

段々畑とそれを守るための周囲の緩衝地帯の間に広がるユネスコ文化遺産の景観は、約10平方キロメートル(3.8平方マイル)の丘と涸れ谷から成っている。谷を縦横に走っている道々には行楽客が置いていったプラスチックごみが散乱している。

代々エルサレムやベツレヘムの市場向け農園となってきたバティールの段々畑は、村の農家が共有する入り組んだ水路によって灌漑されている。アクラム・バデル元村長によると、バティールの住民5000人の約40%は農業に依存して生活している。

「ここでは新しい機械の使用を拒否しています」と彼は言う。「伝統的な農法を守りたいのです」

環境保護活動家らは、段々畑に隣接する緩衝地帯においてイスラエルが計画している入植地建設によって、泉が危険に晒されることになると警鐘を鳴らしている。

イスラエル人とパレスチナ人の共同団体「エコピース」で中東担当ウォーターオフィサーを務める水文学者のナダヴ・タル氏は、「丘の上に大規模な町が建設されれば、この景観は破壊される」と言う。

バティールの麓の谷に点在する泉には地下水が湧き上がっており、その地下水は上の方の石灰岩の丘にしみ入る雨水によって補充されている。「これらの岩の上に町が建設されれば、泉に流れる水が妨げられてしまう可能性がある」

水へのアクセスは、イスラエル占領下で暮らすパレスチナ人にとって既に課題となっており、多くの人が慢性的な水供給不足に苦しんでいる。

イスラエルはパレスチナ領土における水供給の大半を事実上管理しており、領土における主要な水供給源である山岳帯水層からパレスチナ人が取り出せる水の量を制限している。他の場所でも、現代的な建設が行われることでパレスチナ人農家が依存している泉が干上がるといったことが起こっている。

そのうえ、人為的な気候変動により地球の気温が上がることでレバントでは干ばつの頻度が上がると予想されている。また、イスラエル人とパレスチナ人の人口急増により、限られた水資源にさらなる負荷がかかるとみられている。

泉から水を汲むパレスチナ人。2023年6月4日(日)、ヨルダン川西岸地区のバティール村。(AP)

「ハル・ギロ・ウエスト」として知られる将来的な入植計画では、バティールから谷を横切って北に1マイル(1.5km)弱のところにある岩がちな丘の上の開発が予定されている。既存のハル・ギロ入植地を事実上2倍の広さにすることになるこのプロジェクトは、まずはじめに段々畑を見下ろす尾根の上に560戸の住宅を新築する予定となっている。

グーシュ・エツヨン入植地評議会の代表であるシュロモ・ネーマン氏は、この地域、特にハル・ギロでは住居不足が深刻だと語った。また、全ての都市開発は環境を犠牲にして行われるが、ハル・ギロ・ウエストの場合は「自然としての価値がない岩がちな丘」の上に建設されると主張した。

ネーマン氏は、「泉も森も希少植物もない」と言い、環境団体は選択的・政治的な活動をしていると非難した。

さらに、ハル・ギロ・ウエスト計画は「段々畑の近くではないし、近づかない。危害も加えないし、触れもしない」と主張した。

「イスラエル自然保護協会」は請願の中で、この計画は「いかなる環境基準も満たしていない」うえ、標準的な環境評価文書も伴っていないと指摘した。

同協会が現地で夏季に実施した調査では、少なくとも195種の植物、25種の蝶、多数種の鳥(少なくとも3種の絶滅危惧種を含む)、そして絶滅危惧種のマウンテンガゼルや準絶滅危惧種のシマハイエナの生息地であることが確認された。

イスラエル軍のヨルダン川西岸地区における民政担当機関であるCOGATは、既存の計画は「景観へのダメージの最小化やその他の環境問題への配慮」を目指しているとしたうえで、環境団体から提出された異議は検討されると述べたが、それがいつになるかは示さなかった。

イスラエルは1967年の中東戦争の時に東エルサレムおよびガザ地区と共にヨルダン川西岸地区を占領した。パレスチナ人はこれらの領土を将来の独立国家のために要求している。

国際社会の大半はイスラエルの入植地を、イスラエルと共に存続可能なパレスチナ国家を樹立するうえでの障害であると見なしている。現在、東エルサレムおよびヨルダン川西岸地区の数十の入植地に70万人以上のユダヤ人入植者が暮らしている。

段々畑に隣接してイスラエルのヨルダン川西岸地区分離壁を建設するという以前の計画は、野生生物や生態系に影響を与える可能性をめぐって反対の声が上がったため中止になった。

イスラエルの反入植団体「ピース・ナウ」のヨナタン・ミズラキ氏によると、ハル・ギロ・ウエスト計画は複雑な入植承認プロセスにおいて既にいくつかの段階を通過している。

この計画はまだブルドーザーが動き出す前の最終承認を待っているところだが、昨年9月にハル・ギロのための幹線道路拡張が承認されたことからイスラエルがこの計画を進める意図を持っていることが分かると同氏は指摘した。

AP

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