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各国指導者が集う国連総会で露わとなる世界の混乱

ニューヨーク市で開催された国連総会で演説するアントニオ・グテーレス国連事務総長。2023年9月19日。(AFP)
ニューヨーク市で開催された国連総会で演説するアントニオ・グテーレス国連事務総長。2023年9月19日。(AFP)
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22 Sep 2023 12:09:21 GMT9

国連に加盟している193ヶ国の要人が、今週、ニューヨークを訪れて、国連総会の一般討論に参加した。この討論会は、1945年にサンフランシスコでの国連設立以来、毎年恒例となっているものだ。新型コロナ禍による渡航制限が撤廃される中、今年の第78回総会は例年以上の盛況ぶりとなっている。約140人の国家元首や政府首脳が出席し、また、副大統領や副首相、外相に率いられたさらに40の代表団が参加している。会議への招集に応じた数百の組織に加えて、実務レベルの政府機関当局者を代表としてさらに多くの国々も参会を果たしている。非常に多くの著名人の参加しており、それを活かすために数十の重要な付随イベントが開催され、そうしたイベントにおいて多数の重要な演説がこの2023年第3週に行われる。

とはいえ、参加国・組織の数の多さとは裏腹に、超大国間の緊張のために国連が問題を抱えている事実は隠しようもない。例えば、多くの大国の指導者が今年の国連総会の欠席を決めたことは無視し得ない。事実、国連安全保障理事会の常任理事国5ヶ国の内、出席しているのはジョー・バイデン米大統領だけだ。中国やフランス、ロシア、英国という他の4ヶ国の指導者は参加していないのである。

地政学的な混乱は、国連の最も強力な機関である安全保障理事会において最も露わになっている。安保理では、常任理事国の5ヶ国が不都合な決定に対して拒否権を発動できる。これは、常任理事国間の現在の激烈な対立を踏まえると、安保理の機能不全を意味する。

一般討論では、慣習として、ブラジルの代表が最初に演説を行う。米国はその次だ。バイデン米大統領は演説の焦点をウクライナ紛争に置き、演説中にこの問題に約10回言及した。参集した各国指導者らにウクライナ政権を支持するように促すバイデン大統領は、「もしウクライナの分割を受け入れてしまったら、いずれの独立国家も安全とは言えなくなるのではないでしょうか?」と問いかけた。国連の基本原則が無視された場合、「国連のいずれの加盟国も、自らが守られていると確信できるでしょうか?」ともバイデン大統領は語った。米国はウクライナの大義を国連の会合の中心に位置付けようと懸命になっているが、その大義への支持は減退の兆しを見せ始めている。CNNの世論調査によると、米国人の過半数がウクライナへのこれ以上の援助に反対している。この援助への反対の意向は、特に保守層の間で顕著だ。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、壇上に上がると万雷の拍手に迎えられ、ロシアを糾弾し国連総会に集った代表たちに熱烈に助力を求める劇的な15分間の演説を行った。

ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、1939年9月のアドルフ・ヒトラーによる自国への侵攻に言及した上で、ポーランドはウクライナの悲劇を誰よりも理解していると語った。「今日、犠牲者はウクライナです。明日犠牲になるのは、私たちの誰かかもしれません」と、ドゥダ大統領は述べた。同大同僚のウクライナへの熱烈な支持表明にも関わらず、同盟国のポーランドとウクライナの間には、特に穀物輸出危機への対応をめぐって、意見の相違があるとの報道がある。それに加えて、ドゥダ大統領は彼のウクライナ支援に反対するポーランド国内の右派グループ複数からの反対意見の高まりにも対峙している。

アントニオ・グテーレス国連事務総長も、また、ウクライナ紛争について驚くほど強い言葉で意見を述べ、ロシアの行為を批判した。グテーレス事務総長は、ロシアによる侵攻は、「国連憲章と国際法に違反しています。この侵攻により、人命が損なわれ、人権が蹂躙され、家族が引き裂かれ、子供たちが心に傷を負い、希望が打ち砕かれ、恐怖が投網のように広がったのです…。ウクライナに留まらず、この戦争には私たち全員にとって深刻な含意があります。核の脅威は、私たち全てを危険に晒します。国際条約や協定を無視することは、私たち全ての安全を損ないます。国際外交を妨げることは、世界の進歩を妨害することに等しいのです」と語った。

参加国・組織の数の多さとは裏腹に、超大国間の緊張のために国連が問題を抱えている事実は隠しようもない。

アブデル・アジズ・アルワイシェグ博士

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、演説の冒頭の挨拶を、より融和的で前向きなトーンで開始した。ルーラ大統領は、ラテンアメリカの卓越した大統領として、そしてグローバルサウス全体の代弁者としてカムバックを果たそうとしているように見受けられた。2003年から2010年まで、大統領としての最初の2任期に彼が満喫した役柄である。1月の政権復帰以来、ルーラ大統領は、20ヶ国を歴訪し各国の50人の首脳と会談し、「ブラジルが戻って来た」というスローガンを繰り返し、かつての栄光に満ちた役柄を取り戻そうと試みている。これは、ルーラ大統領による自身のかつての役柄に返り咲こうという決意の反映ではあるが、中国と米国の間の地政学的緊張が高まり、ロシア・ウクライナ紛争が継続している現在、時代の趨勢はかつてとは完全に異なるものになってしまっている。ルーラ大統領は、先月の南アフリカでのBRICS首脳会議で、今月初めのインドでのG20で、そして今週火曜日(19日)には再び国連総会において、対立陣営間のバランスを取ろうと尽力し続けている。

ルーラ大統領がこの新冷戦の中でどのようにバランスを取り得るのか、その評価はまだ不明である。しかし、ルーラ大統領が、気候変動対策において、あるいは政府間国際機関や世界経済において、発展途上国により大きな役割を与える事を効果的に提唱している事は事実である。祖父のような77歳のルーラ大統領の言葉は数多くの聴衆の共感を呼び、通常であればロックスターのみに与えられるような好意的な反応をルーラ大統領は享受した。ルーラ大統領の演説は、大国間の対立よりも日々の生活に関心がある発展途上国の代表から特に大きな共感を得た。

旧冷戦時代、米国とソ連の対立は国連を無意味な存在に貶めてしまいかけた。現在、国連は、その経済的、人道的使命を超大国間の緊張した関係から守ることに懸命となっている。国連加盟国の大半を占める発展途上国の国連の援助への依存度は、富裕な国々への依存度よりも高い。そのため、数多の発展途上国は、超大国間の緊張が国連の能力を低下させてしまうことを恐れている。また、国連を頼りとして多様な課題への取り組みを推進している市民社会団体も国連の政治的な機能不全が他分野に波及することを懸念している。これが、国連が対峙している課題なのである。

グテーレス国連事務総長は、世界が「経済・金融システムと貿易関係における決裂へと徐々に近づいています。これは、単一の開かれたインターネットを脅かすものであり、テクノロジーと人工知能に関する政策が分裂し、安全保障のフレームワークが対立する潜在的可能性が発生しています」という警告を発した。グテーレス事務総長は、「機能不全で時代遅れで不公平な国際金融構造」の改革を呼びかけた。

過去に警戒論者であるとして批判を浴びたこともあるグテーレス国連事務総長だが、彼の今年の国連総会での痛烈な発言は会場の多くの人々の心に響いた。演説の中で、グテーレス事務総長は、多くの紛争で市民が軽視され、無視されていることを嘆いた。リビアの壊滅的な洪水に言及しながら、「デルナの人々は、こうした無関心の中心で生活し亡くなっていきました。空から月間降水量の100倍もの雨が24時間で降り、長年の戦争と無視、無為、無策の果てにダムが決壊したのです」とグテーレス事務総長は語った。

  • アブデル・アジズ・アルワイシェグ博士は湾岸協力会議の政治問題・交渉担当事務次長補であり、アラブニュースのコラムニスト。この記事に記載されている見解は個人的なものであり、必ずしも湾岸協力会議の見解を示すものではない。X:@abuhamad1
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