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ガザ地区住民に対する強制退去の策略が明らかとなった時

食料を買うために野営テントの外で待つ避難中のパレスチナ人たち。ガザ地区南部、ハーン・ユニス。(ロイター通信)
食料を買うために野営テントの外で待つ避難中のパレスチナ人たち。ガザ地区南部、ハーン・ユニス。(ロイター通信)
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29 Nov 2023 07:11:40 GMT9
29 Nov 2023 07:11:40 GMT9

殺戮マシンからのほんの数日間の解放を私たちは経験した。しかし、この一時的な停戦の延長を期待する楽観主義と、一層惨酷で恐ろしい流血の連鎖を予期する悲観主義の間で、交渉の任にある人々は前進を希求し、偽善を為そうとする人々は前進しているかのような見せかけを図る。結果として、暫定的な結論があるとすれば、以下のようなものである。

まず第一に、その傲慢な態度と関わりなく、イスラエルもハマスのいずれもが得失点した。イスラエルの観点では、自国の軍事機構が、10月7日のハマスの襲撃により、様々な箇所で不意をつかれたことになる。おそらくはそれを補うために、イスラエルは国民を激怒させ、パレスチナ人の退去とハマスの殲滅を目的とした戦争へと国内世論を扇動するための悪質な世論戦を開始した。しかし、その内容は、国内においても、国際的にも、事実ではないことが明らかとなっている。

さらには、イスラエルは、使用兵器の性能の高さやそれによってガザ地区の罪のない人々に与えた壊滅的な打撃にも関わらず、ハマスやその指導者あるいはハマスの信条や関連組織の破壊を初めとする宣言済みの目標をこれまでのところ達成できていない。

政治的打算の観点からはどうだろうか。イスラエルの新聞マーリヴが定期的に行う世論調査には、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の支持率が低下中である一方、その直接的な政敵であるベニー・ガンツ氏の人気が高まっていることが示されている。最新の世論調査(11月15日、16日に行われ11月24日に集計結果が発表された)によれば、イスラエルの有権者の52%がガンツ氏が政府を率いることを望んでいるのに対して、ネタニヤフ首相の支持を継続する有権者はわずか27%となっている。イスラエル国会の120議席の実勢については、同調査によると、もし現在選挙が行われた場合、ネタニヤフ首相と彼のリクード党が主導する極右連立政権は41議席を獲得するに過ぎず、野党が残り79議席を占める見込みである。

ガンツ氏の国家団結党が単独で43議席を確保し得る一方で、リクード党は18を上回る議席数は確保出来ない模様である。さらには、このマーリヴの世論調査によると、イスラエル政界で最も過激な右派勢力の一角を為すべザレル・スモトリッチ財務相の政党はイスラエル国会での代表権を確保するために必要な閾値となる得票数すら得られそうにない。

パレスチナ側は、ネタニヤフ首相とその連立与党一派の道徳的、政治的挫折の高い代償を払わされている。ガザ地区の人々がこれらの矢面に立って犠牲となっている一方で、ヨルダン川西岸地区も痛手を被っている。武装したイスラエル人入植者と占領軍が、特にジェニンやトゥルカルム、ナブルスにおいて、数百人のパレスチナ人を殺害しているのだ。

ガザ地区においては約5,000人の子供を含む14,000人以上が殺害されている。多くの住民が自宅から退避した。ガザ地区内の都市や難民キャンプの大部分が壊滅的な攻撃を受け、ガザ地区は南北に分断された。こうした状況の展開のすべてが深刻な不安を搔き立てる。

イスラエルは、使用兵器の性能の高さやそれを用いて引き起こした大惨事にも関わらず、ハマスやその指導者あるいはハマスの信条や関連組織の破壊を初めとする宣言済みの目標をこれまでのところ達成できていない。

エヤド・アブ・シャクラ

さらには、10月7日の襲撃以降に展開されたことは反動以上のものであり、復讐以上に恐ろしいものである。パレスチナ人たちにとって追い打ちとなっているのは、イスラエルの「自衛権」を名目としたイスラエルとの連帯表明の国際的な広がりによって、ほとんどの欧米諸国では、イスラエルの圧力団体が10月7日の襲撃を逆手にとったパレスチナ住民の「移送(すなわち大規模な強制退去)」を画策することが可能となってしまっていることである。

こうした圧力団体の攻勢は、2001年9月11日の攻撃を受けた米国にイラクが侵攻された2003年に私たちが目にしたものに酷似している。その当時、ジョージ・W・ブッシュ大統領の米国政府はイラクのサダム・フセイン大統領の政権が9.11の攻撃とは一切無関係であることを認識していた。しかし、米国政府の関係者たち、特にイスラエルのリクード党員の米国版のようなネオコンの政界有力者たちは、イラクが大量破壊兵器を保有しているという主張が、イラクの占領と政権交代の正当化に利用可能であることから、イラク侵攻・占領計画を立案した。これが真実だったのだ。

思い起こしてみると、このイラク占領から最大の利益を得たのはイラン政権だった。実際のところ、バクダッドが米国の手に陥落するやいなや、イランに亡命していたイラクの宗教界や政界、民兵組織の指導者たちが占領下のイラクの首都に群がるように帰還してきたのだった。イラクの連合暫定当局の代表を務めていたポール・ブレマー氏が、イラクにおける「数世紀に及ぶスンニ派支配」を終わらせたと誇らしげに述べるまでに、あまり時間はかからなかった。

ネタニヤフ首相が、10月7日の襲撃後、イスラエルの聴衆に最初に語った演説は、イスラエルの目標はハマスの排除と「中東を変える事」なのだという内容だった。ガザ地区でのイスラエルの軍事作戦が開始されると、右派の閣僚や政治家たちが、ガザ地区住民をエジプトに強制移住させて、その後は世界各国に同地区住民を分散移住させるとの脅迫的な声明を発表した。ヨルダン川西岸地区の住民を強制退去させ、ヨルダンで「もう一つの祖国」を建設するプロジェクトを復活させることを仄めかした右派のイスラエル人たちもいた。

米政権は、イスラエルによるガザ地区への作戦開始時に、イランがハマスの攻撃に関与した証拠はないと言明し、戦闘をガザ地区に限定する必要性を主張した。イラン政府はハマスに対する支持を喜んで表明するだけだったが、レバノンのヒズボラはイスラエルが容認する「交戦規定」にを順守した攻撃を開始した。イラクやイエメンで展開するイランの民兵組織も、また、イラン本国の修辞的な支持を具現化し、いわゆる「抵抗の枢軸」の体面を保つために「問題を引き起こした」。

一時停戦を延長し、ガザ地区の将来のための打開策を見出し、ハマス排除後の統轄責任者を決定するための地域的、国際的な取り組みの最中、ハマスの指導者と、ヒズボラ幹部を含むイラン政権の報道官は、「勝利」のナラティブの喧伝を続けた。そのイランの報道官は、「戦士たちのおかげで、イスラエルは陥落し、私たちはこれまでになく勝利に近づいています。私たちには、パレスチナで何が起きているのか、そしてイスラエル軍が事態の解決のために何を軍事的に為そうとして失敗したのかを知っています」と述べたのだった。

勝利を確定させ取引を待つまでの間に、このように数多くのことが露呈している。

  • エヤド・アブ・シャクラ氏は、アシャルク・アルアウザットの編集長。本稿は、最初にアシャルク・アルアウザットに掲載された。

X: @eyad1949

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