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世界はCOP28で重要な気候ロードマップを考案する必要がある

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01 Dec 2023 05:12:59 GMT9
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先月30日、重要なCOP28気候サミットがドバイで開幕したが、米国のジョー・バイデン大統領や中国の習近平主席といった重要首脳は参加していない。そんななか、その空白を埋める一助となるのが、世界的に力を持つ存在のひとつである欧州だ。欧州は中東開催となる今回のイベントを、2015年のパリ協定の目標達成のための重要な会合と見ている。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長をはじめとするEUの首脳らは、このビッグイベントに力を入れて臨むだろう。

このことは、欧州がこのサミットの大きな利害関係者であるという事実を反映している。まず、EUは気候交渉における3つのビッグプレイヤーのうちの1つとなっていることが挙げられる。これは、EUが1990年に比べて温室効果ガス排出量を約3分の1に削減し、お手本を示してきたことが要因のひとつとなっている。

第2に、EUは2005年に世界初の炭素市場を展開するなど、早い段階からグリーン革命に取り組み始めた影響力のある存在だ。COP28の重要な発表のひとつとして予想されているのが、EU重要原材料法の最終的な成立に続く、新たな国際的「重要原材料クラブ」の設立だ。

第3に、欧州は既存の気候トレンドの影響を感じつつある。世界気象機関(WMO)によると、欧州大陸はこの30年で世界の他の地域に比べて倍以上温暖化しており、全大陸の中で最も大幅な気温上昇に見舞われている。WMOの報告によると、1991年から2021年にかけて世界の温暖化は10年ごとに平均で0.2℃だったのに対し、欧州は平均で0.5℃温暖化している。

欧州の温暖化がこれほど急速に進行している理由のひとつは、大陸のかなりの部分が亜北極帯および北極、つまり地球で最も速く温暖化している地域に属していることにある。さらに欧州は、いわゆる気候フィードバックの変化も経験している。たとえば、夏場に欧州の雲が減り、太陽光と熱が増しているというのもそのひとつだ。

欧州は長きに渡って気候変動への取り組みにおけるリーダーの一角であり続けてきたが、2020年以降の2つのショック(ロシアのウクライナ侵攻と新型コロナウイルス感染症 COVID-19の世界的大流行)によってその野心が削がれたのではないかと推測する向きは多い。これらの影響は非常に大きく、EUのエネルギー安全保障の緊急性は高まった。

このことは、中東を中心とする他の大国とのおよそ120に及ぶエネルギーディールの締結という大きな動きに表れている。これらの協定は、主に新たなガスおよび液化天然ガスをクリーンエネルギーへの移行に向けた暫定的なエネルギー源とすることに焦点が当てられている。

この新たなガスへの投資により、欧州の脱炭素への今後数年の道のりは難しいものになるだろう。しかし、それでもEUは非常に野心的な欧州グリーンディールにいっそう力を入れ、依然として総合的な温室効果ガス排出量の削減を実践している。

EUは非常に野心的な欧州グリーンディールにいっそう力を入れ、依然として総合的な温室効果ガス排出量の削減を実践している

アンドリュー・ハモンド

EUの「2023年版エネルギー連合状況報告書」は、REPowerEU計画および緊急の立法措置がいかにして再生可能エネルギーの推進にも貢献しているかを強調している。さらに昨年のEU全体としての温室効果ガス排出量は、推定で約3%減少した。

EUはCOP28で、全ての参加者に3つの目標を達成するための国際的なエネルギー目標に合意するよう働きかけるだろう。3つの目標の1つめは、化石燃料消費量のピークを2030年までに迎え、未だに減らない世界的な化石燃料の使用に取り組み、公平な移行に役立たない助成金を廃止すること。第2に、2030年代に世界の電力システムを完全、あるいは大幅に脱炭素化し、石炭発電所を新設する余地をなくすこと。そして最後に、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、2030年までにエネルギー効率の改善率を倍にすることである。

欧州がこのように大きな野心を持つよう働きかけているのは、気候外交が直面している現在の課題が原因だ。これはパンデミックとロシアのウクライナ侵攻に次ぐ、陰鬱な地政学的文脈も含まれる。

また、気候問題に対するグローバルノースとグローバルサウス間の緊張も存在する。これは少なくとも一時的には世界の大半のマインドセットを変化させ、2015年のパリサミットで実現したような広範囲に渡る国際協定の再現を思い描くことはさらに難しくなった。

また、これは9月に国連が発表した重要な報告書において、世界は気候変動への取り組みから大きく脱線していると警告がなされたにもかかわらずこの状況になっているのである。この調査では、地球は依然として2.6℃の気温上昇に向かっており、緊急行動を取らなければならないと断言されている。

こうした文脈において、ドバイで新たに国際的な気候宣言が次々に発表される可能性は低いだろう。難しいものになると見られる今回の会合において重要な目標のひとつとなるのは、人類が地球温暖化に取り組むにあたっての「決定的な10年間」とバイデン大統領が称した2020年代の後半に向けてロードマップを作ることだ。

短期的には数多くの課題があるものの、長期的には楽観的な見方ができる余地もある。たとえば、9月に発表された国際エネルギー機関(IEA)の報告では、クリーン電力の目覚ましい成長により、画期的なパリ協定を生かし続けておくためのわずかな「可能性」が残されていると述べられている。

これはとても前向きな話かもしれないが、IEAは世界が1.5℃の温暖化目標を実現させるための可能性をいくらかなりとも繋ぎ止めておくには、2020年代後半により強力な対策が必要であることを強調している。IEAは、国際コミュニティがクリーンエネルギーを十分な速さで成長させられなければ、未だ大規模での使用に関しては効果が立証されていない炭素捕捉や炭素貯蔵といった方策の規模を拡大する必要が出てくると警告している。

そのため、気候関連の重要なステークホルダーたちは、COP28後に2020年代後半に向けたロードマップの作成へと向かうだろう。そこには、効率を最大化させるための国内法を通じた、より強力な気候ディールの導入が含まれる。欧州が示しているように、こうした枠組みはより多くの国で再現可能であり、気候に関する目標が高まるごとに内容を徐々に強化していくこともできる。それが、今後の数十年における持続可能な開発の基盤となり得るものを生み出す一助となるだろう。

  • アンドリュー・ハモンド氏はロンドンスクール・オブ・エコノミクスLSE IDEAS准教授。
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