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ネタニヤフ首相とシンベト長官の解任

イスラエル政府、ネタニヤフ首相の提案でイタマル・ベングビール氏を国家安全保障相に再任する案を承認。(ロイター)
イスラエル政府、ネタニヤフ首相の提案でイタマル・ベングビール氏を国家安全保障相に再任する案を承認。(ロイター)
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23 Mar 2025 05:03:34 GMT9
23 Mar 2025 05:03:34 GMT9

イスラエル政治に退屈な瞬間はない。イスラエル政府によるシンベト(イスラエル治安機関のひとつ)長官ローネン・バー氏の解任発表は、以前から予想されていたことではあったが、このタイミングでの解任はやはり驚きだった。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相は常に、右派の偉大な戦略家でありイデオロギー論者であるという仮面の裏では、国や国民を自分の政治的・個人的野心を満たすための単なる道具としか考えていない、利己的で他人を操る政治家であった。

しかし、彼と側近の政治顧問が、国家安全保障の利益に反する行為の疑惑を含む法律違反の捜査に巻き込まれれば巻き込まれるほど、またネタニヤフ氏自身が汚職事件に関し、法廷で証拠を提出しながらプレッシャーを感じれば感じるほど、民主主義システムの門番に対する彼の攻撃はさらに激しくなっていく。

ネタニヤフ首相がバー長官を解任しようとした理由(まだ法廷で審議中だが)は、この国で最も重要で強力な治安機関のトップに対する「継続的な不信感」だと主張している。もし同長官が公務員でなかったら、おそらくネタニヤフ首相に対する不信感を表明していただろう。確かに、シンベトの責任者の忠誠心は、上司ではなく、国と国民にむけられている。

10月7日のテロを回避できず、致命的な結果を招いた組織のトップとして、バー長官には誠実さと正直さがあった。戦争が終結し、すべての人質がその日までに返還されたら、在任期間終了前に職を辞することを誓った。

彼の行動は、ネタニヤフ首相とは対照的である。同首相は10月7日、イスラエル建国以来1日で最も多くの死者を出したイスラエル人に対する奇襲攻撃について、いまだに何の責任も認めていない。その代わりに、全責任を治安部隊と、醜く恥ずべきことに個人的・政治的敵対者に押し付けている。

特にネタニヤフ首相を苛立たせ、怒らせ、判断力と冷静さを完全に失わせた出来事は、シンベトがイスラエル警察とともに、同首相の報道官2人と元戦略顧問1人に対し、外国企業との金銭的つながりをめぐる捜査を開始するという決定を下したことだ。

そのうちの一人、エリ・フェルドシュタイン首相官邸報道官は、機密情報を漏らして外国の新聞に掲載させた容疑で逮捕された。それは彼が知るはずのない情報であり、停戦協定を弱体化させる意図があったとされている。

ネタニヤフ首相の最も親しい政治家数名に対するこれらの捜査は、これまで以上に首相を動揺させているようだ。

バー長官を解任しようとする数日前、シンベト元長官のナダヴ・アーガマン氏は、イスラエルのチャンネル12のニュースで、ネタニヤフ首相を失脚させるような豊富な情報を持っていると主張し、首相が法律違反したことが明らかになれば、それらを公表すると警告した。ネタニヤフ首相はこれに対し、警察に告訴し、脅迫であると非難した。

ネタニヤフ首相は、周囲が炎上しているのに動揺している場合ではない

ヨシ・メケルバーグ

アーガマン氏の言い方には検討の余地があったかもしれないが、重要なのは、もし本当にネタニヤフ首相について国民の利益になるようなこと、あるいは国家安全保障を脅かすようなことを知っているなら、テレビで発表するよりも警察に通報すべきだったということだ。

しかし、アーガマン氏の現政権、特にそれを率いる人物に対する憤りは、国のために献身するあらゆる階層の多くの人々が抱く同じような感情を反映したものである。

バー長官を交代させようとする理由やタイミングはさておき、法的手続きをまったく軽視していることも重大な懸念材料だ。特に、シンベトが首相官邸での犯罪行為の疑惑を調査している時期に、利害が対立していることを考えればなおさらだ。

ガリ・バハラヴ=ミアラ司法長官は、ネタニヤフ首相が国の安全保障に関わる重大な決定を下す前に、まず同司法長官に相談すべきだと主張している。

残念なことに、同首相は同司法長官の退陣も望んでいる。彼女は、首相を恐れておらず、法の支配の崩壊だけを恐れているからだ。

イスラエルの民主主義を守るという点で、同司法長官はハールレムの洪水が堤防を突き破って氾濫するのを防ぐため、一晩中指で堤防の水漏れを塞いだ神話上の小便小僧にますます似てきている。バハラブ=ミアラ氏の場合、反民主主義的な法律の氾濫、正当な手続きを経ない解雇、職務で必要な資格を持たない人物の政府高官への任命などを防ぐと同時に、政府が法の支配を遵守するよう試みている。

このような戦いによって、次の選挙でもイスラエルに民主主義が残り、たとえボロボロに傷ついても蘇生が可能だと期待されている。

ポピュリスト的権威主義は、ネタニヤフ首相やリクード党内のある種の手法であったが、今や完全に彼らを特徴付け、その行動を支配している。

しかし、ガザでの戦争再開と同様、これはパニックの兆候でもある。

ネタニヤフ首相は、汚職裁判で証拠を提出する際、ますます冷静さと落ち着きを失った。彼は、自分の心の中にしか存在しない「ディープ・ステート(影の政府)」の犠牲者であるかのように自らを演出し、10月7日の失敗について国家調査委員会を任命するという提案をするだけで、目に見えて怒りをあらわにした。報道陣のインタビューを拒否し、ソーシャルメディアや録音された声明を通じて国民とコミュニケーションをとっている。

その結果、野党がこれを利用しないほど愚かであればなおさら同首相はこれまで以上に弱々しく見えるようになってしまった。

ネタニヤフ首相の振る舞いは、政治生命の冬が到来し現実を見失い、パラノイアに陥って、邪魔になると信じる人々を(必ずしも物理的な意味ではなく)排除する権威主義的な指導者たちを思い起こさせる。

ロネン・バー長官解任の動きは、そういった同首相の振る舞いを一層証明するものだが、周囲のすべてが炎上しているのに、彼が動揺することは許されるべきではない。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学の教授であり、チャタムハウスのMENAプログラムアソシエイトフェローである。X: @YMekelberg
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