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9.11から20年、世界経済は今なおその影響を引きずっている

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09 Sep 2021 06:09:21 GMT9
09 Sep 2021 06:09:21 GMT9
  • 金融や航空から貿易やエネルギーに至るまで、世界の資本主義体制に対するアルカイダの攻撃は世の中を一変させる出来事となった
  • 政府の制裁を恐れ、あるいは純然たるゼノフォビア(外国人恐怖症)から、多くの米国人が9.11以降中東とビジネスをすることに消極的となった

フランク・ケイン

ドバイ: 9.11のテロ攻撃の主な標的としてニューヨークの世界貿易センターのツインタワーを選んだアルカイダの首謀犯らは、自分たちのやろうとしていることの重大性を十分承知していた。ツインタワーは米国の巨大なパワーと輝かしい存在感の象徴であると同時に、米国金融制度の世界的支配の象徴でもあったからだ。

ツインタワー内の銀行、投資会社、株式ブローカーたちは世界の資本主義体制を動かしていた。それらを破壊すれば、米国の金融制度の心臓部に大きな一撃を喰らわせることになり、「イスラム世界の統治」への足がかりを作ることになる、それが彼らの狙いだった。

2001年9月17日の取引日開始前、ニューヨーク証券取引所フロアではトレーダーが2分間の黙祷を捧げてから仕事を開始。(File/AFP)

1973年からニューヨークの象徴としてそそり立っていたツインタワーの崩壊による影響は、マンハッタン中心部で瞬時に明らかとなった。その攻撃の3年後、当時のニューヨーク市長だったマイケル・ブルームバーグ氏が調査委員会に次のように語っている:「9. 11のテロ事件はニューヨーク市とニューヨーク州に多大な影響を及ぼした。それによって税収入が2002年には総額およそ30億ドルに落ち込んだ」

ツインタワーでは悲惨な大量殺人が起きていた。投資会社キャンター・フィッツジェラルドは、当時ノースタワーの101〜105階を占有していたが、その日出勤していた全員がこの事件で死亡している。他に、ウォールストリートの名門銀行として名を馳せるモルガン・スタンレーもひどい被害を被っている。

そうした状況の中、経済・金融への直接的影響は暗澹たるものがあった。テロリストたちの目論んだ通り、米国金融制度はまさに硬直状態に陥った。「グラウンド・ゼロ」からわずか数ブロック先のニューヨーク証券取引所をはじめとする米国の金融市場は、直ちに閉鎖された。

2001年9月11日、ニューヨークのワールドトレードセンターにハイジャックされた旅客機が突入。(File/AFP)

米国及び世界の経済活動の大きな部分が、いとも簡単に活動停止となった。航空業界は何日間も米国内で足止めを食い、他の場所でも当然ながら更なるテロ攻撃を回避すべく、最厳重体制の規制がしかれた。その結果、世界貿易及び商取引も落ち込んだ。特に保険業界と金融業界が手ひどい打撃を受けた。

9.11テロ事件の前には一時期健全な様相を呈していた石油市場も、事件後1週間でほぼ半分の収益に落ち込んだ。経済の先行きが全く不透明となったために、石油需要に関する懸念が広がったためだ。同時多発テロに対する米国の軍事報復が現実的となり、中東からの石油供給に対する懸念が広がったため、石油需要が9.11前のレベルに回復したのは2002年の春になってからのことだった。

金融市場の方は、閉鎖を余儀なくされたその1週間後には再開し、当初の取引では10%暴落したが、約2ヶ月後には9.11前のレベルまで回復している。至上最悪のテロ攻撃という状況の下で、市場がかくも短期間で正常化できたのは、おそらく金融制度の回復力を証しするものとみなすことができるだろう。

しかし、長期的な影響のほうがさらに深刻であった。9.11からほぼ8年後、国土安全保障省がこの事件の経済的影響に関する詳細分析を行い、以下のような結論を導いた:「ニューヨーク市で多くの人々が死亡・負傷し、建造物が破壊され、ビジネスが中断したという直接的な被害の他に、『不安要素』が表面化し、また、経済活動を持続させる米国政府の一連の金融財政政策運営が見られた」

『不安要素』はサウジアラビア及び中東経済にとっても直接的な影響として現れている。「米国と湾岸アラブ諸国の間の政治経済関係は、懸念材料はあるものの相互利益に基づくものであったが、9.11のテロ攻撃でそれが根底から揺るがされることになった」と中東の著名な銀行家が述べている。20年経った今もこの事件は人心を刺激しやすいため、彼は匿名希望を希望している。さらに彼も指摘しているように、「米国内では「明らかな反アラブ感情の高まり」が起きている。

米国で、アルカイダのテロリストたちの後ろ盾をした存在を見つけ出そうとする「魔女狩り」が行われたことは間違いない。それによって広範にわたる非難攻撃が起きていった。その対象にはサウジアラビアと湾岸諸国の金融機関も含まれており、ハイジャッカーたちへの資金調達に関与したのではないかという疑いが持たれた。

2001年9月17日取引開始後にダウ工業30種平均株価が500ポイント近く下がり、取引開始後のニューヨーク証券取引所フロアでトレーダーが頭を抱える。(File/AFP)

こうした見当違いの疑惑のほとんどは根も葉も無いものだが、それによって確実に痛手を受けた。米国政府による制裁を恐れ、あるいは「反テロ戦争」が加速度を増す中、純然たるゼノフォビア(外国人恐怖症)により、米国人はしだいに中東とビジネスをすることに消極的になっていった。米国の対サウジアラビア輸出は2002年の最初の9ヶ月間に25%減少した。

それは相互の猜疑心によるものだった。2002年8月、ファイナンシャル・タイムズ紙はこう報道している:「機嫌を損ねたサウジアラビアが、米国から何百億ドルもの資金を引き出し、米国と距離を置こうとする深刻な不快感を示す」

こうした展開は世界の貿易及び資金流通にとっての懸念材料ではあるが、湾岸諸国の経済にとっては直接的な恩恵がもたらされた。中東の資本は、以前は最大の収益を求めて米国へと向けられていたが、それが自国・中東地域内で投資機会を求めるように変化したからだ。

前週のテロリストによる攻撃のためウォールストリートは4日間閉鎖された後2001年9月17日に再開し、ニューヨーク証券取引所フロアでトレーダーが取引半ばで電話で話をする。 (File/AFP)

2001年下旬のアフガニスタン侵攻と、米国を中心とする連合軍による2003年のイラク侵攻にもかかわらず、9. 11のテロ攻撃の直接的影響が中東における金融市場の活況という形で現れた。投資資金は本国へ還元され、緊張の高まる安保状況の中、供給不足への懸念から石油価格が高騰した。

2003年5月にジョージ・W・ブッシュ大統領が米軍航空母艦エイブラハム・リンカーンの甲板上でイラクにおける「任務完了」を宣言した時には、サウジアラビアの株式市場はすでに前年比約12%増という数値をだし、イラク戦争の第一段階が終結する中、同年下旬にはさらなる高収益を達成している。

「アラブと米国の関係は緊張感が高まったかもしれないが、サダム・フセインの排斥は多くの世界の国々にとっての共通の目標であり、中東とその周辺地域における対立抗争を取り除くことはできたと思われる」と前出のバンカーがアラブニュースに語った。

米国主導のもとに中東に平和と自由民主主義の時代をもたらすという望みは、続いて起こった様々な出来事によって、幻想であることがわかった。我々が9.11のテロ攻撃による長期的な経済上の重要性を見出すのはその点にある。

2011年8月5日、ニューヨーク証券取引所正面近くの道路標識。(File/AFP)

ジョー・バイデン大統領が今ようやく終結させたアフガニスタンとイラクにおける「終わりなき戦い」は、中東に人類の終わりなき苦難をもたらした。他のアラブ諸国の政情が不安定化し、2011年のアラブの春の混乱が助長した。しかし、それらは世界経済にも直接的な影響を及ぼしている。

「米国はそのライフスタイルとイスラム諸国に対する政策を押しつけようとして、想像を絶する対価を払うことになった」とアンソニー・ハリス氏は言う。彼はかつて英国の在アラブ首長国連邦大使を務め、現在は湾岸地域ベースのビジネスマンとなっている。

「正確な金額は永久に知る由もないが、アフガン戦争とイラク戦争で米国はおそらくそれぞれのキャンペーン10年ごとに1兆ドルずつ、計4兆ドルを費やしたと思われる」

「そうした法外な額の債務は金融市場に影響を及ぼし、中国やアラブの石油産油国のような、米国相手に貿易黒字を出している国々に利益をもたらす結果となった」

9.11後の出来事をこのように見てみると、ニューヨークその他へのテロ攻撃は、2008-2009年の世界的な金融危機の一因となった低金利債務条件に大きく寄与したことになる。そして、実質世界のほぼすべての中央銀行が、COVID-19 による不況を脱却するためだと謳っている「量的緩和」プログラムに、今なおそれが受け継がれているのだ。

テロ攻撃のもう一つの置き土産も注目に値する。9.11攻撃後の熱に浮かされたような世の中の空気の中で、中東全体が米国政府によって仇扱いされたことから、米国の石油産出技術の革命に初めて拍車がかかったのだ。その結果、米国は原油を自給自足できるようになるだろうが、今度は世界のエネルギー市場が不安定化し、中東経済が影響を受けることにつながる。

経済、金融、エネルギーにおいては、政治共々、2001年9月11日のアルカイダによる米国国土への攻撃によって事態が一変した。あれから20年、世界経済は今なおその影響を引きずっている。

ツイッター:@FrankKaneDubai

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