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クレオパトラは黒人ではなかった — ここにその事実を示す

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21 Apr 2023 02:04:40 GMT9
21 Apr 2023 02:04:40 GMT9

紀元前1世紀のエジプト、プトレマイオス王国の支配者の生涯と治世を歴史的に正確に描いたとする”ドキュメンタリードラマ”「アフリカン・クイーンズ: クレオパトラ」が、5月10日にNetflixで配信される。 

米国人俳優ウィル・スミスの妻であるジェイダ・ピンケット・スミスがプロデュースしたこのシリーズは、タイトル役に黒人の英国人女優アデル・ジェームズを起用したことで、すでに多くの議論を呼んでいる。 

クレオパトラは黒人ではなかった。文書で十分に裏付けられた歴史が証明しているように、彼女はアレキサンダー大王の同時代の人物であるマケドニア系ギリシャ人の将軍の子孫であった。彼女の第一言語はギリシャ語であり、現代の胸像や肖像画では、彼女は明らかに白人として描かれている。 

クレオパトラの真の血筋を示す証拠は数多くあり、ピンケット・スミスが番組を擁護するために言ったように、「大いに議論されている」ことではない。 

クレオパトラを演じる女優は、この番組の多くの批評家たちに対し、「キャスティングが気に入らない場合は、番組を見ないで」とアドバイスしている。私は、このアドバイスに従うつもりだ。そして、数え切れないほど多くのエジプト人が恐らくそうするだろう。 

このシリーズの核心にある虚偽を表現するのに使用できる言葉はたくさんあり、米国からエジプト、ギリシャに至るまで、世界中の新聞の見出しには、「歴史修正主義」、「文化の盗用」、「ブラックウォッシング」など、そのような言葉のいくつかが並んでいる。  

抗議は人種差別によって動機付けられているわけではない。エジプトでNetflixへのアクセスをブロックさせるために法的な申し立てを行ったエジプトの弁護士マフムード・アル・セマリー氏が指摘したように、これは一種の文化的アイデンティティの盗用が引き起こした怒りである。

私たちが見つけたアラバスターの彫像を含め、いずれの彫像も、クレオパトラが黒人であったことを示していない。

ザヒ・ハワス

アル・セマリー氏は、「エジプト人のアイデンティティを歪め、消し去ることを目的としたスローガンや文章を含む、アフロセントリック(アフリカ中心主義的)な思考を促進しようとしている」として Netflixを非難している。それはもっともな主張である。 

私がピンケット・スミスに会ったのは2006年のことだった。当時、私はエジプトの考古最高評議会の議長を務めていたが、彼女と私は『タイム』誌によって「自らの力、才能、道徳的模範によって世界を変えている100人の男女」に選出された。 

私はニューヨークのリンカーン・センターで開催された式典に出席し、夕食の席で、ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスと同じテーブルに座った。私はウィル・スミスをエジプトに招待し、その11年後、彼はピンケット・スミスを除くほとんどの家族と一緒に招待に応じた。  

今になってみると、それは残念なことだった。この番組の語り手は「祖母が私に、『学校で何を言われようと、クレオパトラは黒人だった』と言ったのを覚えている」と語っている。 

しかし、すべての証拠が示すように、クレオパトラは黒人ではなかった。 

私と考古学者仲間のキャスリーン・マルティネス氏が、クレオパトラの墓を探す過程で、アレクサンドリアの西にあるタップ・オシリス・マグナ神殿内で発見した女王の頭など、クレオパトラ7世のあらゆる既知の彫像を見れば一目瞭然だ。 

私たちが見つけたアラバスターの彫像を含め、いずれの彫像も、クレオパトラが黒人であったことを示していない。

また私たちは、神殿内の発掘調査中、クレオパトラの顔と名前が刻印された多くの硬貨も発見した。そのうち、女王を黒人として描写するというシリーズ制作者の決定を支持するものは一つもなかった。  

同様に、デンデラ神殿のファサードに描かれた、クレオパトラと女神ハトホルとカエサリオン(クレオパトラとカエサルの息子)の絵にも、クレオパトラが黒人であったことを示す証拠を見出すことはできない。 

なぜ今、このシリーズが登場したのか。恐らく、米国の黒人コミュニティの一部が、自分たちの起源は古代エジプトにあると主張していることを、商業的に利用するためにタイミングを見計らったのだろう。 

紀元前50年頃の遺物で、エジプト・プトレマイオス王朝の最後にして最も有名な女王であるクレオパトラ(紀元前69〜30年)が描かれている。(ハルトン・アーカイブ/ゲッティイメージズ)

それが真実がどうかは、私には分からない。もし、その説を裏付ける証拠があれば、私はそれを完全に受け入れるだろうが、そのような証拠はないのだ。  

私たちが知っている真実は、エジプトの歴史を通して神殿に描かれた多くの場面に見出すことができる。そこには、ファラオがエジプトの敵を打ちのめし、その前にはヌビア、リビア、メソポタミアを含む周辺地域のあらゆる人々が描かれている。 

歴史家や考古学者にとって幸運なことに、古代エジプトの芸術家たちは細部にまでこだわっていた。顔をよく観察すれば、各人物の人種的特徴がはっきりと示されている。 

そのことは、王家の谷にあるラムセス2世の墓の中の発掘・保存作業中に私たちが発見した名場面の一つに見ることができる。そこには、船に乗る太陽神ラーと、その前に立っている、明確に識別可能な4つの人種(エジプト人、アフリカ人、リビア人、アジア人)の人々が描かれている。 

2月、米国の黒人メディアン、ケビン・ハートがエジプトでのショーをキャンセルしたことが発表された。彼が以前、エジプトの王はアフリカ系黒人であったと主張するアフロセントリックな発言をして物議を醸したためだった。 

対話をすることが非常に重要であるため、私はこのキャンセルに不満を覚えた。もし会うことができたなら、ヌビアのクシュ王国の人々は確かに征服者としてエジプトにやってきて、紀元前744年から656年まで約1世紀にわたってエジプトを支配したが、これまで繰り返されてきた誤った主張とは裏腹に、彼らはファラオ文明の創始者ではないことをハートに説明しただろう。

数年前、私はペンシルベニア大学で古代エジプト人の起源について講義するためにフィラデルフィアに赴いた。このテーマへの関心は高く、聴講チケットは完売となった。私は、これに関しては3つの意見があると話した。   

一部の学者は、最初の古代エジプト人はアジアやアフリカから来たと主張している。その証拠として、彼らは現在のナイルデルタの人々の体型や肌の色が白人の特徴を持つが、上エジプトの人々の肌の色がより黒っぽいことを挙げている。彼らはまた、ヒエログリフの文法がアラビア語やヘブライ語の文法に似ていることを指摘している。   

デンデラ神殿のファサードに描かれた、クレオパトラと女神ハトホルとカエサリオン(クレオパトラとカエサルの息子)の絵にも、クレオパトラが黒人であったことを示す証拠を見出すことはできない。

ザヒ・ハワス

2つ目の意見は、セネガルのシェイク・アンタ・ジョップ氏が発表したもので、彼は古代エジプト人は黒人起源であると主張し、黒い石から彫られたツタンカーメンやラムセスの像を証拠として挙げた。彼はまた、ヒエログリフの文法はアフリカのいくつかの言語に似ていると述べたが、多くのエジプト学者が出席したパリのユネスコ会議では、確たる証拠を欠いているとしてその理論を却下した。 

3つ目の意見は、エジプト学の父であり、体系的な考古学的調査のパイオニアと見なされている英国の考古学者フリンダーズ・ピートリー卿による上エジプトのナカダでの発掘に基づくものである。ピートリー氏は、王朝誕生前の時代の墓地を発掘した後、そこに埋葬されているのはエジプト文明を築いた人々の遺体であると結論付けた。   

アジアとアフリカの考古学的証拠を見れば、このファラオ文明がエジプトでのみ起こったことは明らかである。アフリカの古代人は、同じようにナイル川の恵みと、より良い気候に恵まれていたものの、何も残さなかった。   

クレオパトラは黒人ではなかった。私はピンケット・スミスに、その業績と物語が十分に劇的で、それを伝えるのに政治的な動機による装飾を必要としない女性について教える機会があれば幸いに思う。 

クレオパトラが父親の死後、紀元前51年に王位に就いたとき、エジプトは深刻な被害を受け、多額の負債を抱え、高インフレに陥っていた。その少し前にナイル川は例年以上に破壊的に氾濫し、政治権力はローマに握られ、ファラオに対するアレクサンドリア人の怒りと反逆の感情はピークに達していた。   

クレオパトラはその難局にうまく対処し、強い個性と鋭い知性を武器に、そして、ローマ人のユリウス・カエサルやマルクス・アントニウスとの関係や彼らの操り方に見られるように、自身の女性としての魅力を躊躇なく利用しながら、政治の舞台に立った。  

クレオパトラは、エジプトを統治する準備をするために複数の家庭教師をつけていたが、科学や哲学など、独自の学問的関心も追求し、女性の権利の分野でもパイオニアであったと言えるだろう。クレオパトラは、先人たちと違って、エジプトの母国語だけでなく、ギリシャ語や他の言語も習得した。  

クレオパトラはさまざまなことを成し遂げ、現代の聴衆にその物語を伝えるのにふさわしい人物であったが、ただ、彼女は間違いなく黒人ではなかった。 

Netflixがこの新シリーズを純粋なドラマではなく、ドキュメンタリードラマに分類したのは残念なことだ。なぜなら、古代エジプトについて知っている人なら、誰一人としてこの作品を真剣に見ることはできないからだ。

  • ザヒ・ハワス博士は、古代遺物連合(Antiquities Coalition)諮問委員会名誉会長、エジプト学者、元エジプト考古大臣(2回就任)。また、ギザ、サッカラ、バハレイヤオアシス、王家の谷での発掘調査の責任者でもある。いくつかの重要な考古学プロジェクトに携わってきた。アレクサンドリア近郊のプトレマイオス朝の神殿の敷地内でクレオパトラとマルクス・アントニウスの墓の探索を指揮した。(出典:古代遺物連合)
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