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新型コロナ感染症によって変わりつつある経済の見方

事実上あらゆる主要国、あらゆる産業領域において経済活動の規模縮小が同時するなどという事態は、未曽有のことだ。(AFP)
事実上あらゆる主要国、あらゆる産業領域において経済活動の規模縮小が同時するなどという事態は、未曽有のことだ。(AFP)
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28 Apr 2020 11:04:28 GMT9
28 Apr 2020 11:04:28 GMT9

この3月から4月にかけ、新型コロナウイルスの感染者数増大を抑え、医療体制を感染拡大に対応させるため、国と名の付くところはなべて、経済活動を停止した。

事実上あらゆる主要国、あらゆる産業領域において経済活動の規模縮小が同時するなどという事態は、未曽有のことだ。

場所や時期の限定された特定の国の災厄に対処するのであれば、われわれとて手慣れている。他の国や地域が救いの手を差し伸べればよいからだ。被災国にしても自国の国家予算に応じて一回きりの事態に対応すればよいまでだ。

戦争や紛争にしても起きる場所は一部だし、たとい第二次世界大戦のように広がりを見せたとしても、一律にあらゆる国の国家経済が影響を受けるわけでもない。マーシャルプランに見るような一大経済復興計画を考え合わせればよいだろう。

2008年の世界金融危機のときのように、基幹金融機関発の景気後退が起こる場合も世界経済全体に大きな波及効果がある。とはいえこの場合にしてもあらゆる国々が一律に影響を受けたわけでもない。

ところが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の場合は話が違う。世界の主要国の経済は軒並み時を同じくして機能停止状態にあり、本来なら経済を牽引する役割を果たす産業分野や国・地域も動けない形勢だ。米国では失業保険請求件数がこの4週間で2,650万件と空前の規模にまでうなぎ登りに上昇、今回の事態がいかに甚大か、語って余りある。世界金融危機の際には10%の失業率を記録したが、今回はその倍となる20%にも及ぶとみるエコノミストもいる。

徐々に各国の経済活動は再開されるとしても、ほかがまだ封鎖状態であるなら生産品の行き場がない。中国のように輸出が主体となるような経済ではなおさらだ。

問題はもうひとつある。経済再開がいつかに加え、せっかく再開してもまたぞろ封鎖を余儀なくされまいか、という問題に光明が見えない。これはつまり、感染拡大への対策が緩めば、新型コロナの感染者数もふたたび増加へとぶり返す恐れがあるからだ。製薬業界がワクチンなり感染を無化するような薬品を見つけ大量生産するようなことにでもならないかぎり、この難題を確実に解けるような糸口はまずあるまい。どういう形の回復基調がどれだけの速度で進んでいくかが見えてくるのはその先の話だ。

経済への影響の大きさ、またこの先の見通せなさと言ったら近年稀に見るほどだ。財政出動は世界全体で8兆ドルに上るといい、諸手を挙げてもよかろう。が畢竟まだまだ足りるまい。各国政府はともかく湯水のように使ってでもマネーを自国経済や企業、ことにも民間の家計に注ぎ込まないことには奈落の底に落ちることになる。世界はもともと債務超過だったが、この先はおよそ計り知れない債務負担が待つことになる。同時に、課税基盤も急速にかつてない低水準にまで縮減しているところだ。

企業なり国家経済なりはこの先どう動けばよいのか。どんな指針を用いるべきか。いま述べたようなことから容易に測れるようなものではないということだ。

世界はまったく未知の時代を迎え経済も一変しつつある。となればわれわれも、経済活動そのものをどう捉えどう見通すかゼロからその姿勢を変える必要がある。

コーネリア・マイヤー

GDPの数値や見立てに踊らされてはいけない。今年の第1四半期の数字は暗澹としているが、これは単に経済封鎖のとば口を示しているにすぎない。このウイルス禍がいつまで続くか、終息後の世界がどうなっているかがはっきりしない以上、予測などどだい無理なのだ。産業界はそのほとんどが、製造業・旅行業・娯楽業・不動産業・エネルギー業と、様変わりしているはずだ。サプライチェーンにしてもこれまでと同じであるまい。国が経済活動の主たるステークホルダーとして伸すことになるはずだ。これは伝来のレッセフェールの自由市場経済にしても同じことだ。何となれば、全産業で企業救済なり無数の会社の借金の肩代わりをするのは政府ということになるはずだからだ。

このことから、製造業購買担当者景気指数(PMI)が短期的には景況感を測る最良の指針となる。足元で製造業やサービス業がどれほどの進展を見せたかが毎月一望できるからだ。何がトレンドかも浮き彫りになる。

企業が業績見込みを出すというのももはや過去のこと、といった感がある。折しも決算発表シーズンが到来しているが、どの企業トップも業績予想を示したところでこの先何が起きるかはっきりしないと認めている。コロナ以前の世界では、社債になぞらえられるような配当率の高いブルーチップに分があった。低金利の世界では高利回りをもたらせられれば下にも置かぬもてなしだった。

これについてはさほど変わらないかもしれない。が、企業が政府からの救済を受けたり収益が激減したりなどした場合には、配当金の支払い減額や自社株の買い戻しを迫られることも多々ある。

他方で投資家の国債に対する見方は激変している。尺度は、投資利益率から投資対効果へと変わった。これは特に米国短期国債に当てはまる。投資家としては今後数十年にわたり米国政府が債務を返済することを期待するからだ。30年物の長期国債のような長期資産に人気が集まっていることも見ての通りだ。これは、ゼロ金利をわずかに上回る程度の10年物に比べれば利回りがよいためだ。新興国市場や南欧の国債が高くなっているのは、それだけ信用力が落ちたからだ。

言葉を変えれば、世界はまったく未知の時代を迎え経済も一変しつつある。となればわれわれも、経済活動そのものをどう捉えどう見通すかゼロからその姿勢を変える必要がある。算定基準と優先順位については見直す必要がある。すなわち、国、地域、企業、そうしてもちろん世界をどう測りどれを優先させるか、再考せねばならぬ。

  • コーネリア・マイヤー氏は、経営コンサルタント、マクロエコノミスト、エネルギー問題専門家。

ツイッター: @MeyerResources

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