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イランの従属国が崩壊するにつれ、中東はアナーキーの野放し状態と化す

テレビ放映された演説で国民に話しかけるイランの最高指導者アヤトッラー・アリー・ハーメネイー師。テヘランで撮影。(ファイル/ AFP)
テレビ放映された演説で国民に話しかけるイランの最高指導者アヤトッラー・アリー・ハーメネイー師。テヘランで撮影。(ファイル/ AFP)
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26 May 2020 04:05:24 GMT9
26 May 2020 04:05:24 GMT9

アヤトッラー・アリー・ハーメネイー(ハメネイ師)は、動物を剥製にして自宅の壁に飾る目的で狩猟するハンターにも似ている。今日、ハメネイ師の暖炉の上にトロフィーとして陳列された瀕死の動物たちとは、ベイルート、ダマスカス、サナア、バグダッドなのだ。

ハメネイ師は、自分はアラブ世界という血の流れ出る死体からこれらの首を討ち取ったのだと自慢するかもしれないが、イラン政府にはこれらの国家をその覇権の下で開花させたり繁栄させたりする能力などない。手を触れただけで景気を刺激し、経済を成長させる才を持つ財務大臣もいる。手を触れただけで花壇を色で一杯にさせる才を持つ庭師もいる。だがイラン政府が触れると、すべてが死んでしまう。

イラク、レバノン、シリアは今でこそ混乱の時代に耐えているが、その誇り高い歴史においては、繁栄や文明開花を享受した時代の方がずっと長かったのだ。世界クラスの教育制度や豊かな歴史遺産を持ち、アラブ世界の最も素晴らしい側面を見せてくれるそれらの遺産を有効利用すれば、観光産業にも役立たせることができるのだ。

だがイランの保護下に置かれたこれらの国々はみるみるうちに、貧困に喘ぎ、世界からも取り残された、無力な後進国に成り下がってしまった。そこでは市民は屈辱を感じながら、今後の数ヶ月間自力で食べていくことにすら苦労しなければいけないという状態に陥っている。まず、中産階級が撃滅された。次に、労働者階級が職を奪われた。そして今では、肥大化した公共部門でさえ、甘やかされて腐敗した公務員への支払いをやめてしまった。レバノン・ドルーズ派の指導者であるワリード・ジュンブラートは、「部族の首長すべて、そしてコミュニティの指導者すべてが自分の仲間だけを喜ばせようとしている」この国は崩壊に向かいつつあり、「飢えによる暴動」の勃発も時間の問題と警告する。

イラクの国内総生産(GDP)は2020年に5%縮小すると予測されており、破綻しないようにするには推定で400億ドル相当の外貨による資金注入が必要とされる。レバノンの経済は今年少なくとも12%縮小すると予測されている。つまり、現在の900億ドルという債務が、GDPの170%という現在の世界最悪レベルをさらに超えて上昇し続けるということだ。イランのGDPは過去1年間で約10%縮小している。失業率は公式の数字で26%に急上昇した(実際のレベルがはるかに高いことに間違いはない)。イエメンとシリアの経済状態はあまりに悲惨すぎて、数字で表す意味すらない。

ヒズボラの指導者、ハッサン・ナスララ師はIMF救済や対外援助を軽蔑する。その一方で、これらの「レジスタンス」の国々は一つの経済圏であり、しかも繁栄していると見ている。レバノンの財政難は、シリアに、そしてバグダッドの「広大な」市場に広く門戸を開くことで緩和されると信じている。現実には、これら国々の経済は、どこがどこより貧しいか分からないくらい悲惨だ。ナスララ師が幻を見ている限り、いくらレバノンがより広い世界へ門戸を開こうとしても、その扉はピシャリと閉じられてしまうだけだ。ナスララ師はレバノンとシリアのアラブとしてのアイデンティティを語っているが、その一方で、両国をより裕福なアラブ諸国に近づけさせないようにしている。これらのアラブ諸国なら両国に本格的な経済ルネッサンスをもたらし得るにも関わらずだ。

イランに従属する国々は、かつては僅かながらも国際社会の支援を受けていた。特にシーア派のコミュニティ内には支援があった。しかし、腐敗、経済破綻、犯罪性、そして国際社会からの疎外により、体裁を保つだけに存在したどんな正当性も、社会によって認められずに消えてしまった。これによりイラン政府は、シリアの場合と同様に、アラブの植民地を維持するのにあからさまな強制に頼らなければならなくなった。ナスララ師でさえ今では、パレスチナ解放を叫んだところで、また「来年こそはエルサレムで祈る」と美辞麗句を並べたところでほとんど笑いを誘うだけだと気付いているのではないだろうか。最近レバノンとイラクの全国で何百万人という市民がデモ行進をしているが、これらのデモは、今後さらに大荒れとなる前触れを示しているのではないだろうか。

アラブ諸国が率先となり、神権政治的な植民地主義の犠牲者がイラン政府の手から抜け出すのを助け、長年苦しんでいる従属国家の国々がアラブとしてのアイデンティティを再発見し、その経済を世界の金融や貿易ネットワークに戻してやる手助けとしてどんなことができるかを行動で示してやるべきではないか。

バリア・アラムディン

手足をもがれた状態のイスラム政権がその力をかつてないほど弱めるなか、イラン政府の傀儡の国々は現在、自分達には融通性があると表面上見せかけながら必至に時間稼ぎをしようとしている。欧州の首脳陣は、恩顧主義的で泥棒政治的な統治モデル(ヒズボラとその仲間はこれで力をつけた)を撃退するために必要な、劇的な制度改革が行われる可能性がないことを知りながらもIMF救済の見通しを押し売りするという、衝撃的ともいえるほどに知的誠実性に欠ける振る舞いをしている。無力なムスタファ・アル・カディミ首相は誰に対してもおべっかしか使わず、武器がイラク国家によって独占されることを保証しながらも、アル・ハシュド・アル・シャアビの「重要な」役割を歓迎するような発言をする。こうした明らかな矛盾が無視される状態がそう長く続くわけはない。

イスラエルは、イラン同盟の標的に対する空爆作戦によりイラン軍がシリアの土地から撤退した、とまことしやかなに主張することで、この作戦に関する勝利宣言を行おうとしている。幾つかの証拠から分かるところでは、イランはリスクや費用削減のために武器を再配置しながら、地元の民兵や外国人戦闘員の利用を増やしているようだ。ハメネイ師は、シリア政府やイラク政府に対する支配力を失うよりもむしろマシュハドやシラーズの支配力を失う方を選ぶだろう。

ドナルド・トランプ大統領はビジョンあるいは勇気不足で、自身の政策の成功にただ乗ずればいいと確信することができない。 特にその「最大限の圧力」戦略は、新型コロナウイルス危機や原油価格の崩壊やその他の要因と相まって、イランを財政破綻の瀬戸際へと追いやることに成功した。ジョー・バイデンの外交政策顧問であるジェイク・サリバンですら、トランプ大統領の「制裁は大きな効果を挙げている」と認める発言を最近行っている。

真に大胆な外交戦略なら、この機会を上手くつかみ、中東各地におけるイランの規模を大幅に縮小させようとするだろう。トランプ大統領は選挙前に波風を立てるようなことはしたくないだろうが、2021年に誰がホワイトハウス入りしたとしても、未解決問題リストの最上位として挙がっているはずの、イランの武装勢力、テロ、核拡散問題から目を反らすことはできないのだ。

米政府は3年間レバノンの政治に関わるのを怠ってきたが、ジブラーン・バシール外相をヒズボラの取巻きから引き離そうという米政府の努力が実を結んでいるという兆候も見られる。それにもかかわらず、トランプ大統領の戦略的な迷いは、米国による制裁を破りベネズエラに燃料を輸送しようとしたイラン船団への対応に躊躇したことにも表れている。

ウラジミール・プーチン大統領と共通基盤を見出そうとしないのはなぜなのか。プーチン大統領は最近シリアやイランにおけるかつての同盟政権との関係を悪化させたのではなかったか?米政府が好むと好まざるとにかかわらず、ロシアは現在中東において大国なのだ。これを利用して、米露が協力してイランを追放する取り組みを行ってはどうなのか?特にロシアと米国がイスラエルからも湾岸協力会議(GCC)からも享受するあたたかい絆を考えると、この方法は有効なのではないか。

我々はイランの弱点を強さと間違えがちだ。 この茶番めいた政権はその日その日をよろよろ歩きするだけで、軍事演習やミサイルの威力を示すときでさえ、見方からの誤射で自国の兵士を皆殺しにしたり、民間航空機を爆破するといった始末だ。

ハメネイ師は永遠に生き続けるのではないかとの印象を与えるが(我々を悩ませるためだけに)、それでも師の後継者問題は未解決だ。イラン国民は、憎まれ者として名前が広まってしまった強硬派を受け入れるのも、革命防衛隊が独自の公式を課して社会に混乱を引き起こすリスクを受け入れるのも嫌がるだろう。 政権が崩壊すれば、ヒズボラもハシュドもフーシスも、そしてイラン政府の他のすべての傭兵が、ハリケーンに出会った折り紙のように散らばっていくことだろう。

アラブ諸国が率先となり、神権政治的な植民地主義の犠牲者がイラン政府の手から抜け出すのを助け、長年苦しんでいる従属国家の国々がアラブとしてのアイデンティティを再発見し、その経済を世界の金融や貿易ネットワークに戻してやる手助けとしてどんなことができるかを行動で示してやるべきではないか。

残念ながら、イランがこれまでで最大の弱さを見せているこの瞬間が、偶然にも国際社会がこれらの瀕死状態の国々を経済的および政治的なキスで蘇生させるための洞察力や勇気を欠いた時期と一致していた、と歴史家は後世嘆くことになるだろう。そんななかテヘランの死のキスは今後ずっと、無政府状態や失敗国家という容赦のない痕跡を残すことになるのだ。

バリア・アラムディンは受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。

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