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エルドアン政権のトルコにオスマン帝国的な過度の拡張主義の危険

オスマン帝国軍の制服を着た兵士に囲まれたトルコのエルドアン大統領(2015年、ロイター)
オスマン帝国軍の制服を着た兵士に囲まれたトルコのエルドアン大統領(2015年、ロイター)
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18 Oct 2020 01:10:44 GMT9
18 Oct 2020 01:10:44 GMT9

2003年以来、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は自己の存在を巨大化させながら国を意のままに動かし、トルコの政治的言説をあらゆる点で支配してきた。同国の競争の激しい政治文化で生き残り、そして成功するには、スキル、頭脳、そして何よりも抜け目のない冷酷さが必要だ。しかし、昔から言われているように、成功はしばしば尊大さ、つまり過度の自信を伴うもので、それが時として破滅を招くこともある。そして、エルドアン大統領の場合は、自身の得意とする拡張主義的な新オスマン主義の外交政策を度を越して推し進める中で、彼はトルコが実際に対応できる以上に帝国主義に深入りしてしまったのだ。

表面的には、エルドアンの新オスマン主義は時代の趨勢に完全に適合している ― 自信をつけたトルコ共和国が、その前身の国家(すなわち何世紀にもわたりイスタンブールを首都に栄えたスルタン国家)の一部であった地域への影響力を拡大したいという願望は、米国と中国の2つの超大国のインド、ロシア、ヨーロッパ、日本、英語圏自由主義諸国など2大国に次いで力を持つ国々に対する支配力が大幅に弱まっている、緩い二極化の新時代の傾向と一致しているのだ。

エルドアン大統領は、復権したトルコをそれ自体で他の大国と並ぶ将来の大国と見なしており、現在のトルコに有利な国際社会の構造が、独立性の高いトルコの外交政策を初めて打ち出すチャンスだと考えている。

エルドアン大統領は、答えが「両方」と「どちらでもない」であったオスマン帝国の時代を思い起こさせることで、トルコの基本的な文化的方向性の古くからの問題を素早く解決した。オスマントルコ帝国のように、エルドアンは現代のトルコを西洋と中東の両方を志向すると同時に、その独特な二重の歴史的・文化的状況によりそれら両地域から完全に独立した国家と捉えている。

この旧帝国と共通するアイデンティティの捉え方とともに、エルドアンのトルコは、ヨーロッパの政治で役割を果たしたいと依然望みながらも、中東、特にギリシャ、シリア、イラク、北アフリカのオスマン帝国の旧領土に関心の中心を移し、これら過去の拠点における勢力と影響力の拡大を望んでいる。

しかし、歴史上文字通り何十回も起きてきたように、実際にはエルドアン大統領は帝国主義的な行き過ぎた拡大にのめり込み、その関与は維持可能な範囲を超えてしまっている。現在、トルコはリビアの内戦に直接関与しており、順にロシア、フランス、エジプトから支援を受けてきたハリファ・ハフタル司令官周辺の軍事勢力に対して、トリポリの国民合意政府(GNA)派を支援している。

今年6月、トルコは武器、ドローン技術、傭兵を供給し、当時揺らいでいたGNAを少なくとも一時的には強化した。しかし、弱体化した地域への介入を止めることは、しばしば介入を始めることよりも遥かに難しいものだ。

現時点で、トルコ政府には、戦争に勝利し、安定した親トルコ政府の樹立を支援し、近い将来に適時撤退するという困難な課題を達成するための明確な戦略がないのだ。

一方で、トルコ政府は隣接するシリアの北部の広大な土地を占領し、重要な軍事的および地理的足場を保持している。これは、難民の流入を食い止め、シリアのクルド人勢力が自由に国境を越えてトルコ政府の何十年もの間にわたる重大な敵対勢力、トルコ内クルド人先住民グループのクルディスタン労働者党(PKK)を支援することを阻止することを目的としたものだ。

これらに加えて、エルドアン大統領は、分割されたキプロス島の北部において1つの政府を支援するというトルコの旧来の戦略も継続している。実際、彼は東地中海でも以前よりも遥かに攻撃的な姿勢に移行しており、トルコ海軍は国際社会によってギリシャに属すると認められた海域(トルコ政府はこの裁定の受け入れを強く拒否している)で諸船舶に攻撃的に接するようになっている。この海域で特に注目されているのは、大規模なものである可能性が高い天然ガス鉱床であり、常に資源を欲しているトルコにとって非常に魅力的なものなのだ。

こうした以前よりも遥かに拡張主義的な地域戦略を促進するため、エルドアン大統領はカタール(2019年に完成)とイラクのバシカに拠点の建設も行っている。これらすべての動きは、中近東地域でトルコの力を大幅に拡大しようとするエルドアン大統領の新オスマン主義的取り組みの、基礎を形作る全体的な戦略の一部と見なければならない。

しかし、帝国は安上がりに築けるものではない。エルドアン大統領の熱に浮かされたような新オスマン主義の夢の致命的な欠陥は、トルコが彼が想像するような大国ではないということだ。トルコの場合、その経済に固有の構造的問題により、現在のような拡張主義的な外交政策は長期的には全く持続不可能なものなのだ。

トルコ経済に固有の構造的問題により、現在のような拡張主義的な外交政策は長期的には全く持続不可能なものなのだ。

ジョン・C・フルスマン

新型コロナウイルス感染症の流行がトルコの経済に大打撃を与えているのは明らかだ。 この9月、トルコリラは史上最安値まで下落した。一層の通貨下落を防ぐための必死の努力で、政府は今年の初めに持っていた650億米ドルの外貨準備のほぼ半分を使ってしまった。インフレ率は依然として高いままで、8月には12%近くに達した。さらに、トルコの国内総生産は、2020年の第2四半期には壊滅的な数字となった。ほぼ完全にコロナウイルス感染症流行に伴う封鎖措置の影響によるものだ。そのマイナス幅は前年比9.9%という大幅なもので、過去10年以上の間で最悪の結果となっている。こうした壊滅的な統計は、控えめに言っても、新オスマン主義的外交政策の実行への好材料とはならない。

好材料どころか、これらの数値は、結局は避けて通れない現実の事態を指し示しているのだ。エルドアン大統領の新オスマン主義の壮大な夢は、最も平凡で、歴史上でもありふれた理由で失敗する運命にある。拡張主義的な彼の夢は、トルコの経済的現実を遥かに超えて推進されてしまっているからだ。

  • ジョン・C・フルスマン博士は、世界的に著名な政治リスクコンサルティング会社、ジョン・C・フルスマン・エンタープライズの社長兼マネージングパートナーであり、またロンドンの新聞、City AM の上級コラムニストとして執筆も行っている。博士へはchartwellspeakers.comからコンタクトできる。
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