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「穏健な」タリバンという神話

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30 Jul 2021 03:07:27 GMT9

イシュティアック・アフマド

最後の米軍がアフガニスタンを離れようとしている今、タリバンがアフガニスタンの地方の約半分を占拠したと報告されている。過激派の活動が1994年に始まったカンダハルを含む34の州はまだ制圧されていないものの、イラン、パキスタン、中央アジア3国(タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)との主な国境はタリバン支配下となった。

アフガン治安部隊は現在、31の州都で夜間外出禁止令を出しており、地元の反タリバン民兵の支援でタリバン侵攻を食い止めている。しかし、カブールの全公使館が呼びかけている停戦にタリバンが応じる気配はない。

タリバンとアフガニスタン政府代表による最近のドーハ和平交渉でも停戦合意は得られなかった。タリバン側は、アシュラフ・ガニー大統領の退陣を今後の協議の条件として掲げているが、政府側は次の選挙までは同大統領が続投すると返答している。

冬が来て戦争状態が自然に落ち着く前に、タリバンはアフガニスタンの複数の州を急いで占領し、アメリカ軍の撤退によるセキュリティの穴を埋めようとしている。そのため、タリバンは和平を唱えながら戦争を続けているが、カブールに到達するのはまだ先だと見られる。

しかし、タリバンがカブールで政権復帰する可能性が出てきたことで、またしても「良いタリバンと悪いタリバン」の議論が復活した。これは1990年代にタリバンが台頭した時、善の勢力だと考えられていたことを彷彿とさせる。しかし9.11同時多発テロ以降、同様の動きがアフガニスタン近隣諸国で起こり出すと、タリバンは悪の勢力だとみなされ始めた。

「対テロ戦争」の時、一部の政府関係者や専門家は「良い」タリバン(部族地域を利用してアフガニスタンを攻撃したアフガンタリバン)と「悪い」タリバン(部族地域を利用しつつアフガニスタン国境を越えてテロ攻撃を行ったパキスタンのタリバン運動など)を区別しようとした。

しかし現在のタリバン擁護者たちは、「良い」タリバンを「穏健派」タリバンに置き換え、過去の失政や長い戦争を苦い教訓として、女性の労働と教育の権利、そして近隣諸国の主権を尊重する姿勢を打ち出した。

実際、タリバンは外交政策を選んでいる。アメリカとドーハ協定を締結したことで、アメリカの20年ぶりのアフガニスタン撤退を促した。また、以前のようにアフガンの独占政権にはならないとも公言している。そして指導者たちは地域の安全保障上の懸念を和らげるため、イランとロシアでも会談をおこなった。

しかし実際は、このタリバンの保証はただの宣言にすぎず、真の意図ははっきりしないままだ。また、現行のアフガニスタン憲法の下で権力を共有するつもりなのか、それともアフガニスタン・イスラム首長国以外も受け入れるつもりなのかも、明らかになっていない。その一方では、敵対する司令官が降伏してきた後、彼らを一斉に射殺するという暴力的な映像がソーシャルメディア上で公開されている。

タリバンの主張の真意は、彼らが政権復帰した後に初めて試されるだろう。しかし過去には、アフガニスタン・イスラム首長国で大混乱が起きている。実際、タリバンがカブールを制圧しようとしていた1996年は、戦争で荒廃したこの国に災害が差し迫っていることは誰の目にも明らかだった。

現在のメディアは、タリバンの穏健な見通しや平和的意図に焦点を当てているが、その論調は1990年代半ばにアフガニスタンでタリバン台頭が報道された時と似ている。それは、「長年にわたるムジャーヒドの反目後、アフガンはついに、武装解除と法統治によって永続的な平和を確保するために動き出した」というものだ。

タリバンは変わったふりをしているかもしれないが、何の抑制もなしに権力を握れば、また以前のように暴走するだろう。

イシュティアック・アフマド

カンダハルでタリバン指導者たちと一緒に過ごした私の記憶では、この政治・宗教的な武装組織がアフガニスタンやその周辺から何を欲しがっているかは、初めから明白だった。それはイスラム首長国を建国し、パキスタンやその他近隣のイスラム諸国にも広げていくことだ。タリバンは邪悪な同盟を結び、力尽くでカブールを占領したが、政権の樹立後は外部の力に頼るのをやめた。当時の指導者だったムラー・オマーは、ウサマ・ビン・ラディンを受け入れないでほしいというサウジアラビアの嘆願を拒否している。そしてタリバン支配下でアフガニスタンの少数民族や女性に何が起こったかは、誰もがよく知っている。

当時のタリバンの世界観に関しては、後に政府の重要ポストに就いたタリバン指導者たちと話した時、彼らのもつ2つの感情に気づいた。それは共産主義大国のソ連を倒したという誇りと、唯一の資本主義大国であるアメリカに裏切られたという感情だった(そして彼らは、アメリカを倒そうと計画していた)。ではなぜアメリカに協力したのかと訪ねれば、タリバン指導者たちは「大きな悪を滅ぼすために、小さな悪と手を組んだのだ。今は小さな悪の力が必要だ」というマキャベリ的な理由を挙げるだろう。

タリバンは、過去20年間にわたりアメリカ主導の軍隊と戦ってきたが、この「小さな悪」を倒すことができなかった。実際には、アメリカが求めていた「面目を保ちながらの撤退」をタリバンが提供し、ワシントンは勝てない戦争から手を引くことができた。アフガニスタンで何が起ころうと、内戦が激化しようと、市民社会、特に働く女性が再び狼の群れに投げ出されようと、アメリカには無関係なのだ。実際、タリバン運動が正当化されれば、南西アジアで中国を封じ込め、その南西部の新疆ウイグル自治区を困らせることが出来るため、米国にとっては大きな地政学上の利益となるだろう。

このような状況にある同地域は、以前と同じジレンマに直面だろう。アフガニスタンが戦争状態や強権的な支配下にある以上、平和は期待できない。また、この点ははっきりさせておきたいのだが、「穏健なタリバン」というのは神話にすぎない。彼らの過激な動きは、イデオロギー的には宗教的偏見に根ざしているからだ。権力をもたないタリバンは変わったふりをするだろうが、何の抑制もなしに権力を握らせれば、以前のように暴走する可能性が高いだろう。

  • イシュティアック・アフマド(Ishtiaq Ahmad):元ジャーナリスト。のちにパキスタンのサルゴダ大学の副学長やオックスフォード大学のカーイデ・アーザム・フェロー(もっとも偉大な指導者の意)を務める。
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