
ジョン・C・ハルズマン博士
私が日本に魅了されたのは、大学時代に日本のことが外部からは見えないことを知ったからだ。例えば、長年政権を維持してきた自民党は「自由主義でも民主主義でもなく、そして大した政党でもない」と理解するのが一番だと、賢明な教授が言っていた。このような知的な曖昧さに魅了され、私は今日まで続くこの国への愛着を抱き始めた。
分析の霧はまだ続いている。運のない菅 義偉総理大臣が辞任し、9月29日の自民党党首選で次期首相が決まる。党のライバルは分裂して不人気なので、11月までに行われるべき総選挙では、また自民党が楽勝する可能性が高い。つまり、今月の党首討論の勝者が、この大国を中期的に導くことになりそうだ。
長年、安倍晋三首相の側近として成功を収めてきた菅首相は、王座に就いてもあまりインパクトがなかった。今月初め菅首相は、国内全体でも自民党内でも数ヶ月間にわたって人気が低下していたため、党首再選に向けて身を引くことを決めた。例えば、8月下旬の朝日新聞の世論調査では、国民の菅内閣に対する支持率はわずか28%で、わずか1カ月で3ポイント低下した。世論調査の3分の2は、菅首相の政治的なアキレス腱であるパンデミックへの取り組みを信用していないと答えている。
72歳の菅総理は、おそらく同世代では最後の総理大臣になるだろう。今回の党首討論は、自民党内でも日本社会全体でも「世代交代」であると外部メディアは定義している。これは表面的には確かにそうではあるが、日本特有のやり方で、明らかにすることよりも隠されている部分が多い。日本の自民党内のエリートが入れ替わっても、自民党と日本の一般的な政策の方向性は、安倍前首相が確立した一般的な戦略の方向性と同じであることは明らかだ。リーダーたちの年齢が大きく変わっても、日本そのものは変わらない。
例えば、現職のワクチン担当大臣であり、菅総理の後継者候補である河野太郎氏がその一例である。朝日新聞の世論調査では、河野氏の首相就任支持率は33%で、最も近いライバルである岸田文雄元外相(14%)を大きく引き離している。党首を決めるのは自民党の議員と党員だけだが、総選挙が近いということは、大衆の支持がいつもより大きな要因になるということである。
まだ58歳の河野氏は、菅氏の後継者として国民から圧倒的な支持を得ている。しかし、自民党の各派閥を統括する(そして、その裏で大きな力を発揮する)長老たちは、河野氏が政治的に破天荒な人物であるという評判や、傲慢になりかねないほどの自信家であることを警戒している。
しかし、河野氏のコミュニケーションの才能を疑う人はいない。ツイッターが普及している現代社会で、230万人ものフォロワーを持つこのワクチン担当大臣は、堅実で静かな政治文化の中では有名人といえるだろう。ジョージタウン大学を卒業し、英語が堪能な河野氏は、数カ国語でのコミュニケーションに長けている。特に若年層に人気がある河野氏は、自民党の党是を守りながらも、他の党では実現できない社会の広い範囲に働きかけることができる人物である。
争点としては、今回の短期決戦では、かつてないほど攻撃的な姿勢を見せる中国にどう立ち向かうかという議論が中心となっている。戦略的には、中国が未だに離反した州と見なしている台湾に対して、北京が好戦的な態度を強めていることが中心となっている。かつて日本の植民地であったことから、東京は台湾の民主化には感情的にも経済的にも強い結びつきがあり、中国の習近平国家主席が「統一をいつまでも待っていられない」と戦闘的な発言をしていることを憂慮している。第二に、日本が支配し、中国が主張する東シナ海の「尖閣諸島・釣魚島(魚釣島に対する中国側の呼称)」をめぐる政治的論争が残っている。
そして岸田氏は、成功を収めた安倍政権の外務大臣を務めたことを強調しようと、この「リーダーシップコンテスト」でインド太平洋の緊張を挙げているが、実際には、大国間の関係をどのように管理するかという点で、2人の候補者の間に戦略的な違いはほとんどないだろう。
日本は防衛費を増やし続け、来年には過去最高の500億ドルになる予定だ。また、インド、日本、オーストラリア、米国で構成された、NATOに似た新興の同盟である「クアッド(日米豪印戦略対話)」を、中国の拡張主義を抑制する努力の中心に据えるための努力も続けている。さらに日本は、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、英国、米国という英国圏のメンバーで構成され、世界で最も重要な情報収集組織である「ファイブアイズ」への参加を目指して、すでに準備を進めている。
今回の自民党総裁選で興味深いのはこの「世代交代」にもかかわらず、政策的には安倍首相の先駆的な地政学的路線からほとんど変化がないことである。今に始まったことではないが、日本の物事は見かけ通りにはいかない。
· ジョン・C・ハルズマンは、世界的な政治リスクコンサルティング会社である、ジョン・C・ハルスマン・エンタープライズの社長兼マネージングパートナーである。また、ロンドンの新聞であるCity AMのシニアコラムニストも務めている。
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