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イスラエルは環境の敵だ、救世主なんて冗談じゃない

2020年10月16日、占領下のヨルダン川西岸地区ラマラ付近のオリーブ園。イスラエル軍が催涙ガス弾を発射した後、草が燃える様子。(ロイター)
2020年10月16日、占領下のヨルダン川西岸地区ラマラ付近のオリーブ園。イスラエル軍が催涙ガス弾を発射した後、草が燃える様子。(ロイター)
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09 Nov 2021 03:11:47 GMT9
09 Nov 2021 03:11:47 GMT9

ラムジー・バロウド

イスラエルが、特にパレスチナの軍事占領を通じ、大規模かつ取り返しのつかないほど環境を破壊しているという事実に疎い人なら誰しも、イスラエルが気候変動との戦いで世界をリードしているという、誤った結論にいたるのかもしれない。現実は真逆だ。

グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、新右翼党の党首でもあるイスラエルのナフタリ・ベネット首相が演説し、イスラエルが「技術革新と創意工夫」の国で「クリーンエネルギーを促進し、温室効果ガスを削減している」というイメージを前面に押し出した。イスラエルはこのイメージを様々な目的で利用している。たとえば、アフリカの救世主という宣伝・各国政府による難民脱出阻止の援助・世界市場での殺傷能力の高い武器の売却、さらにはスコットランドでベネット首相が演説した通り、環境保護に取り組んでいるという建前だ。

ベネット首相の美辞麗句を虚言として性急に切り捨ててはならない。アメリカの億万長者ビル・ゲイツ氏を含め、このイスラエルのプロパガンダに騙されている人が実際にいるのだ。先週の演説の翌日に、COP26への参加に併せてゲイツ氏はベネット首相と会談し「イスラエル国とゲイツ財団が、気候変動に対抗する技術革新の分野で」協力できる可能性を探るための「ワーキンググループ」設立について話し合ったと、オンライン新聞「タイムズ・オブ・イスラエル」が報じた。同紙によると、ゲイツ氏はベネット首相との会談で、気候変動問題を解決するには技術革新しかないと主張し「技術革新こそイスラエルの代名詞だ」と述べた。

しかしゲイツ氏は「技術革新」にのめり込むあまり、イスラエルの「代名詞」である他の問題については目がくらんだのかもしれない。特に世界有数の人権侵害国家で、人種隔離政策と暴力では恐ろしい経歴を積み重ねていることは、国連加盟国ならどこでも知っている。
ゲイツ氏の認識から漏れている可能性がある事実は他にもある。イスラエルの占領によりパレスチナの環境が組織的かつ計画的に破壊され、軍事的優位性を貪欲に求めている点だ。だからこそイスラエルは常に「技術革新」を成し遂げているのだ。軍事占領を固定化するために手段を選ばないため、イスラエルの植民地支配は強化されている。一方で違法な入植地の拡大により、パレスチナの環境は直接的に被害を被っている。

ほぼ毎日のように、パレスチナの木や果樹園は燃やされたり伐採されたりしている。今も昔もユダヤ人専用の入植地を建設・拡大する際には、パレスチナの環境「浄化」がつきものだ。こうした入植地を建設する際は、植林したパレスチナ人に加えて無数の木々を除去する必要が出てくる。

数十年に渡り、パレスチナではオリーブなどの果樹が破壊されている。イスラエルの領土欲はきりがないからだ。占領地の多くではその後土壌侵食が発生しており、この背筋が寒くなる環境破壊に大きく拍車をかけている。

もちろん、話はここにとどまらない。60万人を超える入植者たちが暮らす数百カ所もの違法入植地を維持するために、パレスチナの環境は大きな犠牲を強いられている。人権団体「アル・ハク」と協力するフリーランスの法律研究者アーメド・アボフォウ氏が詳細に調査したところ、違法なユダヤ人入植地からは「毎日14万5000トンの家庭ごみが発生している」という。アボフォウ氏によると「2016年だけで、約8億300万㎥の廃水がヨルダン川西岸全体に排出された」という。

しかも、イスラエルはパレスチナの水資源をほぼ完全に管理している。イスラエルはヨルダン川西岸の帯水層から水をくみ上げて需要を満たしている。一方でパレスチナ人たちは、本来は自分たちのものである水を利用できない状態が続いている。

国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」によると、イスラエル人は1日平均300リットルの水を消費するのに対し、パレスチナ人はわずか73リットルだという。違法入植者たちが使用する水量を考慮すると、問題はさらに深刻になる。入植者は1日平均800リットルも消費している。一方でパレスチナ人コミュニティーは、多くは集団全体を対象とした罰として、数日、場合によっては数週間、水が一切利用できなくなることもあり得る。

水問題とは、あからさまな盗難や水資源の利用拒否・不平等な分配にとどまらない。清潔で安全な飲み水が不足しているのだ。この問題については、長年に渡り国際人権団体が警鐘を鳴らしている。アムネスティ・インターナショナルによると、不公正な政策により、多くのパレスチナ人が1㎥あたり4ドル~10ドルでトラックで持ち込まれる水を買わされている。注目すべきは、最貧困層のパレスチナ人コミュニティーでは「水の代金が場合によっては、世帯月収の半分を占めてしまうこともある」という点だ。

ひどすぎると感じるかもしれないが、周囲を取り囲まれたガザ地区の窮状はヨルダン川西岸地区よりはるかに悲惨だ。狭い面積に人口が密集したガザ地区の様子をみると、イスラエルの残酷さがはっきりと見て取れる。ガザ地区に暮らすパレスチナ人は200万人だが、移動の自由は言うに及ばず、最も基本的な人権が奪われている。

2007年にガザ地区の軍事封鎖が始まって以来、環境破壊は悪化の一途をたどっている。電力不足と下水処理場の爆撃により、パレスチナ人は下水をそのまま海に垂れ流すしかない状態が続いている。国連の報告によると、ガザ地区では地下水の汚染が進んだため、現在では97%が飲用不可だという。

イスラエルはパレスチナで、ありとあらゆる形の環境破壊を絶え間なく実行している。

ラムジー・バロウド

これは氷山の一角にすぎない。パレスチナ人の井戸の破壊から、枯葉剤を使用し生態系を全滅させてまで、民族を隔てる分離壁を建設している。ガザ地区との度々にわたる戦闘で、劣化ウラン弾が使用されていることは言うまでもない。イスラエル政府はパレスチナで、ありとあらゆる形の環境破壊を繰り返している。

ゲイツさん、実のところ、事情通の間でイスラエルが有名なのはこうした事実なのだ。ベネット首相に自国が人類を救う可能性があるとアピールさせると同時に、イスラエルの「技術革新」に多額の投資をしてしまうと、世界中の環境保護活動家が目の前の問題の本質を誤認し、運動自体が無意味になってしまう。

現に地球を破壊している集団に、地球の救世主という役割を担うとアピールする権利などない。現在暴虐の限りを尽くしているイスラエルは、環境の敵であり、このことこそ広く世に知られるべきだ。

  • ラムジー・バロード氏は、20年以上に渡り中東をテーマとした執筆活動を続けている。執筆するコラムは国際的に同時配給され、メディア・コンサルタントを務め、複数の著書があり、PalestineChronicle.com. を創設した。Twitter:@RamzyBaroud

 

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