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シリーン・アブアクラさんの優しい声は封じられた

ベテランジャーナリスト、シリーン・アブアクラさんの実家の前でパレスチナの旗を振るデモ参加者たち。(AP)
ベテランジャーナリスト、シリーン・アブアクラさんの実家の前でパレスチナの旗を振るデモ参加者たち。(AP)
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12 May 2022 10:05:02 GMT9
12 May 2022 10:05:02 GMT9

シリーン・アブアクラさんの優しい声、感情を見せない顔、事実に基づいた言葉は、多くのアラブ人の心に永遠に刻み込まれるだろう。

アルジャジーラ・ネットワークの強くて度胸のある記者だった彼女は、パレスチナのニュースを追いかける者が皆、毎日目にする姿だった。シェイク・ジャラーやアル・アクサ、ダマスカス門、パレスチナ全土で事件が起きたときには、勇敢なプロのジャーナリストであるアブアクラさんはいつも故郷であるエルサレムにいた。アラブ世界の大人の多くは、パレスチナの第1次、第2次インティファーダの間、彼女を見ながら大きくなった。

パレスチナ人の抗議活動や死、住宅解体、人権侵害などの取材で感情が高ぶっても、アブアクラさんは常にプロとして振舞っていた。イスラエル占領軍の行動やイスラエル人入植者の乱暴狼藉、パレスチナ人犠牲者の苦悩を取材する仕事でも、カメラの前で感情をあらわにすることはめったになかった。

パレスチナ人キリスト教徒であるアブアクラさんは、イスラム教とキリスト教の聖地内での出来事を敬意を持って取材した。パレスチナの南はラファから北はジェニンまで、連日行われるパレスチナ人の抗議行動やイスラエルの抑圧的な対応を最前線で伝えた。

悲しいことに、アブアクラさんが最後に生きている姿を目撃されたのは11日の朝、ジェニン難民キャンプのすぐ外だった。イスラエル軍がパレスチナ人民族主義者の拠点であるジェニン・キャンプに潜入しようとする最新の企てを取材するため、ヘルメットと防弾チョッキ(「プレス(報道)」の文字がはっきりと見える)を着用し、作業車から降りる彼女の写真がネット上で共有された。

アブアクラさんは11日、現地時間午前6時13分にアルジャジーラ・ラマッラー支局に最後のメールを送った。彼女はこう書いていた。「占領軍はジェニンを襲撃し、ジャブリヤット地区の家を包囲しています。私はそちらへ向かっています。状況が明らかになり次第、情報を届けます」

1971年にエルサレムに生まれたアブアクラさんは、ヨルダンのヤルムーク大学でジャーナリズムを学び、アルジャジーラ・メディア・ネットワークに加入した。同局が設立された1996年の翌年だった。彼女は、カタールに拠点を置くアラビア語ネットワークである同局の最初の記者の一人だった。彼女は2000年の第2次インティファーダの報道で一躍有名になった。

彼女はラジオ・モンテカルロとボイス・オブ・パレスチナでジャーナリズムのキャリアをスタートさせた。UNRWAやアンマンTV、MIFTAH(世界的な対話と民主主義の促進のためのパレスチナ・イニシアチブ)でも仕事をしていた。

イスラエル当局は彼女の殺害についてさまざまな説明をした。最初は、キャンプ内でイスラム聖戦の戦闘員による無差別発砲で殺されたと言っていた。その後、イスラエルは当時十字砲火があったと発表したが、彼女と一緒にいたジャーナリスト仲間らは銃撃戦はなかったと報告している。パレスチナ人医師によると、致命傷になった弾丸は彼女の耳の下、ヘルメットで覆われていない部分に当たっており、これは訓練を積んだイスラエルの狙撃手による行為の痕跡だという。パレスチナ人抵抗者の流れ弾に当たったというイスラエルの主張が虚偽であることが証明されている。

この数カ月の間に殺害された18人のイスラエル人は、イスラエル国内を含む別の場所から来たにもかかわらず、イスラエルはジェニン・キャンプが最近の一連の攻撃に影響を与えたと主張している。

米国とパレスチナの二重国籍者を持っていたアブアクラさんは、イスラエル政府報道局の認定を受けていたが、注意すべきなのは、イスラエルがパレスチナのメディアで働くパレスチナ人ジャーナリストを認定したことは一度もないということだ。

彼女の死がきっかけとなり、パレスチナ、近隣のヨルダン、そしてアブアクラさんが象徴的存在になっていたアラブ世界の多くの地域で怒りが巻き起こった。

パレスチナのマフムード・アッバース大統領は、12日に予定されているアブアクラさんの葬列をラマッラーの大統領府から始め、エルサレムまで続け、彼女をキリスト教正統派の墓地に埋葬するよう命じた。

アブアクラさんが殺されたのは、パレスチナ人活動家や人権擁護者、ジャーナリストを黙らせる広範なキャンペーンを実施することによって、イスラエルが実際の行動を隠そうとしていることのさらなる証拠だと、多くの人は思っている。イスラエルは昨年10月、有名で広く尊敬されているパレスチナの人権団体6団体を、何の証拠も示さずにテロリスト集団であると断定した。その後、証拠を要求した世界各国政府に何も提出しなかった。

イスラエルはまた、エルサレムを拠点とするパレスチナ・メディアを含む民族主義のパレスチナ人を黙らせるためにたびたび使われてきた軍事検閲機構を保持している。イスラエルとその支持者は、ソーシャルメディアで人気のあるパレスチナのインフルエンサーらと非常に積極的に闘い、巨大IT企業に彼らのアカウントを閉鎖するよう上手に圧力を掛けている。

国際人権団体は、イスラエルがヨルダン川と地中海の間で差別的政策を採り、イスラエルのユダヤ人には一連の政策と法律を適用し、パレスチナのアラブ人には全く異なる形で法律や実務的政策を運用していると非難している。

ジャーナリストは常にニュースを伝えたいのであって、自分自身がニュースになることは望んでいない。ジャーナリストが殺された悲しい日だ。プロフェッショナルで冷静なジャーナリストだったシリーン・アブアクラさんの死は惜しまれることだろう。

ダオウド・クタブ氏は受賞歴のあるパレスチナ人ジャーナリスト。エルサレム出身。Twitter: @daoudkuttab

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