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バイデン大統領は核問題での婚姻を目指すが、イランの花婿の不貞は変わらない

旧在テヘラン米国大使館の外で2021年11月4日に行われたデモで、バイデン米大統領を嘲笑するイラン人。(AFP)
旧在テヘラン米国大使館の外で2021年11月4日に行われたデモで、バイデン米大統領を嘲笑するイラン人。(AFP)
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30 Aug 2022 08:08:10 GMT9
30 Aug 2022 08:08:10 GMT9

もしあなたの花婿が婚礼の前の晩までずっとあなたを騙していたと豪語するなら、目前に迫った結婚を考え直すのに十分な理由となるだろう。

イランの代理人たちが逆上し、中東各地の米国の目標に向けて意気揚々とミサイルを発射しているとき、テヘランとの核交渉再検討を目前に、アメリカが同じような疑念を抱くのではないかと思ったかもしれない。

誠実で長続きする関係という点では、西側諸国には嘆かわしい過去がある。ドナルド・トランプ元米国大統領は、神をも信じぬ「死が汝らを分かつまで」の契約をタリバンと結んだが、アフガニスタン過激派はトランプの後継者をカブールから追い出しただけでなく、悪名高いテロリストと同棲しないという約束を既に破っていた。

欧州諸国は、クレムリンと互恵的な取引関係を結べばソビエト式の拡大主義への逆戻りは考えられなくなるという信念に基づいて、30年にわたり東寄りの外交政策を取ってきた。その成果を見てほしいのだが…。

それでもなお、多くの西側評論家が吹聴してきたのは、新たな核交渉によりロシア禁輸を埋め合わせるためにイランのガスと石油が国際市場にあふれ、これによってイスラム教指導者たちが豊かになるという見込みだった。私たちは全く何も学ばなかったのだろうか?

これが思い起こさせるのは、モスクワとテヘランという奇妙な組み合わせが地獄で交わした結婚だ。イランは武器と資金をロシアに流す重要なパイプとなりつつあり、制裁逃れと西側諸国の挑発についてクレムリンに教えるべき豊富な経験がある。両者は互いの制裁物資である先油を輸出する方法と、金融制度に課された国際規制の裏をかくルートについて結託してきた。

1979年のイラン革命以前はジョー・バイデン米国大統領が上院議員だったことを考えれば、米国権益に対し40年にわたり敵対行為をしてきたイランから何かを学んだのではないかと思いたい。それでもなお、多くの花嫁候補が不吉な結婚の前夜に警告されてきたように、署名と指輪は重要ではない。イラン・イスラム共和国は変われないし、変わらない。

アヤトラたちの不品行は建国のイデオロギーに根ざしたものだ。交渉後のイランはこれまでどおりのことを続けるだろう。民兵組織とテロリストに武器と資金を提供し、ミサイルを増備し、サイバー戦争を仕掛け、世界の混乱を煽る。

再開した核交渉の結果、イランに世界中から流入する資金が凍結された今、イラク、シリア、レバノン、イエメンにいるイラン寄りの過激派は、何十億ドルもの新たな資金の臭いを嗅ぎつけて、もう舌なめずりをしている。それが2015年以降に起きたことだ。それが再び起きるのだ。

したがって新たな交渉は、地域のさらなる不安定化につながる。イラン代表団がバグダッドの路上での挑発と対立をあおったのでイラクは既に殺気立ち、フーシのテロリストは停戦合意に従うことができず、貧困に沈むレバノンではヒズボラの挑発がイスラエルとの地域全体の戦争の引き金を引く危険がある。

浅薄で戦略性のない政策によって、バイデン大統領はアフガニスタンで犯した過ちの全てを繰り返そうとしている。米国外交政策の義務を減らすための表面的な努力で世界の安全保証を犠牲にするのだ。

バリア・アラムッディン

アヤトラたちは海外の反体制派とジャーナリストの暗殺と誘拐や、ジョン・ボルトンやマイク・ポンペオのようなトランプ時代の高官たちを殺害する恥知らずな策略の手を緩めることもない。二重国籍者の誘拐と何億ドルもの身代金要求など言わずもがなだ。

テヘランの核爆弾用ウラン濃縮に向けた瀬戸際のダッシュを止める取り組みを何でも擁護するのは否定しがたいものの、このような合意の直接的影響に目をつむるべきではない。

新たな交渉はイランをなだめることに全力を尽くす。再開した交渉が将来の大統領によってなし崩しにされてはならないというテヘランの要求に応えて、イランと取引する企業は懲罰措置が発効してから丸2年半のあいだ制裁対象としないと合意文書に書き込むことで、バイデン大統領はイランに将来の経済制裁を一切課さないことを計画しているようだ。イスラム革命防衛隊は当然ながらテロリスト集団との定義を続けるかもしれないが、西側の企業がマフィアのダミー会社が作る蛸のようなネットワークと事業を行うことを許されるのは明らかだ。

さらに言語道断なのは、米国が再び合意を取り消すようなことをすれば、ウラン濃縮能力を急速に増強することができるという、いわゆる「既得の保証」もテヘランは受けることだ。これを実現するため、イランはウラン濃縮を急加速する準備として遠心分離器と電子機器を維持することが許される。

ちょっと考えてみて欲しい。もし米国がイランの義務違反への対応としてそのような動きを始めたら、テヘランはすぐにウラン濃縮を急速に強化して対応するだろうが、これは何の平和目的も考えられない活動だ。こうしてイランが合意違反する動機が組み込まれ、イラン核合意離脱の引き金を引く恐れから、西側諸国の対応能力はほとんど麻痺してしまうことになる。

さらに悪いことに、以前の合意にあった「期限付き条項」の多くが間もなく期限を迎えるので、イランは濃縮活動を徐々に再開できるようになる。これに対し世界がどのような手を打てるかは明らかでないのは、とくに先ほど論じた力学がテヘランにわざと挑発的に振る舞う動機を与えるからだ。

これが初めから致命的欠陥のある交渉だったのは、「口に出したくない重要な問題」が無視され、トランプがイランと効果的に対峙する方法について何の手掛かりもないまま合意を破棄したことで状況を100倍悪化させたからだ。遠心分離器など完全に新世代の装置を手にしたイランは、ウランをこれまで以上の速度と純度で濃縮して応じた。

バイデン大統領が安上がりな交渉を望む理由は全て間違っている。米国が他所の危機で忙殺されていても良いような、手っ取り早い解決策を求めているのだ。浅薄で戦略性のない政策によって、バイデン大統領はアフガニスタンで犯した過ちの全てを繰り返そうとしている。米国外交政策の義務を減らすための表面的な努力で世界の安全保証を犠牲にするのだ。

欧州連合のロシア政策における失敗と同じように、石油とガスが喉から手が出るほど欲しい欧州諸国が全面的にイランに依存するようになり、将来の西側諸国の圧力を免れるようになるという状況を、アヤトラたちは享受する。ロシアと西側諸国の両方がイランに気に入られようと競う時代にあって、イラン指導者はおそらく二重に力を得たと感じているだろう。これは大惨事への処方箋だ。

恐ろしいほどに不吉な兆しの中、良からぬ組み合わせの様々な関係者が、不道徳な結婚生活に乗り出そうと競り合っている。このように残念な悲劇が避けがたい破局的離婚へと急速に向かうとき、我々にできるのは近くにいないようにと望むことぐらいだ。

  • バリア・アラムッディン氏は中東と英国で活躍する受賞歴のあるジャーナリストでありテレビキャスター。メディア・サービセズ・シンジケートの編集者で、数々の国家元首にインタビューしている。
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