
パレスチナ人は自由を勝ち取るため、数十年にわたって予想のつかない変化ばかり起こる戦いを続けてきた。イスラエル政府とそれに従うアメリカの議員が、UNRWA(国連救済事業機関)の廃止を主要目標としていることが明らかになったのも、そのひとつだ。特にイスラエルの極右派が国政の中心になり始めてからは、その傾向が顕著だ。
UNRWAはヨルダン川西岸、ガザ地区、そして3つの難民受け入れ国で570万人以上のパレスチナ難民に対し人道支援を行っている。そして、アメリカは70年間に渡りUNRWAに資金提供を続けてきた。しかし2018年、ドナルド・トランプ大統領(当時)は突如、資金提供額を3億6千万ドル削減した。これはUNRWAの年間予算の約4分の1に相当する。
資金提供額の削減を要求したのは、アメリカ国内のユダヤ人ロビー団体と、イスラエルのリクード党首、ベンヤミン・ネタニヤフ首相だった。資金提供額の削減は中東地域におけるアメリカの政策に一貫性を持たせることとも、アメリカの長期的な利益に貢献することとも全く関係がなかった。トランプ元大統領はこのことを、パレスチナ難民を受け入れている中東地域の同盟国、すなわちヨルダン、シリア、レバノンに相談しなかった。その決断の結果、何百万人もの難民だけでなく、イスラエルとパレスチナの紛争の成り行きにも大きな悪影響が及ぶ可能性も、全く考慮しなかった。
強硬派のイスラエルの立場からすれば、最終的にパレスチナ難民は帰還できるのか、そうでなければ補償を受ける権利はあるのか、という問題が最も厄介だ。しかしUNRWAが消滅してしまえば、難民受け入れ国にその複雑な人道的・人口的問題を押し付けられる。そういう目論見であったのだろう。イスラエルはパレスチナ人を故郷から追い出し、なおかつ厄介な責任からは逃げおおせることになる。
イスラエルの利益のためならば、アメリカの議員たちはまたしても国際法を踏みにじってもかまわないつもりだ。
オサマ・アル・シャリフ
イスラエル政府は現在、既存の違法入植地を拡大し、占領地に新たな入植地を建設し、ヨルダン渓谷を併合し、エルサレム旧市街のアル・アクサ礼拝堂に対するハーシム王家の管理権を抹消し、東エルサレムのパレスチナ人の家を取り壊し、アラブ人の居住区全体を破壊し、エルサレム全域をユダヤ化しようとしている。UNRWAを消す邪悪な計画は、当然これらの行為に関連があるだろう。このようなプロジェクトを推し進めることは、民族浄化にほかならない。
現地のパレスチナ人は、ヨルダン川西岸にある彼らの土地へイスラエル人入植者が植民地支配的に侵食してくることを遅らせることはできても、止めることはできない。ましてや、大国がUNRWAへの資金援助を打ち切ったり削減することを止めることなどできない。
バイデン政権は2021年4月にUNRWAへの資金提供を復活させた。これにより、この問題は党派性を帯びた。次期大統領が共和党から選出された場合、資金提供の決定が覆されないという保証はない。エルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館をそこに移転させるという悪名高い行為(ちなみに、これは平和を促進し、停滞している政治プロセスを始動させるためには何の役にも立たなかった)と同様、UNRWAへの資金提供の削減はアメリカの新しい政策となりそうだ。
上院はすでに、UNRWAとパレスチナ難民の子孫への給付金を停止することを目的とした法案を審議している。「国連難民救済事業機関の説明責任と透明性に関する法(United Nations Relief and Works Agency Accountability and Transparency Act)」と題されたこの法案では、パレスチナ難民の子孫は、もはや難民とはみなされないことになる。法案では、「派生的難民としての認定は、パレスチナ難民の配偶者または未成年の子供に限る」とされている。
さらに、同法案は、アメリカは「UNRWAの職員、従業員、コンサルタント、請負業者、下請け業者、代表、関連会社」またはその他のパートナー組織が「反米、反イスラエル、反ユダヤの暴言、扇動、プロパガンダを伝播または普及させていない」旨の証明書をアメリカの国務長官が提出するまで、UNRWAまたは関連組織へのいかなる拠出も停止しなければならないと定めている。
UNRWAが崩壊すれば、ヨルダン、シリア、レバノンはたちまち不安定化するだろう
オサマ・アル・シャリフ
さらに、「イスラエル人を『占領者』や『入植者』として描く」ことをプロパガンダと表現している。さらに、「イスラエルへのボイコット、イスラエル資産の売却、イスラエルへの制裁(Boycott, Divestment and Sanctions、通称BDS)への支持を表明すること」「イスラエルへの難民の『帰還権』を主張または支持すること」、そして「イスラエルの土地とユダヤ人の歴史的つながりを無視、否定、認めないこと」も扇動のカテゴリーに含まれている。
このとんでもない文章は、イスラエル議会のクネセトの議事堂で書かれ、外交ポーチで親シオニストのアメリカの上院議員に送られたものだろうし、彼らが一言も付け加えたり削除したりしなかったであろうことは、想像に難くない。
まったく当然のことながら、この法案は、国際的かつ普遍的に認められている難民の定義、難民の権利、国連の条約や議定書の下で国際社会が難民に提供する義務のある法的な権利と責任の定めについて、完全に違反している。イスラエルの利益のためならば、アメリカの議員たちはまたしても国際法を踏みにじってもかまわないつもりだ。イスラエルの利益がアメリカの利益と合致しない場合もあるというのに。
これまでのところ、EU、欧州各国、日本がUNRWAを存続させるために介入している。が、UNRWAを維持するための資金を最も多く提供しているのが、EU、欧州各国、そして日本だ。
しかし、これだけでは十分ではない。UNRWAを存続させることは、アラブ諸国にとっても国家安全保障上の主要な目的であるべきだ。UNRWAが崩壊すれば、ヨルダン、シリア、レバノンはたちまち不安定化するだろう。そしてそれ以上に、甚大な人道的危機を引き起こすだろう。さらに、イスラエルにパレスチナを占領するメリットを与え、イスラエルがパレスチナ問題を強硬に始末するプロセスを加速させる。パレスチナ人の土地を取り上げ、難民たちの運命は、周辺地域と世界に押し付けられる。
パレスチナ人の苦境に公平かつ永続的な解決策がない限り、UNRWAを廃止することは愚かで無謀であるだけでなく、中東地域の安定も脅かすだろう。
オサマ・アル・シャリフ氏はアンマンを拠点に活動するジャーナリスト、政治評論家。Twitter: @plato010