


ヌール・ヌガリ
リヤド:天然資源、有利な消費市場、戦略的海洋進出に有利な地理的条件の組み合わせによって、「アフリカの角」は投資対象としても魅力的であるとともに、地政学的にも重要な場となっている。一方で、紅海を含むこの地域は、紛争や暴力的過激主義、人身売買、強制移住、COVID-19、環境問題など、いくつもの国境を越えた課題に直面してもいる。
EUの「アフリカの角」担当特別代表、アネット・ウェーバー氏の主な仕事は、紅海を含むこの地域と地域内の個々の国においてEUの政策や関心を広めることだ。特別代表は、平和、安定、法の支配の強化を強化するための努力において積極的な役割を果たし、EUの外交・安全保障政策担当上級代表の仕事を支援している。
今週のウェーバー氏のサウジアラビア訪問は、7月1日に特別代表に就任して以来、初のことだった。この訪問において、ウェーバー氏は、アデル・アル・ジュベイル外務大臣、アフリカ担当大臣であるアフマド・アブドゥル・アジズ・カッタン氏、サルマン国王人道援助救援センター(KSrelief)長のアブドゥラ・アル・ラベア氏、サウジ開発基金CEOのスルタン・アル・マルシャド氏と「非常に実りの多い会談」を行ったと語った。
「今回のサウジアラビア訪問の目的は、紅海に関するサウジアラビアの立場をより良く理解し、スーダンとエチオピアの現状について意見を交換することだ」と、ウェーバー氏はアラブニュースの独占インタビューで語った。
「EUとサウジアラビアは、ほとんどすべてにおいて意見は一致していると思う。同じ懸念を持っているが、同時に、そこからどう前に進んでいくか、何をする必要があり、どのように関与していくべきかについても同意している。非常に実りの多い、前向きな会談だった」
だが、EUの紅海や「アフリカの角」での目標達成において、湾岸協力会議の主軸であるサウジアラビアが必要とされる役割はあるのだろうか?
「もちろん」と、ウェーバー氏は、2020年1月に紅海とアデン湾の安全確保を目的として設立された「紅海とアデン湾に接するアラブ・アフリカ諸国協議会」を引き合いに出して請け合った。同協議会にはサウジアラビアのほか、エジプト、ヨルダン、エリトリア国、イエメン、スーダン、ジブチ、ソマリアが参加しており、海賊や密輸、その他の国際航路における脅威に対処するために各国の協力関係を強化することを目的としている。
「この協議会はもっと重要な会議であり、ここで各国共通の関心ごとを見つけられることを願っている」と、ウェーバー氏は語る。「ヨーロッパ諸国にとっては、この航路はアジアへの主要な貿易ルートで、貿易の23〜30%を担っている。海賊行為を抑制し、沿岸で活動するジハード主義者と戦い、海上の安全を確保することが我々に共通する関心の一つだ」
「その一つだけではない。実際には、紅海は国々を分断するのではなく、繋げる海なのだ。湾岸諸国、特にサウジアラビアと『アフリカの角』との関係における紅海の位置づけを見てみると、非常に興味深いものがある」
リヤドに向かう途中、ウェーバー氏はバーレーンに立ち寄り、国際戦略研究所が主催するマナマ対話に参加した。政府要人が参加するこのフォーラムは毎年開催されており、中東の最も急を要する安全保障に関する課題についての話し合いがなされる。
ウェーバー氏は「紅海・地中海における安全保障のダイナミクス」と題されたセッションで発言した。これは、EU理事会が「アフリカの角」とのパートナーシップを強化し、この地域における新たな戦略を確立しようとしている現在、非常に重要性の高いテーマだ。
「EU特別代表としての私の任務は、『アフリカの角』と紅海地域の国と国を繋げることだ」と、ウェーバー氏は語った。「危機管理外交という意味だけでなく、この地域の可能性を広げていくこと、『アフリカの角』の主要国とアラビア湾岸の主要国を結びつけるという意味でも」
「そのために何をするかはどんな問題を扱うかによって変わってくる。たとえば、停戦交渉の場合、私たちはアメリカだけでなく、湾岸諸国やアフリカ連合、国連とも緊密に連携して動く。このように、多国間外交はこの地域で活発に行われている。これこそが(特別代表としての)私の最大の関心事であり、それは状況についての我々の共通認識だけでなく、潜在的な解決策にも明らかに反映されている」
2011年以降、EUは「アフリカの角」に世界最大規模の人道支援を行っており、スーダンを除く5ヶ国のプロジェクトに数百万ユーロを投じている。ウェーバー氏は、EUは人道的プロジェクトから開発プロジェクトへの移行を望んでいると語った。
「たとえばエチオピアを例に挙げると、教育の質が高いため、人道支援をする理由はない」と、ウェーバー氏。「将来的な成長の可能性は十分にある。これまで私たちは改革に投資してきた。もし戦争や紛争がなければ、私たちは心から喜んで人道支援から投資へと移行するだろう。必要なもの、人々が選んで求めるものを届け、人々に未来を提供していきたい」
「人道支援の必要性がこんなにも高いことには満足してない。だが、たとえばソマリアや『アフリカの角』と呼ばれる地域では、気候変動やイナゴの発生など、人道支援を必要とする事象が数多く見られる。人為的ではないが、明らかに紛争に関連している」
「私たちが満足していないのはこの部分だ。喜んで投資したいと感じる国々に人為的な飢餓や人為的な不足があるべきではないのだ。支援金が活用されるのは嬉しいが、それが将来のために使われるならより、心から嬉しく感じられるだろう。今日の会談では、サウジアラビアで同じ立場にある人々も同様の思いを持っていることがうかがえた。私たちは皆、グリーンエネルギーや経済の発展のために投資したいと考えているのだ」
「今後、経済において重要になってくるのは、人道支援よりも、スマートテクノロジーや効率的な水質管理などだろう。だが、戦争で家を失った人々を責めることはできない。だからこそ、私たちが支援を提供する必要があるのだ」
エチオピア内戦については、ウェーバー氏は望ましい結果は平和的解決のみだという見解を表明した。
「平和的解決が実現しなければ、地域全体を巻き込んだ内戦となるだろう」と、ウェーバー氏。「エチオピアについては、もし(紛争の当事者が)交渉による停戦に至らなければ、もし、両者が軍事力で勝てると期待することをやめなければ、地域最大の国の崩壊を目の当たりにするだろうという危機感がある」
「その影響は紅海全体、地域全体に波及し、ヨーロッパやサウジアラビアにも感じられるだろう。エチオピア国内の対話における政治的側面はエチオピアの人々自身が対処しなければならないことだが、停戦は我々国際社会全体が取り組まなければならないことだ」
明るい話題としては、ウェーバー氏は、解決の仲介を行うために「アフリカ連合が首席調停官を任命したことを非常に喜んでいる」と述べ、「地域国の関与はとても喜ばしいことで、勇気づけられる」と語った。同時に、それでもEU、米国、サウジアラビア、平和的解決の過程に関与し続ける必要があると述べ、このまま紛争が続けば、「修復に何十年もかかる規模の民族的な崩壊が起こるだろう」と警鐘を鳴らした。
リヤドでの会談でウェーバー氏が最も重視したもう一つの国は、スーダンだった。スーダンでは日曜日に署名された合意によって危機が緩和され、暫定的な文民政府の樹立に向けた道が開かれたところだ。10月に起きたクーデター以来、何週間にも渡る激しい騒乱が続いていたが、軍はようやくアブダッラー・ハムドゥーク首相を復職させ、拘束された政治家の解放を約束した。
「これは、大きな前進だ」と、ウェーバー氏は語った。「EUとしての理解は終始、明確だった。両サイドの協力と、2019年の街頭での抗議活動における人々の宣言を考慮することで、安定性が得られると考えていた」
「初めて若い世代の声が未来に反映されることに安定性を見た。ハムドゥーク首相とと軍の混合政権に安定性を見た。軍部が独自の決定を下し、国民の意見を無視することがスーダンの安定した未来につながるとはまったく考えなかった」
「スーダンとこの地域の他の国々を混同するべきではない。国民が街頭で抗議活動を行ったのは今回が初めてではない。彼らは常に自分たちの政治的立場を明確にしてきた。彼らにとっては、軍の占領をただ受け入れるのは決して許されないことなのだ」
「これからが、また大変だ。これは堂々巡りではなく、軍が文民政府に飽きたらまたクーデターが起きるということはもうないのだと国民に納得してもらわなければいけないからだ」
EUなどの外部勢力は、スーダンの状況に関わる政治的・軍事的勢力に対し、何らかの影響力を持つのだろうか?
「我々はよりコンセンサスに基づいた理解を持つ必要がある。この地域の他の国々の方が我々よりも大きな影響力を持っているためだ。共通のビジョンを持つ必要がある」と、ウェーバー氏は言う。
「私たちのコミュニケーションにおける思考回路や手段は様々だ。一つの側面に関わるのが得意でなくても、別の側面に関わるのは得意かもしれない。だからこそ、どこを目指しているかの共通認識を持ち、関わっていくためのすべてのツールを活用することが重要なのだ」
ドイツ国籍を持つウェーバー氏は、「アフリカの角」と紅海地域での外交において25年以上の経験を持ち、政府の要人レベルで和平交渉を進めてきた。この地域に関して、国連、EU、ドイツ政府に助言を行ってきた実績があり、ミュンヘン安全保障会議では、同地域の問題について講演を行っている。
自分自身の経験も振り返った時、EUは「アフリカの角」が直面している膨大な数の課題に対して、現実的に変化をもたらすことができるとウェーバー氏は考えているのだろうか?
「『アフリカの角』の国々は、何十年、何世紀にもわたってこのような課題に直面してきた。だが、この2年間にこの地域で起こった2つの変化を見過ごしてはならない」と、ウェーバー氏は言う。「スーダンで起こったこと。そして、エチオピアでも非常に希望を感じられる変化が起こった。だからこそ、私は変化は可能だと思っている」
「そういう意味では、私たちは変化を支持している。協力関係や、自分たちの未来をつくっていけるという人々の意識が長期的に強まっていくのが感じられるし、私たちも変化をもたらすことができる。だが、同時に、私たちには紛争に巻き込まれた人々の苦痛を和らげる義務もある」
「痛みを和らげるだけでなく、より前向きな形での関与や投資、エネルギーをこれらの変化にもたらすことができればと思う。未来に、この地域の安定と強化、国家間の繋がりに関心を持っているのは「アフリカの角」の人々自身だ。競い合うのではなく、経済的、政治的、文化的に互いに繋がっていく。これは私たちにできることではないが、その動きを支えることはできる。それが、私たちの役割だと思っている」