
ドバイ: 天然ガス資源に恵まれた湾岸地域の一国カタールは、国際的に権威のあるFIFAワールドカップ開催に向けた12年間に及ぶ準備を経て変貌した。その次に、カタールは、その勢いを維持しつつ、観光と文化産業を強化することに注力している。
「ワールドカップは、カタールにとって、文化面で従来行われてきた取り組みの延長線でした」とカタール博物館の展示・マーケティング担当副CEOであるシェイカ・リーム・アル・タニ氏は、アラブニュースに話した。
アル・タニ氏によれば、カタールにおける観光・文化振興の大部分は、2008年7月に正式に決定された「カタール国家ビジョン2030」の一環として行われているという。同年には、著名な中国系アメリカ人建築家のI.M.ペイ氏が設計したイスラム美術館がドーハで開館している。
ワールドカップの観客は去ったが、数多のプロジェクトがなおも進行中であり、さらなる発展を予感させる。ドーハの街中や周辺の砂漠地帯には、特注のパブリックアート数十点が設置されており、その3割はワールドカップ開催までの1年間に制作されたものだ。シュク・アルマナ氏、ガダ・アルカター氏、ムバラク・アルマリック氏、サルマン・アルマレク氏といったカタール人アーティストによる作品と、コーニッシュ付近に置かれたジェフ・クーンズ氏の「ジュゴン」(カタールの自然遺産を象徴する海洋哺乳類ジュゴンをかたどった巨大な多彩色の鏡面仕上げが施されたステンレス鋼製彫刻のサイト・スペシフィック・アート)など世界的に名高いアーティストの作品が並んでいる。カタールの砂漠にはリチャード・セラ作の「East West/West East」が立っており、KAWS作の「The Promise」は地球儀を見つめる親子を描いたもので、環境保護の必要性を訴えている。
「これらパブリックアートは、カタールのアイデンティティを強調すると同時に、カタールで起きているすべての出来事の背景を表したものです」と、アル・タニ氏は言う。「たとえば、リチャード・セラ氏の作品ができるまで、人々には砂漠のそのエリアに行く理由が大してありませんでした。ですが今は、人がそこに行くようになり、現地の風景を探索する後押しにもなっています」
カタール通信によると、ワールドカップの全試合を合わせた観客動員数は340万人だったという。そして今もなお、カタールには観光客が押し寄せている。カタール民間航空局が発表した航空輸送統計によると、2023年1月、同国には355万9063人が航空機で入国しており、2022年同時期から64.4%増となった。
カタールはいくつかの野心的な目標を掲げている。2030年までに、年間600万人の観光客を誘致し、観光部門のGDP寄与度を7%から12%に引き上げることを目指す。そのために、国は文化、芸術、技術、観光に何十億ドルもの投資を行っている。今年2月、ドーハはアラブ観光機構から「アラブ観光首都2023」に認定されている。
2019年のカタール国立博物館開館時に構想され、政府支援による通年の文化キャンペーン「カタール・クリエイツ」は、博物館展示、映画、ファッション、ホスピタリティ、文化遺産、パフォーマンスアート、民間イニシアティブを組み合わせた祭典に発展している。
今月、「カタール・クリエイツ・ウィーク」では、数多くの展示オープニングとイベントが開催された。「カタールと西アジア・北アフリカ地域の写真家の実践と対話を多様化する」ことを目的とした、展示、授賞式、コミッション、コラボレーションから成る隔年開催のプログラム「Tasweer Photo Festival Qatar」をはじめ、マトハフ・アラブ近代美術館での展示「Beirut and the Golden Sixties」などがあり、カタール国立博物館ではアイスランド系デンマーク人アーティスト、オラファー・エリアソン氏の展示会「The Curious Desert」が開かれ、カタール北部のアルタヒラ・マングローブ近くの砂漠にある12点の新作サイト・スペシフィック・アートと、大規模な展示作品が集結する。
その他、ドーハ・フィルム・インスティテュートの「Qumra」は、カタールや世界の映画製作者に人材育成などの機会を提供するイニシアティブとして注目されている。
場所は変わって、ドーハにあるカタール・ミュージアムズの「ギャラリー・アル・リワク」では「Lusail Museum: Tales of a Connected World」と題して、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計を手掛けた現在カタール第2の都市ルサイルで建設中の新美術館のプレゼンテーションが行われた。先史時代から21世紀までのオリエンタルな美術品、考古遺物、メディアを専門に展示する予定だ。
Lusail Museumは、カタールの世界的なアートパトロンであるシェイカ・アル・マヤッサ・アル・タニ氏が3月に新設計画を発表した、3つの博物館のひとつである。他の2つは、カタール自動車博物館とドーハの海浜遊歩道にあるアート・ミル美術館だ。後者は2030年にオープン予定で、ドーハのコーニッシュにある工業用製粉所跡を改築し、すでにあるジャン・ヌーベル設計のカタール国立博物館とイスラム美術館で三角形を形成する 。チリの設計事務所ELEMENTALが設計したアート・ミル美術館は、公式サイトによると、「世界のあらゆる地域の近代・現代アートを平等に紹介する非西洋世界のパイオニア的施設」を目指す。
カタールでは文化イベントが目白押しだが、当局が強調するのは、同国の文化シーンの発展が、ワールドカップ開催権獲得と同時に、あるいはそれ以前から続いてきたということだ。2010年には、ドーハにマトハフ・アラブ近代美術館が開館した。それ以来、特にシェイカ・アル・マヤッサ氏の支援のもと、カタールは文化や観光に数十億ドルを投入してきた。その目的は、強固なアートシーンの形成や国家的アイデンティティの強化だけでなく、経済を多角化し石油や天然ガスへの依存度を下げることにもある。
サウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトから国交を断絶された2017年から2021年までの5年に及んだ国境封鎖の下でも、カタールは文化・観光分野の振興を続けた。
「ワールドカップがカタールの行動の迅速化を後押したことは間違いありません」とアル・タニ氏は言う。
「ですが、カタールにとって何より重要だったのは、経済の文化的・クリエイティブな部分の保持と発展、人々を啓発すること、そしてカタールの取り組みが熟慮に裏付けられた、自国色あるものであるかということでした」
ワールドカップの開催期間中に開かれた展示会の8割は、カタール・ミュージアムズが自らの収集品をもとに企画したものだったと同氏は付け加える。
「外から入ってきたものはほとんどありません」と言う。「私たちは、主にMENASA地域に焦点を当てたかったのです」
今年2月、カタールの4,500億ドル規模の政府系ファンドが、ポートフォリオのリバランスと、サッカー、金融、テクノロジーへの投資を検討していることを表明した。
「ワールドカップのおかげで、カタールの認知度は劇的に向上しました。カタールの存在が(新たに)大勢の人々の目に入ることとなったのです」とカタールの実業家Tariq Al-Jaidah氏はアラブニュースに話した。「大会は、世界的な大きな露出の機会を与えてくれました。私たちはすでにその影響を感じており、特に周辺地域からの観光客が増加しています」
Peninsula Qatar紙は2月に、4月末までに約20万人の観光客を乗せた58隻のクルーズ船がカタールに到着する見込みであると報じている。2022年11月にオープンしたグランド・クルーズ・ターミナルは、カタール国立博物館、ミシェレブ・ダウンタウン、スーク・ワキフ(いずれもパブリックアート作品で彩られている)が徒歩圏内にあり、観光客にとって理想的な立地にある。
「ワールドカップ、ホテルの新規開業、新旧の美術館が寄与して、カタールは文化的に成熟した観光地となりました」とAl-Jaidah氏は付け加える。
カタールでは、この機会を活用して、文化的・経済的な大発展につなげる準備が整っているようだ。