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中国――コロナウイルスの発生源にして世界経済成長の根源

世界の経済成長に対する中国の貢献は、一般に考えられているよりもはるかに大きい。(Shutterstock)
世界の経済成長に対する中国の貢献は、一般に考えられているよりもはるかに大きい。(Shutterstock)
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24 Feb 2020 06:02:38 GMT9
24 Feb 2020 06:02:38 GMT9

アンソニー・ローリー

アラブニュース独占寄稿

コロナウイルスの蔓延で中国はその初動対応をめぐり批判にさらされている。が、同時にこの世界第2の経済大国のかけがえのなさも白日の下にさらされた。つまり、ひとりアジアのみならず世界全体が経済成長の勢いを失わぬうえで中国の存在はなくてはならぬ、という意味だ。

世界の経済成長に対する中国の貢献は一般に考えられているよりもはるかに大きく、今回のコロナウイルスの事例にみるように、喜々として中国の粗探しに余念のない向きはそのことを頭に入れておいたほうがよろしい。目下、中国の向かう先が世界の向かう先なのだ。

中国は今や、GDPではアメリカを追い日本に先行する世界第2の経済大国となったが、真に重要なのはそれ以上に、中国以外の主要経済国の歩みがひどく遅滞するなか、中国は高い経済成長を続け世界の経済成長を底上げしているという事実だ。

国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局長の李昌鏞(イ・チャンヨン)氏が指摘するとおり、2019年の世界経済成長にアジアは実に70%の貢献をしている。うち、中国単独で41%を占め、インドが13%、ASEANがおよそ10%、残りはその他諸国となる。それぞれ10%程度でしかない米欧の存在感はかすんでいる。

李氏は、コロナウイルス禍により2020年のアジアの経済成長率は0.5ポイント減り、4.3%となるとみている。他方、S&Pのアジア太平洋担当チーフエコノミストのショーン・ローチェ氏は、成長率の落ち込みは香港・シンガポールで1ポイント前後、豪州・韓国・台湾・タイで0.5ポイントとしている。

中国はこの地域でずっと成長エンジンの役割を果たしているが、評論家連は中国政府の政策に文句ばかり言い募っている。そのくせ、米国・日本・欧州ほかで成長率が伸び悩むことからその下支え役を中国政府に期待し、新奇な景気刺激策を同じ口で求めているといった案配なのだ。

確かに景気刺激策は立てられるだろう。が、IMFの李氏が東京で指摘したとおり、中国は今回おそらく、輸入を支援するよりは、問題となった医療サービスなど、国内の社会的セーフティネット強化に的を絞ってくるものとみられる。

今年の第一四半期を越えて中国の成長率低迷が続くようならその累はみなに波及する。これは、ムーディーズその他の格付け機関の分析が示しているとおりだ。中国に対しては、外野から批判するくらいなら、医療・物流その他もろもろのあらゆる助力を提供するほうが世のためだ。

ウイルス封じ込めが先か、国と国とが手を取り合うなどして各国経済を再始動させるべきが先か、だ。多数の国が参加する世界銀行などといった機関が救援の調整役を務めるべきときがあるなら、今を措いてあるまい。が、目下のところ、そうした徴候はまるで見られない。

2017年以来、インフラと製造に回す中国の投資は顕著な落ち込みを示している。一帯一路計画にまでこれが及ぶ場合、世界経済成長に占める中国の貢献もさらに損なわれることになる。

コロナウイルスは確かに怖い。が、ストレスのあまり過剰反応を呼んだり、さてはパニックにまでなりがちなのは人のつねとして理解できぬでもないものの、「中国経済は疫病発生のため崩壊だ」などと言い立てる卑しき嘲りなどへこれが転化している。

中国がコロナウイルスとの戦いに勝利することはまず間違いない。それは、劇的な都市「封鎖」の結果であるか、あるいはウイルスが変異して毒性が弱まった結果だろう。今は薄明が覆うが、中国はおそらく思ったより早期に全面生産再開へと回帰できるはずだ。

今はコロナウイルスの問題が盛んに喧伝されているものの、その陰に隠れた世界経済に対するその他の脅威がそのあかつきにはふたたび頭をもたげることになる。数多あるこれら脅威は、マスクや目隠しくらいではとうてい防ぎきれない。

トランプ氏の引き起こした貿易戦争による分断がまず初めに襲う。これは世界経済にとどまらず、製造業の生産量や投資にも響く(景況感については言うに及ばず)。2019年、まだコロナウイルスによる打撃などその気配もなかったころから、すべてが顕著な低迷を示していた。IMFのデータが示しているとおりだ。

ドナルド・トランプのアメリカを苦しめているこの保護貿易なる「ウイルス」、一方では別の特定主要経済国群にも広がっている。世界の免疫システムが働きこのウイルスを撃退し、開かれた通商貿易のおこなわれる健全な心がけを取り戻すのでないかぎり、不安を払拭できる治療法はない。

自然災害・人災の引き起こすサプライチェーンの分断はよく言及される。が、「貿易転換」の話題となると稀少だ。「第1段階の合意」に基づき中国が米国からのさらなる輸入を強いられる場合、そのぶん欧州その他からの輸入は減ることになる。

リヤドで開かれたG20会合でIMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が語っているとおりだ。「二国間の管理貿易協定には、貿易と投資をゆがめ世界経済の成長を阻むおそれがある。われわれの試算では、管理貿易規定により世界経済に(およそ)1,000億ドルの損害が出る」。

これらに加え、主要経済国では記録的な低金利のため信用貸付に火を付けられた個人消費への依存症がある。山積する企業債務(中国も例外ではない)もしかりで、今年満期となる借換債から深刻な債務危機がもたらされかねない。

さらに、IMFの李氏のみたとおり、「長期ほど低利の」金利システムは今や主要経済国の多くで規定事項となった感があるが、このことが「金融の安定性に懸念を抱かせかねない」という問題がある。これはことに銀行にとっての問題だが、日本の群小銀行にとっては特に深刻な脅威と映る。

日本経済は今、自律的景気後退のリスクが冗談とはいえない段階だ(2四半期連続でGDPマイナス成長)。日本のメディアに接すると、中国やコロナウイルスに警鐘を鳴らす話ばかりだが、日本の成長が低迷しているのは概して、時宜を得ず増税した自業自得のツケといえる。

畢竟するところ、コロナウイルスの恐怖が緩和の兆しを見せ、評論家連がまたぞろ、世の終わりはどうなるだのといった蔓延する筋書きの先読みを開始しだしたとたん、夜もおちおち眠れぬような悪夢のシナリオをそこに山ほど見つけ出すこととなろう。そのときには、世界経済に内在する不安材料の咎を中国に帰することは容易ではあるまい。

コロナウイルス蔓延に対する中国の処置について最近、腫れ物に触るようにしている国がひとつある。日本だ。日中には長く緊張した関係があったことから一見すると奇異に映るが、日本の目下の自制には健全な政治的理由がある。

米国のトランプ政権が見せる貿易などの分野での奇矯なふるまいから経済におよぼされる脅威を日中両政府は極力小さくすることに気を揉んでいる。日本と中国は、貿易・投資の側面で良好な関係を拡大しないまでも維持したいという、「欲得づく」の思いを共有するのである。

アンソニー・ローリー氏は東京を本拠とする古参ジャーナリスト。専門は東アジア情勢。

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