
ナジア・フーサリ
ベイルート:サッカーイラン代表チームはこれまでにも何度か、FIFAワールドカップのアジア予選でレバノンを訪れ、試合を行ってきた。だが今週、イラン代表は全く異なる状況下で同国に降り立った。11日、イラン政府がレバノンを乗っ取り、アラブ周辺諸国から孤立させようとしているという論争が渦巻く中、イラン対レバノンの試合が行われたのである。
FIFAワールドカップ2022予選となったこの試合は2対1でイランが勝利したものの、レバノン人たちは新たに愛国心を燃やすことになった。
前半のレバノンの得点は、不運に苛まれているレバノン人たちに笑顔を与えた。
だが、この試合はレバノン人サポーターたちの国への誇りに火を点けた一方で、イランチームと「Wilayat Al-Faqih」(1979年のイラン革命以来、イラン政府が統治システムを表すために用いてきた言葉)をサポートする多くの偽ソーシャルメディアアカウントが作られた。
大半のサポーターたちは、レバノンチームには「国内の金融、経済、制度的な危機により、設備、トレーニング、肉体的なコンディション、総合的な準備が不足している」ことを認めているが、心は「杉の男たち」と共にあると話す。
政治家たちまでもが、レバノン代表チームに励ましの言葉を送った。
無所属議員のフアード・マクゾウミ氏は「すべてのレバノン人たちの心はサッカー代表チームと共にあります」と書いている。
活動家のムニール・カター氏は「大半のレバノン人たちは、サッカー代表チームの下で団結しています。無知に蝕まれ、国とセクト主義という概念を混同している一部の人間を除けば、レバノン人たちは国を愛しています」とツイートした。
今回の試合はレバノン南部のサイダにあるサイダ国際スタジアムで行われたが、FIFAとアジアサッカー連盟(AFC)は、「安全上の理由」からファンの入場を禁じた。
スポーツの専門家らは、この対応によりレバノンチームの「モチベーション要素」が失われたと遺憾の意を示した。
テレビでも試合の中継は行われず、サポーターが試合を生中継で観戦するための手段はYouTubeのみとなった。
FIFAは、最近レバノンの安全状況の評価を行った民間のセキュリティ企業に助言を求めた。「この報告は、10月にタヨーネで起きた事件に基づくものです」レバノンサッカー連盟(LFA)代表のハシェム・ハイダー氏はそう述べた。
青少年・スポーツ担当大臣はFIFAへの書状で、「レバノンの安定性、ファンたちの観戦を認める可能性」を強調したが、この試みは徒労に終わった。
スタジアムの外では、イラン対レバノンのサッカーの試合が全く異なる様相を見せていた。
ヒズボラのアル=マナールTVは、レバノンチームの健闘を祈り、反ヒズボラのレバノン視聴者の歓心を買おうと試みた。他方で、「Abu Ali Qobeisi」を名乗るオンラインアカウント は、イランチームを応援するためにベイルートに集まろうと呼びかけを行った。
「イランの支配に立ち向かうレバノンチームに幸運を」ある活動家はそうツイートした。
別の人物は「私たちの誇りであるレバノンチームと対戦するイランチームを応援し、レバノンのヒズボラというギャング組織と繋がっている、いわゆる『イスラムの抵抗』に所属している人間たちは、恥にまみれた見下げた者たちだ」と述べた。
「悪意に満ちたスパイ集団。レバノンは永遠にナンバーワンだ」
政治活動家のカルロス・ナファア氏は、ヒズボラがベイルート港での爆発事件の捜査を率いているタレク・ビタール判事を「捜査を政治利用している」と批判し、何度も罷免要求を出していることを引き合いに出し、「レバノンがイラン相手に得点したら、ヒズボラは審判の解雇を要求するだろう」と延べた。
2日前にイラン選手たちが大量の荷物を抱えてベイルート空港に到着した際、一部のレバノン人は「荷物の中にヒズボラのための武器か現金が入っている。短期間しか滞在しないチームにあんなにたくさんの荷物は必要ないはずだ」と述べた。
これを受けて内務大臣は空港の警備に対し「この件に関して適切に対処するため、荷物を検査し詳細な報告書を提出」するよう求めた。
アルジャディードTVでは、コメディアンのフセイン・カオウク氏が、「ベイルート南部郊外在住で、ヒズボラとアマル運動に参加しているシーア派の若者」に扮してコントを行っており、彼を中心にさらなる論争が起きている。
カオウク氏が皮肉な調子でこの人物を演じ始めて以来、ヒズボラ支援者たちからは厳しい批判の声が上がっており、一部では殺害予告を送りつける者も現れた。
ヒズボラのハッサン・ナスラッラー書記長は今回の試合に先立って演説を行い、サウジアラビアとレバノンで彼を批判している人物たちを非難した。