
菅政権が行政のデジタル化を掲げる中、地方自治体でも業務効率化などの観点から押印を不要とする流れが加速している。福岡市は、申請書など約3800種類の行政手続き書類について、9月末で押印義務をなくす「はんこレス」を完了。政府方針への同調を表明する首長も相次ぐ。一方、はんこ産地は「デジタル化の阻害要因にしないで」と反発を強めている。
福岡市では、高島宗一郎市長が「ノンストップ行政」を掲げ、2019年度末時点で行政処理件数の73.7%でオンライン化を達成。国・福岡県の法令で押印が義務付けられている約900種類の書類を除き、押印義務を廃止した。
市中央区役所を訪れた会社員の30代女性は「はんこを忘れて出直したこともあったので、(押印不要は)助かる」と歓迎。市担当者は「新型コロナウイルス感染拡大で、オンライン化は全ての自治体の潮流となるのではないか」と語る。
東京都は、8日の都議会本会議で行政手続きのデジタル化に関する改正条例を可決した。都が管轄する全ての手続きでオンライン申請を導入する方針だ。都民に習慣的に求めてきた押印は速やかに廃止、規則で定めてきたものについても、年度内になくしていく。
愛知県は、8月末から押印を求めてきた手続きの洗い出しを進めており、政府方針を踏まえ、調査を加速させる。大村秀章知事は「行政手続きは基本的に押印がなくてもやれる」と断言する。
山形県酒田市は、補助金申請の押印省略やデジタル化による地域課題の解決を目指し、10月1日付で「最高デジタル責任者(CDO)」のポストを新設。初代CDOに市出身の本間洋NTTデータ社長を起用した。
これに対し、はんこの一大産地である山梨県の長崎幸太郎知事は「短絡的に『はんこ廃止』と言わないで」とし、「はんこは悪」という風評被害が広まる現状に悲鳴を上げる。長崎氏は、行政手続きの押印省略には理解を示しつつも、押印のデジタル化やアジア諸国への販路開拓など、はんこ業界の生き残り支援を国に求める。
JIJI Press