
ロンドン:ガザ地区におけるイスラエルの軍事作戦が6ヶ月目となる中、欧米諸国の政府は、紛争に乗じて占領下のヨルダン川西岸地区でパレスチナ人の土地の不法な占拠をさらに拡大しようとしていると専門家に指摘されている「過激派」入植者に対する圧力を強めている。
最近数ヶ月間、過激派イスラエル人入植者による攻撃が欧米諸国の制裁を招いており、今後数週間から数ヶ月以内にさらなる制裁が課されるとの発表があると見られている。しかし、こうした国際的な動きにも関わらず、イスラエルのべザレル・スモトリッチ財務相は、先週、ヨルダン川西岸地区での死者を出した銃撃事件への対応として、3,000戸以上の新たな入植地の建設の承認を思い留まらなかった。
二国家解決を提唱し、ヨルダン川西岸地区でのイスラエル人入植者の行動を非難しているイスラエルの非政府組織「ピース・ナウ」は、過去12ヶ月間で26の新たなコミュニティが建設され、2023年は新規の不法入植地建設数において記録的な一年となったと述べた。
ピース・ナウの入植監視チームの一員であるヨナタン・ミズラチ氏は、ガザ地区で紛争が発生している間にヨルダン川西岸地区に新たな前哨入植地が出現する事はさほど珍しいことではないと語った。
🚨 A Good Year for Settlements; A Bad Year for Israel: Settlement Watch's summary of settlement activity in 2023.
— Peace Now (@peacenowisrael) February 15, 2024
Record construction, minimal law enforcement against illegal outposts, and substantial budgets marked the year, reflecting unparalleled support for settlers.
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「イスラエル・ハマス戦争開始以来、違法な前哨入植地に対するイスラエル民事局による撤去の執行は、あったとしてもずっと少なくなりました」と、ミズラチ氏はアラブニュースの取材に応じて語った。「入植者たちは、この状況に乗じて違法労働を増加させ、新しい前哨入植地や道路、その他の種々のインフラを建設しているのです」
2月23日、スモトリッチ財務相が数千に及ぶ新規入植地の建設を実行する計画を発表してからたった数時間後に、米政府は、そうした入植地建設は国際法との整合性に欠けており支持しないという年来の方針を復活させた。
アントニー・ブリンケン米国国務長官は、2月23日、「新規入植地は恒久的平和の実現に逆行するというのは、共和党政権下であれ民主党政権下であれ、米国が揺らぐことなく長期にわたって堅持している見解であり方針です」と述べた。
A clear, appropriate and vital statement from @SecBlinken: New settlement construction is counterproductive to peace, “inconsistent with international law” and “only weakens” Israel’s security. This is an important step forward. https://t.co/iLRbHPYkBl pic.twitter.com/83SDlYREJj
— J Street (@jstreetdotorg) February 23, 2024
2023年の入植地の記録的な承認数とヨルダン川西岸地区における入植者数の増加を受けて、バイデン政権は最近10年以上で初めて駐ワシントンのイスラエル大使を召喚した。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相の率いる極右連立政権の下で、イスラエル当局は、イスラエルの国内法と入植者たちの活動を融合させて数十年来継続してきた入植地拡大禁止の方針を陳腐化させようとしているようである。
こうした変化は、ヨルダン川西岸地区の15の前哨入植地の合法化に寄与した。また、イスラエル政府はヨルダン川西岸地区全域で12,349戸の住宅の建設を促進させる方向で動き出している。この戸数も新たな記録である。
最近発表した声明で、ピース・ナウは、イスラエルの人権団体「ベツェレム」のデータを引用して、「こうした前哨入植地の開設に直接的に関連した事実として、入植者による暴行を受けた1,345人前後のパレスチナ人が自宅からの退避を余儀なくされています」と述べた。
こうした新たな前哨入植地は、パレスチナ人にとっては災禍である。過去12ヶ月間で21のパレスチナ人コミュニティが立ち退きを強制された。その内16のコミュニティは、現在のイスラエル・ハマス戦争の発端となった2023年の10月7日のハマス主導によるイスラエル南部への襲撃以降に、この災禍に見舞われたのである。
こうした強制立ち退きや土地利用に関連した諍いは、長期にわたって、入植者とパレスチナ住民の間の局地的な暴力行為の一要因となっている。NGOの「グローバルセンター・フォー・レスポンシビリティ」によると、こうした暴力行為はイスラエル・ハマス戦争の開始以来拡大し激化しているという。
グローバルセンター・フォー・レスポンシビリティは、国連人道問題調整事務所のデータを用いて、2023年10月7日から2024年2月14日までの間に入植者によるパレスチナ人に対する暴力行為が532件あったことを明らかにした。暴力行為には、銃撃や家屋への放火が含まれ、死傷者や物的損害も発生している。
「占領下のヨルダン川西岸地区では、近年、2023年10月7日以前でも、入植活動が原因の、または、入植者たちが強制したことによる立ち退きが既に増加していました」と、GCR2Pの広報担当者はアラブニュースに語った。
「国連人権高等弁務官事務所は、2023年10月7日以降、こうした攻撃を行っている入植者たちが、イスラエル軍や政府当局の黙認や協力を得て活動している場合があると報告しています」
国連のデータは、また、占領下のヨルダン川西岸地区で結果として生じた立ち退きの規模を明らかにしている。2019年以来、4,525のパレスチナ人所有の建造物が解体もしくは破壊されている。
欧米諸国の政府は、ガザ地区におけるイスラエルの行為への非難を行うのには時日を要したものの、将来のパレスチナ国家の可能性を損なうと考えられるヨルダン川西岸地区の入植地拡大を阻止する必要性について認識している事を明確に示す態度を取っている。
第4ジュネーブ条約の第49条は、占領国が自国の民間人を占領地に移住させることを禁じている。それは、「入植者の移植」と呼ばれる行為である。
GCR2Pの広報担当者は、「故に、この入植者の移植、そして入植者の活動は、国際人道法に基づく占領国としてのイスラエルの義務に違反しているのです」と語った。
「入植地の拡大は、占領地が永続的にイスラエルの支配下に置かれることの実質的な保証であり、これは事実上の併合へと繋がります」
カナダやフランス、英国、米国はいずれもイスラエル人入植者に対して、渡航禁止を初めとして貿易禁止や資産封鎖に至るまでの制裁措置を取っている。一部のイスラエル金融機関も追随し、入植者の男性4人の口座を凍結した。
英国の外務・英連邦・開発省の報道官は、アラブニュースの取材に対して、英国にはイスラエルの入植地拡大に対する反対が長年あると語った。
同報道官は、「入植は、国際法違反であり、平和への障害となり、二国家解決の実現可能性を脅かします」と語った。
「私たちは、イスラエルに対して、ヨルダン川西岸地区における全ての入植地拡大を中止し、入植者による暴力行為の責任を追う者たちを拘束するよう繰り返し要請しています」
[1] This is how houses in Jinba, Masafer Yatta, looked after they were “searched” by a group of settler-soldiers on Monday last week (12.02). pic.twitter.com/0XlfOVl6U5
— Yehuda Shaul (@YehudaShaul) February 18, 2024
英国のデーヴィッド・キャメロン外相は、2月14日に「過激派」入植者4人に対する制裁を発表し、「イスラエルも入植者の暴力行為を止めるためにより強い行動を取る必要があります」と述べた。
ピース・ナウのミズラチ氏は、今回の制裁はイスラエルにとっては「大事件」だと語った。「あらゆるレベルに影響が出ると私は考えており、そう期待もしています。とにかく、イスラエル国民が入植地に対してもっと活発に反対することが必要なのです」
「イスラエル政府が『入植事業』について政策をどのように変更するのか、そもそも変更を行うのか否かを注視する事が必要だと、私は思います。」
「私は、異なる政府、入植者寄りではない政府であれば、入植者が違法に非常に数多くの前哨入植地を建設することを容認する前に、必ず注意深く熟考するに違いないと確信しています。しかし、現政権の場合となると、注視していなければなりません」
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イスラエルの議員たちはこの制裁措置に憤慨している。ネタニヤフ首相が率いるリクード党のアミット・ハレヴィ議員は、制裁対象となっている「農業労働に従事する真面目な家族」を支援する方法の検討のために、クネセト経済委員会の緊急会議を召集した。
他方、人権監視団体らは、今回の制裁は、イスラエルの戦争遂行努力に対して進んで資金を提供し、武器を供給し、外交的に支援し続けている各国政府による政治的粉飾に過ぎないと述べている。
アムネスティ・インターナショナルのイスラエル・パレスチナ研究者であるブドゥール・ハッサン氏は、この制裁措置は諸刃の剣のようなものだと述べた。ハッサン氏は、アラブニュースの取材に対して、制裁を科した諸国は、国際社会が注目していることを示しはしたものの、真の問題を看過していると述べた。
「制裁を科した欧米諸国の政府は、欺瞞的で、入植地ではなく、個々の入植者が問題だという見解を助長し、入植事業に内在する暴力行為を無視しています」とハッサン氏は語った。
「入植者の大多数のは暴力的ではなく、パレスチナ人に暴力を振るったりすることはありません。しかし、肉体的な暴力だけが問題なのではありません。パレスチナ人の土地を強奪することやコミュニティを隔離することも問題なのです。パレスチナ人を差別する入植者の権利や特権が問題なのです。そうしたことは、全て本質的に暴力的なのです」
「検問所やイスラエル兵、そして法的、物理的、政治的インフラが組み合わさって入植事業を推進していることが問題です。個人を罰することは、こうした根本的な問題を無視することに他なりません」
ハッサン氏は、和平の実現のためには、「国際法に違反している入植地」は解体されなければならないというアムネスティ・インターナショナルの年来の見解を繰り返した。
しかし、そうした入植地を解体するという考えは、「イスラエルが撤退するのか否か、いつ撤退するのか」、入植者家族の今後の展望についての懸念を引き起こすとミズラチ氏は語った。
「イスラエルは、入植者を避難させたことが過去に2回あります。最初は1982年にシナイ半島からで、その次は2005年にガザ地区とヨルダン川西岸地区北部からでした。私たち皆が知っている通り、意志のあるところに道は開けるものです」
「時間がかかるかもしれません。1日で数十万人を避難させることは無理かもしれません。しかし、それを実現する可能性はあるのです」