
ベイルート:抜本的な政治改革を求める抗議活動が活発化しているレバノンでは、11月15日、新首相に腐敗した政治エリート層の象徴とも言える人物が任命されたとの報道を受け、抗議の声が激化した。
匿名を条件に取材に応じたレバノン政府高官の話や各種メディアの報道を総合すると、モハメド・サファディ氏に次期政権の組閣を任せるという点でレバノンの大手政党が合意に達した。
レバノン全土では、腐敗と無能がはびこる政治エリート層の一掃を求める抗議活動が、前代未聞の規模で2週間近く続いていた。これを受け、サード・ハリリ首相は10月29日に辞任を表明した。
ミシェル・アウン大統領は実務型内閣の発足を支持すると語ったが、新政権の人事について信任を打診する動きは見せていない。またサファディ氏が首相に任命されたという報道についても公式の確認は取れていない。
サファディ氏の地元であるトリポリではさっそく市民が反対を表明した。今回の任命報道は市民に対する挑発だとして同氏が保有する地所の前に集まって抗議の声をあげた。
「モハメド・サファディ氏を首相に任命するなど、政治エリート層はまったくの思考停止に陥っているとしか思えません。他の星にでも住んでいるのでしょうか」とジャマル・バダウィ氏(60)は語った。
別のデモ参加者は、実業界の大立者で元財務相でもあるサファディ氏は、抗議活動を行っている市民が排除したいと考えている政治エリート層のまさに代表的人物なのだと述べた。
「彼は政治エリート層にがっちりと組み込まれています」と大学で教鞭を執るサメール・アヌス氏は語った。「サファディ氏はレバノンで盛り上がっている市民の声や期待には応えられない人物です」
15日午後はベイルート中心部にある高級ヨットハーバーのザイトゥナベイでもデモが計画された。これはサファディ氏が社長を務める企業が開発した娯楽施設で、公有地を侵食して建っているともっぱらの噂だ。
レバノン全土で十数か所の私立病院が緊急を除き外来患者の診療を停止している。国の支払い遅延が引き金となり医療活動に必須の物資が不足を来しており、状況に抗議するために診療停止に踏み切ったものだ。
11月8日には私立病院組合の組合長であるスレイマン・ハルーン氏が、現状では「レバノンの医薬品の在庫は1か月程度しか持たない」と発言している。
米ドルが手に入らない状況では事態が急激に悪化する可能性もあると同氏は警告した。
今回の抗議活動が始まって以降、銀行は米ドルの供給を制限している。レバノン全土の銀行で顧客による不当な扱いを理由に従業員がストライキを決行したが、その後も銀行は休業を続けている。また学校や大学の授業も休講を余儀なくされた。
レバノンポンドは20年に渡り米ドルにペッグされ、レートは1ドルあたり約1,500レバノンポンドとなっていた。レバノン市民は日常生活の中で両通貨を自由に入れ替えながら使ってきた。
一方、軍の発表によると、11月15日、デモ隊が封鎖した道路を開放しようとした兵士をデモ参加者が攻撃、そのうちの20人を拘束した。
その後9人を釈放し、7人に事情聴取を行い、4人の身柄を軍警察に移したという。軍はそれ以上の詳細を明かしていない。
AFP