
パリ:イランの抗議デモは聖職者が支配する政権を揺るがしてきたが、抗議デモに関連する初めての死刑執行に対する国際的な反発があった後、12日の時点で数人のイラン人が今にも処刑される恐れがある、と人権団体は警告した。
約3カ月続いている抗議デモは、イランの風紀警察に逮捕されたマフサ・アミニさんの死がきっかけとなって起きた。
この抗議デモは、1979年に国王が追放されて以降最大の反政府抗議運動になっている。
イランは抗議デモを「暴動」と呼んでおり、「敵国がデモをけしかけている」と主張している。
当局は弾圧することで対応している。国民に恐怖を植え付けるのが目的だ、と活動家らは主張している。
イランは8日、治安部隊のメンバーを襲撃したとして有罪判決を受けたモフセン・シェカリ氏(23)を処刑した。人権団体は、同氏の法的手続きは見せしめ裁判であり、性急だったと非難した。
イラン司法府は、これまでに11人が抗議デモに関連して死刑判決を受けたと報告しているが、活動家らによると、他にも12人ほどが、死刑判決を受ける可能性のある罪に問われているという。
ニューヨークに拠点を置くイラン人権センター(CHRI)のハディ・ガエミ事務局長は「外国の政府がイランに対する外交・経済的コストを大幅に引き上げなければ、世界はこの虐殺を許容していることになる」と述べた。
アムネスティ・インターナショナルは「マハン・サドラット氏(22)の甚だしく不公正な裁判のわずか1カ月後、イランは死刑執行の準備をしている」と発表した。同氏は抗議デモ中にナイフを抜いたとして有罪判決を受けたが、同氏は法廷で告発を強硬に否認した。
サドラット氏は10日、大テヘラン刑務所から近くの都市カラジにあるラジャイ・シャフル刑務所に移送された。「近いうちに死刑が執行されるかもしれないという懸念が大きくなっている」とアムネスティは発表した。
「他の死刑囚と同じように、サドラット氏は、尋問や法的手続き、見せしめ裁判が行われている間、弁護士との接見を拒否された」と、オスロに拠点を置く別の団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は発表した。
抗議デモで逮捕されたもう一人の若者、サハンド・ヌールモハマドザデ氏の命も、「裁判とは言えない性急な法的手続きの後」危険にさらされている、とアムネスティは警告した。
ヌールモハマドザデ氏は「幹線道路のガードレールを壊し、ごみ箱やタイヤに火を付けた」として告発され、11月に死刑を宣告された、とアムネスティは発表した。
イランの少数民族クルド人出身のラッパー、サマン・セイェディ氏(24)も死刑判決を受けた一人だ。同氏の母親はソーシャルメディアに動画を投稿し、「息子の命を助けてください」と懇願し、「息子はアーティストであって暴徒ではない」と訴えた。
もう一人の反体制派のラッパー、トゥマジ・サレヒ氏は反政府デモを支持することを表明したが、「地球上で腐敗をまき散らした」とする罪に問われており、死刑判決を受ける可能性がある。イラン司法当局は先月、そのことを確認した。
国連の専門家はセイェディ氏とサレヒ氏の事例に言及し、「我々は、死刑を科される罪で起訴されたイランのアーティストの命が心配だ」と声明で発表した。
アムネスティとIHRは、死刑を宣告された医師、ハミド・ガレハサンロウ氏の事例も持ち出した。
同氏は拘留中に拷問を受け、同氏の妻は同氏に不利な証拠を提出するよう強要されたという。その後、妻は証拠を撤回しようとしたという。
IHRの代表を務めるマフムード・アミリモガッダム氏は「抗議デモ参加者の死刑執行を防ぐ唯一の方法は、イランの政治的コストを上げることだ」と述べ、国際社会に対し「これまで以上に強力な」対応を取るよう呼び掛けた。
米国、EU加盟国、英国はシェカリ氏の処刑を強く非難した。
ドイツのアナレーナ・ベーアボック外相は「人命を甚だしく軽視している」と述べた。
イランは10日と9日に英国大使とドイツ大使を再び召還し、両国の行動に抗議した。抗議デモが続く中、イランが外国の大使を召還したのは、3カ月足らずで15回目だ。
外国がさらに踏み込んだ対応を取り、さらにはイランと断交し、イラン大使を欧州の首都から追放することを、多くの活動家は望んでいる。
シェカリ氏の処刑に対する怒りが世界中に広がった後、イランは、治安部隊による対応と裁判手続きの「均衡」の両方において自制していると発表した。
イランは弾圧の一環として死刑を利用している。IHRによると、治安部隊は弾圧で少なくとも458人を殺害している。
国連によると、少なくとも1万4000人が逮捕されている。