
カイロ:エジプトで毎年恒例だったアラブ世界最大のブックフェアが復活し、迷路のように陳列された本の中を何千人もの本好きが縫うように歩いている。しかし、今年のフェアの費用は高くついた。
第54回カイロ国際ブックフェアには厳しい経済危機が影を落とした。過去1年間でエジプトポンドの価値は半減し、物価は急騰している。
主催者によると、このフェアには最初の週末だけで50万人以上が来場した。しかし、出版社が印刷コストの上昇を埋め合わせるのに苦労している中、来場者の多さが売上に繋がらないのではないかと心配する声も多い。
フェアに参加した800社以上の出版社の一つ「マスル・エル・アラビア」を営むワエル・アル・ムラさんは、「今年は以前よりもずっと来場者が少なくなると予想していました」と語る。
エジプトでは予算が逼迫している。12月のインフレ率は21.9%に達し、多くの人が上がり続ける生活費を賄うために預金に手をつけることを余儀なくされている。
ムラさんは、「本は贅沢品です」と話す。「人々が生活必需品にお金を回す必要がある時に本の優先順位が下がるのは仕方がありません」
急激な通貨切り下げによって、輸出に依存する出版社はコスト増に見舞われ、多くの出版社が本の価格を最大2倍にまで引き上げた。
「エル・ラスム・ベル・カレマット出版」のCEOであるモハメド・エル・マスリーさん(38)は、「以前なら2000エジプトポンド(現在のレートで66ドル)あればスーツケースいっぱいに本を買う事ができました」と話す。
「今はもう無理です」
エジプトの出版社協会は読者を呼び込むため、人気のBNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター)サービスを通して本を分割払いで購入する選択肢を設けることを販売店に対し推奨している。
また、国営の出版社はアラビア語の古典を30エジプトポンド(1ドル)以下という大幅な割引価格で販売している。
販売店によると、危機の中でも年に一度の買い物を心待ちにしていた読者は負担を減らすために新たな方法を使っているのだという。
「エル・マハルーサ」の出版マネージャーであるアブダラ・サクルさん(33)は、「ほとんどの人は友達を連れてグループで来ているようです。欲しい物が決まったら仲間内で分担して買い、回し読みするのです」と語る。
「価格を見ると皆驚きます。それでも読みたいので、5冊買うところを2冊、2冊買うところを1冊という具合です」
危機を乗り切るために、出版社は出す本を精選するようになってきている。
エジプトポンドの下落に伴い基本的な紙材(全て輸入品)の価格が4倍になり、出版社は「手数料を下げ、版ごとの刷数を減らす」ことを余儀なくされたとムラさんは言う。
「非常に慎重に本を選ぶ必要があります。売れると本当に確信できる本だけを選びます」
歴史的にアラビア語文学の主要な輸出者であり、地域で最も安い本を求める読者を集めていたエジプトの安定した出版業界も、既に苦境の兆候を示している。
ムラさんは、「出版社の中には、必要最小限にまで規模を縮小したり、経済の見通しがもう少しはっきりするまで活動を停止したりすることを余儀なくされたところもあります」と語る。既に出版を完全にやめざるを得なくなった出版社もあるという。
ブックフェアの一画、カイロの有名なアル・アズバケヤ古本市の店々は不景気にも動じていないようだった。
歴史あるアズバケヤ庭園の壁の前に佇むこれらの露店は、100年以上にわたって古本(海賊版も)を他の場所の数分の一の値段で販売してきた。
これらの書店は例年通り、カイロ中心部の賑わう古本市から無数の本をカートに乗せて市郊外にあるピカピカの展示センターに運び込んだ。
モハメド・シャヒンさん(39)は、何十万人もの忠実な読者たちの例に漏れず、家族を引き連れてアズベキヤ古本市の店々に「直行した」のだという。
工学を学ぶ学生でボランティアもしているマラク・ファリドさん(18)は、「ここはフェアの中で一番人気のある場所です。ただ、冊数があまりない良い本はすぐに売り切れてしまいます」と話す。
イマームのモハメド・アッティアさん(40代)は、毎年このフェアのために地元のダカリーヤ(カイロの約150km北)からやって来るのだという。
ほとんどの本が1ドル以下で買えるアズバカヤ古本市は、アッティアさんにとって長年大切な存在だが、今や必要な存在となっている。
「今年は本がかなり高くなっています」と彼は言う。
彼はそう言いながらも、「アズバカヤの値段は変わっていません」と安堵した。今の経済情勢の中では貴重な恵みだ。
AFP