
ドバイ:サウジアラビアとその北や東の近隣諸国との間で進行中の「外交マラソン」は「サウジ・アジアのモーメント」を体現していると、サウジの地政学アナリストであるサルマン・アル・アンサリ氏は語る。
同氏は、サウジアラビアとアジア諸国との間でいくつかの外交訪問や協定が実現したことを受け、サウジは「このような素晴らしいマラソンを行っており、私はそれをサウジ・アジアのモーメントと呼びたいと思う」と話す。
アラブニュースによる週1回の時事番組「フランクリー・スピーキング」に登場したアル・アンサリ氏は、中央アジア、東南アジア、極東の経済国とのより緊密な関係を構築したいというサウジアラビアの動機についても触れるとともに、サウジが中国やロシアと関係を強めていることを伝統的な同盟国である米国はどのように見るべきかについて説明した。
サウジアラビアは12日、東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で友好協力条約(TAC)を締結した51番目の国となった。サウジの外相ファイサル・ビン・ファルハーン王子によるジャカルタ訪問中のことだった。
TACは1976年に締結された平和協定であり、主権・領土一体性・内政不干渉の相互尊重に基づいて地域における国家間関係を管理するための一連のガイドラインを確立することを目的としたものだった。
インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールといった有力な国々を含むASEANの10加盟国に加え、東南アジア以外の国々もこの協定に参加している。
2003年に中国とインドが最初に加入し、2009年には米国とEUも加わった。「これによりサウジアラビアと各ASEAN加盟国との二国間関係は間違いなく強化される」とアル・アンサリ氏は言う。「サウジ・アジアのモーメントと呼ぶのはそのためだ」
この1ヶ月間の外交におけるもう一つのハイライトは、日本の岸田文雄首相による、2020年の就任後初となった中東公式訪問だ。同首相は7月16日から19日の間にサウジアラビア、UAE、カタールを訪問した。
岸田首相の訪問においてはエネルギー安全保障がアジェンダの上位を占めていたが、グリーン技術への取り組みや技術・インフラ協力も目立って前面に出ていた。
アル・アンサリ氏は「フランクリー・スピーキング」の司会者ケイティ・ジェンセンに対し、「非常に重要な訪問だった」と語る。「日本とサウジアラビアの間では様々な分野に関する26以上の協定が締結された。エネルギー、水、先端産業、技術、保健、金融などの分野だ」
「サウジとアジアの関係に関しては多くのことが進行している。また、つい数日前に中央アジア・GCC会議が行われたという事実も忘れてはならない。双方はこの会議で初めて関係固めを開始した」
7月19日、湾岸協力理事会・中央アジア5ヶ国(GCC-C5)首脳会議がサウジの都市ジェッダで開催され、両地域圏の間のさらなる関係強化につながった。
アル・アンサリ氏は、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタンのC5について、「今のように中央アジア諸国がサウジに注目されたことはこれまでなかった」と指摘する。
「これら5ヶ国はOPECプラスが非常に重視する国々にも含まれている。また、特にウズベキスタンでは、サウジアラビアがACWAパワーカンパニーを通して運営する大規模な太陽光エネルギー・電力プロジェクトが進行している」
「中央アジア5ヶ国とGCC6ヶ国による今回の首脳会議は、よりウィンウィンな協力への道を開くとともに、間違いなく双方の戦略的・経済的利益を固めることになるだろう」
「サウジ・アジアのモーメントだ」
サウジアラビアが東に目を向けている理由の一つには、中国がエネルギー輸入大国および世界的な製造・技術大国として台頭していることがある。
サウジアラビアにとって中国は最大の貿易相手国である。一方、中国にとってサウジは中東・北アフリカ地域で最大の貿易相手国だ。エネルギーや幅広い製品の貿易が二国間で行われている。
中国は中東外交のフィールドでも主導権を強めてきている。
3月に中国による仲介のもとでサウジアラビアとイランが結んだ合意は関係正常化への道を開いた。これが中東における中国の役割の拡大の始まりだったのだろうか。
アル・アンサリ氏は語る。「(何年か前に)北京駐在のGCC外交官の友人にこう尋ねたことを覚えている。なぜ我々は中国に対し、イランに関して何かするよう働きかけていないのかと」
「彼の答えは、その問題については中国のカウンターパートに常に提起しているものの、彼らはいつも貿易の話しかしない、というものだった」
「だから、中国政府が重点を(シフトして)、貿易の観点だけでなく安全保障体制や政治的仲介にも目を向けている今は非常に重要なモーメントだ」
「中国にとって大きな動きだと思う。イランにとってもGCC諸国やサウジアラビアにとっても大きな動きであることは間違いない」
サウジアラビアが非西洋諸国への関与を深めていることは、ワシントンの政治家やコメンテーターの間で、サウジは伝統的な同盟国である欧米諸国の代わりに中国やロシアなどの側に付くことを選択したのではないかとの憶測を呼んでいる。
アル・アンサリ氏は、主権国家であるサウジアラビアが外交・貿易関係を多様化させるのはごく自然なことであり、死活的に重要な米国との戦略パートナーシップを放棄したわけではないと指摘する。
それと同時に、米国は主権国家間の関係に干渉しようとしたり、自国の中国との貿易関係は許しつつ他国のそれは阻止するという二重規範を押し付けたりすべきではないと同氏は言う。
「中国にとって米国は最大の貿易相手国だ。我々は他の国に対し、ビジネスのやり方や相手について指図すべきではない」
「30年前、中国を最大の貿易相手国とする国は20ヶ国だった。現在(その数は)130ヶ国以上になっている。それが現実だ。中国は世界の工場なのだ。中国と協力しようではないか」
「中国は邪悪な国だと思われているが、そうではない。米国が二重規範やゼロサム的なアプローチを取ることは望ましくない」
「我々は世界が調和して生きることを望むとともに、中国であろうとロシアであろうと、欧州の友好国であろうと米国であろうと、全ての国との間にウィンウィンの協定を結びたいと思っている。サウジアラビアが果たしたいのはそのような役割、すなわち中間者になること、真ん中に位置すること、あらゆる国とビジネスをすることだ」
アル・アンサリ氏は、サウジアラビアが主権という考え方を重視するのは今に始まったことではなく、米国はサウジによる一方的な外交取引を恐れる必要はないと話す。
「我々は常に、サウジにとって、そしてサウジアラビアの友好国でありたいと考える全ての国にとって、主権が重要であるという考えを持っている」と同氏は言う。「サウジは方針を変更して同盟国から別の国へと乗り換えるようなことはしない。それはサウジのやり方ではないしスタイルではない」
サウジと米国は共に共産主義と闘い、共にテロと闘い、共に世界のエネルギーと経済を安定化させた。サウジはこの非常に戦略的で重要な関係に大きくコミットしている。
サルマン・アル・アンサリ
「サウジは建国以来、国益を追求している。当初から米国と協力して世界の主要な紛争や敵対国に立ち向かってきた」
「サウジと米国は共に共産主義と闘い、共にテロと闘い、共に世界のエネルギーと経済を安定化させた。サウジはこの非常に戦略的で重要な関係に大きくコミットしている」
「現在の米国はサウジアラビアにとって2番目の貿易相手国とされる。安全保障などに関してもサウジにとって主要な戦略パートナーと見なされている。しかし相違点がいくつかあることは間違いない。それはあらゆる関係の中にあるものだ」
米国はサウジアラビアが石油に関してロシアと関わり合うことに対しても懸念する必要はないとアル・アンサリ氏は言う。そのような動きの唯一の意図は、ウクライナ戦争を受け、そしてロシア産石油に対する欧米の制裁を受け、世界のエネルギー市場を安定化させることだからだ。
「現在の米国は、我々がOPECプラスを通してロシアと組んでいると思って怒っているのかもしれない。しかし、実際にはその点に関して心配する必要はないと思う。我々の目的は特定の国を別の国よりも支援することではないからだ」
「我々の目的はエネルギー市場の安定化だ。それを行うための唯一の方法は、他国と関わり合うこと、そして需要と供給に働きかけることを可能にするような統一的なメカニズムを持つことだ」
アル・アンサリ氏は、サウジが地政学的な同盟を作って米国に対抗しているという考えを退けつつ、こう語る。「サウジアラビアがOPECでの決定を通してロシアと組んでいるという考えを受け入れる人はいないと思う。米政権がかつて怒りに任せて流した古い情報に過ぎない。当時、米メディアはずっとそういう論調だった」