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バイデン、トランプ、そしてガザ地区の力学

最近の全国世論調査では、米国大統領選挙において、ジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ元大統領の間で大接戦が繰り広げられている事が示されている。(資料画像 / AFP)
最近の全国世論調査では、米国大統領選挙において、ジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ元大統領の間で大接戦が繰り広げられている事が示されている。(資料画像 / AFP)
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28 Feb 2024 10:02:03 GMT9
28 Feb 2024 10:02:03 GMT9

11月の米大統領選挙まで9カ月を切り、最近の全国世論調査では、ジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ元大統領の間で大接戦が繰り広げられている事が示されている。

バイデン米大統領は、年齢や度忘れ、ガザ戦争に対する議論を呼ぶ姿勢、さらには、40%未満の惨憺たる支持率、他ならぬトランプ元大統領に率いられた共和党による悪質な攻撃にも関わらず、依然として生き残る可能性を保っている。

2月27日のミシガン州予備選は様々な文脈において重要な選挙である。ミシガン州には、米国内最大のアラブ系米国人コミュニティが在る。2020年にはその大多数がバイデン氏に投票したが、現在、米政権に強いメッセージを送るために、アラブ系米国人の有権者に対して「白票」を投じるよう呼びかける草の根運動が行われている。たとえトランプ氏が大統領に返り咲いたとしても、それは自分たちの責任ではないのだとこの運動の関係者たちは語る。

バイデン大統領がガザ戦争においてイスラエルを明確に支持している事実は、同現職大統領が第2期目の当選を果たし得るか否かの決定要因となるだろう。米国の世論調査によると、米国人の約60%がガザ停戦を望んでいる。バイデン大統領は、Z世代やミレニアル世代の有権者や進歩主義者を含む民主党の若年層の支持を失うリスクを負っている。こうした若い民主党支持者たちは、バイデン大統領が2020年に当時のトランプ大統領を政権の座から追い落とす事に貢献した。

予期しない事態が発生しない限り、バイデン大統領は民主党の大統領候補として11月の選挙に臨むことになる。アラブ系やイスラム系米国人の票は、全国世論調査においてトランプ氏との差を縮小するにあたっての鍵となるだろう。民主党側の専門家たちは、バイデン氏の経済における実績と、社会の拡がる「トランプ恐怖症」がバイデン氏にとって有利に作用する事を期待している。

しかし、バイデン米大統領は、イスラエルという国家、そして、イスラエルによる重大な人権侵害、戦争法や国際人道法、ジュネーブ条約の違反、その他のガザ地区での好戦的行為に、これまでいかに自身の政権が対処してきたのか、その経緯について説明責任を果たす必要がある。

米国民は、ガザ地区での虐殺的な戦争が後1ヶ月継続することに耐えられない。特に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、米国を初めとする多数の国々の警告に反して、100万人以上のパレスチナ人の避難先となっているラファへの全面的地上攻撃を強行した場合、それは米国民にとって全く耐え難いことになる。

バイデン大統領がガザ戦争においてイスラエルを明確に支持している事実は、同現職大統領が第2期目の当選を果たし得るか否かの決定要因となるだろう

オサマ・アルシャリフ

バイデン米政権は、戦争に関連した政策の調整に注力している。同政権は、あまりにも多くのパレスチナ人が殺害されたことを認めている。バイデン大統領自身が、これまでのイスラエルの反応は「行き過ぎ」ていたと明言したのだ。

ところが、依然として、バイデン米政権はイスラエルに対する、武器の供与と戦争資金の提供を継続し、ネタニヤフ首相は軍事作戦の早期終結を求めるバイデン氏の助言や要請を無視している。

バイデン米政権は、また、ネタニヤフ首相と彼の連立政権の極右的なパートナーたちが二国家解決策を断固として拒否しているにも関わらず、それがどのようなものなのか、どのように実現され得るのかについて明らかにすることなく、この解決策によるパレスチナ国家の必要性についての議論を再開させた。

選挙の年である今年、再選に向けての厳しい戦いに直面するバイデン大統領は手一杯の状態にある。バイデン大統領はネタニヤフ首相との公の場での議論を避けているが、それはイスラエルを見捨て仇敵であるイスラム過激派の手に委ねてしまったと共和党やトランプ氏から非難されることを怖れているからである。しかし、すぐにでもそうした政治的衝突は発生するだろう。イスラエルはガザ地区から決して撤退しないというネタニヤフ首相の宣言やヨルダン川西岸地区での入植者たちの暴力行為、新規のユダヤ人入植地建設の承認、さらにはレバノンとの全面戦争さえをもめぐって、バイデン大統領とトランプ氏、双方の陣営は非難の応酬を行うことになるのだ。

他方、トランプ氏は早ければ来月上旬にも共和党の指名を獲得しようとしているようである。

イスラエルのガザ戦争は、バイデン現大統領に対するトランプ前大統領に攻撃の最重要項目ではなかった。トランプ氏は、国境や不法移民、中絶、ジェンダー問題、麻薬など、米国の有権者にとって最重要な問題にこれまで焦点を当ててきたのだ。

共和党寄りの専門家や保守系メディアも、イスラエルやイスラエルによるガザ地区住民の大量虐殺を盲目的に支持しながら、この事に焦点を置いている。トランプ氏は、自らの立場は何のか、そして、もし自分が政権を担当していた場合いかに対応するのかを訊ねられた際には、支離滅裂で曖昧な返答をした。そう、トランプ氏はイスラエルを支持しており、ハマスに2023年10月7日の襲撃をさせることは無かっただろう。トランプ氏は、イスラエル・ハマス戦争については自然な解決を待つ必要があるとの考えを示した。

「つまり、戦争が続いているわけなので、おそらくこのまま放置するしかないでしょう」と、トランプ氏はユニビジョンに最近語った。

トランプ氏は、イランやその傀儡組織を追い詰め、ハマスに拘束されている米国人人質の解放を確実に遂行できたと主張することだろう。ガザ地区からの難民の受け入れを米国は拒否すると、トランプ氏は述べ、入国者に対するイデオロギー審査を求めている。そして、再び、ハマスを支持する移民の米国入国を禁じ、ハマスを公然と支持する移民を逮捕し国外追放するために親ハマスの抗議活動に警察官を派遣すると明言した、

トランプ氏は、パレスチナ国家や自身が2018年に発表した中東和平案への言及は避けた。このトランプ氏の中東和平案は、当時、パレスチナ側には拒否され、ネタニヤフ首相からは冷淡にあしらわれた。

実際のところ、トランプ前大統領は、イスラエルのへの支持を表明せざるを得ない一方で、パレスチナの自己決定とイスラエルの残虐行為という問題に関連して米国内で生じている分断には取り組んでいないのだ。

二国家解決を推進し実現しようとするバイデン大統領が2期目を迎えたとしたら、この紛争への取り組みは変化するのだろうか?

論点の1つは、バイデン大統領が議会やロビー活動からの圧力から解放されるようになり、パレスチナ人たち、とりわけガザ地区のパレスチナ人たちが受けた壊滅的な被害を鑑みて政策の軌道修正を行いたいと考えるかもしれないというものである。

それは、いくつかの要因次第である。戦争がどのくらい早く終結するか、終結した後に何が起きるのか、パレスチナ人にとっての正義の実現に繋がる均衡のとれた取り組みを提供し得る国際社会とアラブ世界の同盟諸国からの圧力、戦争後にイスラエル国内で何が起きるのか、ネタニヤフ首相とその連立政権の極右的なパートナーたちが最終的な勝者となり得るのか等が、この場合の要因となる。

一方、トランプ氏が11月に勝利を収めた場合、中東で地域戦争が勃発しない限りは、同氏が何らかの行動を速やかに取る見込みはあまり無い。

トランプ氏に関する限り、予想外の事態が発生することを覚悟しておくべきだ。バイデン大統領の外国政策の欠点から何かを学ぶか、あるいは、トランプ氏らしく破天荒であることを是として米国は中東にはもう辟易したので代わりに真のライバルである中国に焦点を置くべきだと決断したりするかもしれない。

アラブ系米国人や若い民主党有権者に「虐殺ジョー」と呼ばれるまでになってしまった現在から11月まで、その行動の如何にも関わらず、バイデン大統領にとっても大統領選で勝利を収めることは容易ではない。

トランプ氏の運命は裁判所によって決められてしまう可能性もある。有罪判決が出た場合には、残留を目指す戦いは、同氏の選挙資金の調達能力と判例に左右されることになるだろう。

2つの悪でましな方は、バイデン現大統領と民主党政権ということになるだろう。それでもやはり、いずれの場合においても、米国を引き裂く政治的混乱は、中東の指導者たちに自らの針路を定めることを促す注意喚起となるはずである。イスラエルのほんの一握りの狂信者や偏狭な人々以外、中東地域内での戦争の激化を望んでいる者はいない。

そして、ガザ地区での戦争がどのような形で終結したとしても、同様の大惨事の再発を阻むためには、パレスチナ問題の公正で永続的な解決を実現する事が必要なのだと世界は認識しつつあるのだ。

  • オサマ・アルシャリフ氏は、アンマンを拠点とするジャーナリスト、政治評論家である。X: @plato010
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