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イランがホルムズ海峡の封鎖の可能性を示唆。今回こそ国際社会はこの威嚇に真剣に向き合うだろうか。

テヘランで会談する安倍晋三首相とアリー・ハーメネイー大統領。(ロイター通信)
テヘランで会談する安倍晋三首相とアリー・ハーメネイー大統領。(ロイター通信)
14 Jun 2019 04:06:07 GMT9

日本の安倍晋三首相はテヘラン訪問中の6月13日、イランとアメリカの間の緊張を緩和しようと、イランの最高指導者アリー・ハーメネイー師と会談した。安倍首相は、トランプ大統領からのメッセージに対するイラン側からの返答を預かろうかと申し出たが、ハーメネイー師はそれを断った。それもそのはず、ハーメネイー師からの返答はまさにその瞬間、アラビア湾を航行中の2隻の民間のタンカーへの同時攻撃という形で、すでに送り出されていたようなのである。石油化学製品を積載したノルウェー船籍のタンカーは炎に包まれた。もう片方の標的になったタンカーは、寄港地シンガポールを目指して日本向け積荷(メタノール)を運んでいた。これは、安倍首相による平和維持の努力を鼻で笑う計算ずくの作戦だったのだろうか。

アメリカと湾岸協力理事会(GCC)の当局者は、攻撃の黒幕はおそらくイランであろうと早い段階で特定したが、最終的に黒幕を断定するにあたっては徹底した調査の結果を待つのが正しい流れだ。しかし専門家が同意するところによると、先月発生した4件の石油タンカーへの攻撃にはイランの関与が強く疑われており、イラン以外に黒幕の可能性が具体的に疑われる国は存在しない。

イランはこれまで繰り返し、ホルムズ海峡の民間船舶の往来を封鎖すると威嚇してきた。わずか数日前、ヒズボラの指導者ハサン・ナスルッラーフ氏は火を吹くかのような演説で、アメリカ軍を「壊滅」させると威嚇し、「地域全体が火の海になる…原油は1バレル200ドルから300ドルになるだろう」と宣言したばかりだ。

ナスルッラーフ氏の予測は不気味にも的中し、原油価格はタンカーへの攻撃の直後数分で急上昇した。イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣は、普段は温和な言動で知られているが、同氏でさえ最近アメリカに対して「このまま安全でいられると思っているなら大間違いだ」と威嚇している。

では、このような安っぽいチンピラ集団は、爆発が相次いで自国に疑いの目が向けられた時に、濡れ衣を着せられたとでも言わんばかりに激怒するふりができるのだろうか。

イラン政府はどうやら、攻撃こそ最大の防御だと結論付け、それゆえ戦時体制に向かって動き出しているようなのだ。

イランでは経済が崩壊中であり、トランプ政権が後6年継続する可能性がある中、イラン経済は持ちこたえることができないと、イラン政府は理解している。イラン政府はどうやら、攻撃こそ最大の防御だと結論付け、それゆえ戦時体制に向かって動き出しているようなのだ。ゴドス軍のガーセム・ソレイマーニー司令官は先月、イランの影響下にあるイラク、レバノン、及びイエメンの武装勢力に対して、欧米の拠点を標的にする準備をするよう指示したばかりだ。

オマーン湾での攻撃が発生したのは、イランのミサイルがサウジアラビア南西部のアブハー空港の到着ロビーに着弾して何十人もの死傷者が発生した翌日であった。同地域は気候が穏やかな魅力的な地域であり、サウジアラビアやその他の湾岸諸国では夏の休暇先として好まれている。そのため同空港は一年で最も混雑する時期であった。アブハー空港への攻撃に関して犯行声明を出したフーシ派の報道官は、サウジアラビアの全空港を標的にすると威嚇した。実際、2017年にはリヤド空港に向けて複数のミサイルが発射されている。

こうした威嚇は、中東全域でイランの影響下にある武装勢力を用いて、中東諸国を衝突に巻き込もうとする動向の一部をなすものである。イラクが安定する見込みもほとんどないのも頷ける。カティフでも最近急激に状況が不穏さを増す中、イラン政府がバーレーンの村々でまた挑発に出るのも時間の問題である。この争いにイスラエルも加わり、レバノンとシリア南西部に地獄のような状況と破壊をもたらすのにも、そう時間はかからないだろう。

抑止力が機能するのは、それを行使する準備があることが示された時のみだ。アメリカ政府は抑止力を巧みに使うことができていない。かなり大きく吠える割には、一切噛みつかない犬のようなのだと思われてしまっているのである。トランプ大統領が衝突は望まないと弱々しく宣言したのを聞いて、ハーメネイー師は安心しただろう。すでにぐらついている世界経済に原油価格の急上昇で大打撃が生じる可能性があり、トランプ大統領が2020年の大統領選挙での自身の再選の見込みを経済成長にかけていることに鑑みれば、アラビア湾での攻撃は、ハーメネイー師によるトランプ大統領の弱みを突くための計算された動きだったようにも思われる。さらに攻撃は、「我々にはまだ他国に損害を与える余力がある」との露骨なメッセージを世界に突きつけるものとなった。

海事専門家らは、民間の輸送を完全に保護することは不可能と指摘している。何百もの石油タンカーや民間船が、常にホルムズ海峡の最狭部を通過しているのだ。これらの攻撃が繰り返されているため、原油価格は高値のまま推移する可能性がある。輸送と保険にかかるコストは大きく上昇する可能性があり、そうなれば世界経済にも深刻な悪影響が連鎖的に広がるだろう。攻撃を受けた企業がアラビア湾から撤退することを発表し、同様の決断を行う企業が出てくる可能性も出ているから尚更だ。イランが1980年代にアラビア湾に機雷を敷設した時同様に、石油製品を積載した大型タンカーが魚雷などで攻撃を受ければ、魚や複雑な生態系が住む環境にも危険な影響が生じることになる。

イランの良い警官・悪い警官戦術にはもううんざりだ。ヨーロッパを笑顔かつ無能なザリーフ外務大臣とロウハーニー大統領で誘惑する間、ハーメネイー師とソレイマーニー司令官がホメイニー師さえ夢にも思いつかなかったであろう攻撃的な戦略を実行に移しているのがイランの現状なのだ。ロシアは、緊張緩和に向けて交渉を行うよう促しているが、イランにシリアやその他の国々への拡大を許してパンドラの箱を開けてしまった張本人はロシア政府なのである。標的となった船舶にロシア国民が乗っていたからといって、プーチンは気にも留めないだろう。

イランのテロリスト政権とその影響下の武装勢力のリーダーは繰り返しはっきりと、地域を火の海にして世界経済を焼き尽くすと私たちに向かって警告してきた。どうして私たちは、そのイランの言葉をいつも額面通り受け取れないのだろうか。5月に緊張が高まった際、ヨーロッパの傍観者たちはこぞってその責任をトランプ政権に押し付け、緊張はアメリカの政策の失敗によるものであるかのような構図を提示しようとした。今回相次いでいる攻撃は全て先制攻撃であることから、緊張の高まりの原因を作っているのはひとえにイラン側であることがわかる。世界の指導者たちは、トランプ大統領が(取るとすれば)どのような行動を取るのか座って見ているだけではいけない。現状必要になっているのは、今回攻撃を受けたノルウェーが参加していることから特にNATOなどの組織が、団結して対処することなのである。

短期的には、世界全体の石油の需要はほぼ一定の水準を保つ傾向にある。そのため、石油の供給量が少し下がるだけでも、価格は急上昇する可能性がある。世界の石油の5分の1がホルムズ海峡を通過することから、イランは世界経済を人質に取って、原油価格を急上昇させられると考えているのだ。

今回の危機は、過去のイラン政府とアメリカ政府間の形だけ・刀先だけの威嚇とは比較できない段階に達している。

世界の指導者は一般的に、毅然とした行動を通してイランを抑制する効果的な戦略を再度打ち立てる勇気を持ち合わせていない。しかし、毅然とした行動を取らなかった場合待ち受けるのは世界経済の崩壊または中東での長期にわたる壊滅的な戦争であり、残された選択肢は少ないと近いうちに気付かされることになるかもしれない。

バリア・アラムディンは、受賞歴のあるジャーナリスト兼ニュースキャスターとして、中東及びイギリスで活動中。Media Services Syndicateの編集者であり、これまで多くの首脳をインタビュー。

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