
トランプ政権によるイランへの「最大限の圧力」政策と制裁は、その主な目的の一つ、イラン政権に大きな経済的圧力をかけることを確実に達成した。しかし、意図されなかった結果の一つは、イランが現在中国の手中に押し込まれていることである。そして、中国は米国・イラン間の緊張関係を最大限に利用している。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、中国との25年間にわたる包括的協力協定案に承認を与えたと伝えられている。この取引をめぐってハッサン・ロウハニ大統領とモハメド・ジャバド・ザリフ外相に祝福を与えることで、ハメネイ師は合意をめぐるイランでの激しい議論に終止符を打とうとしている。師はまた、イラン当局と議員に対し、この取引を支持し、中国との交渉に対する批判を止めるべきだというメッセージを強く打ち出そうとしている。
ハメネイ師が足を踏み入れる前には、イランの最も著名な強硬派の一部でさえ、この協定に疑問を呈した。例えば、イラン議会の強硬派議員であるマフムード・アフマディ・ビガッシュは国営テレビ局に対し、提案された合意には「イランの島々の完全な権限を中国に移譲する」ことが含まれていると考えていると警告した。イラン外務省は直ちにビガッシュの発言が「基本的に間違っている」とする声明を発表し、このような「根拠のない主張」は「イラン・イスラム共和国の国益に対する深刻な打撃」であると付け加えた。その後、ビガッシュは発言を撤回し、「イラン・中国間の協定の草案を読んだが、文章のどこにもイランの島々を中国にリースすることに関する議論はない」と述べた。
ハメネイ師がこの取引を支持することが明らかになった今、強硬派が支配するイラン議会は最高指導者の指示に従い協定案を承認することが確実と見られる。イランの国営メディアは、中国を支持ことが国の利益となるという言説をすでに広め始めている。例えばカイハン新聞の見出しは、「議会:イラン・中国間の協定に対する敵の姿勢は、イラン政府が正しいことをしたことを示している」との語句が並んだ。ドンヤ・エ・エクテサド紙は「世論調査により、コロナ禍の中でも中国経済は他国を上回っていることが明らかとなっている」と書いている。
しかし、イランよりも中国のほうがこの包括合意からはるかに多くを得るということは指摘すべき重要な点である。そもそもイラン当局は弱い立場から中国との交渉を開始した。テヘランの経済は崩壊の危機に瀕しており、インフレ率と失業率は過去最高水準にあり、コロナウイルス大流行は状況を悪化させ、政権はその従業員や民兵グループに支払いもできない。経済状況は非常に悲惨な状態となり、一部の当局者でさえ反乱やイラン崩壊の可能性を警告している。言い換えれば、イランの政権はサバイバルモードにあり、その支配を維持するために切実に現金を必要としているのだ。
一方、中国は有利な立場にあり、経済的にははるかに良い立ち位置にいる。中国のGDP(国内総生産)は4月から6月にかけて3.2%増加したが、他の多くの国はパンデミックによる深刻な経済不況を目の当たりにした。国家統計局が指摘したように、「国の経済は上半期のコロナ禍の悪影響を徐々に克服し、回復的な成長と緩やかな復活の勢いを示し、発展の再生力と活力をさらに明らかにした」と指摘した。中国が明らかにイランよりも中国に利益をもたらすような厳しい条件を導くことができたのはこのためである。
世界第二位の経済大国である中国にとってわずかな金額である約4,000億ドルを25年かけて投資することで、中国は非常に割安にイランの石油を得ることができ、通信、エネルギー、港湾、鉄道、銀行等、イランの産業のほぼすべてのセクターにおける影響力とプレゼンスを高めることになる。中国は世界最大の石油輸入国であるということは注目すべき点だ。
イラン議会は最高指導者の指示に従い協定案を承認することが確実と見られる。
マジッド・ラフィザデ博士
さらに、協定は国際法に準拠し拘束力があるため、イランに政権交代が起こるかどうかに関わらず中国政府はイランでの足場を固め、一帯一路構想を進め、今後25年間かけて成果を手にしていく。中国政府はまた、イランでのプレゼンスを通じて湾岸諸国に甚大な戦略的影響力を及ぼすことになる。協定の草案の冒頭の段落では、「二つの古代からのアジア文化、そして類似した未来への展望と相互の二国間および多国間の利益を多く共有するパートナー同士の二国は、貿易、経済、政治、文化、安全保障の分野において、互いを戦略的パートナーと見なすものとする」と規定されている。
イランの経済の弱体化と孤立状態の高まりにより、中国は最大かつ明らかな勝者となっている。