
この11月に行われるドナルド・トランプ米大統領二期目続投を左右する戦いは、明らかに困難の様相を呈してはいるが、不可能とは決まっていない。コロナウィルスのパンデミックにより、現時点で19万人以上の米国民の命が奪われ、トランプ大統領の再選を脅かす唯一の主な要因となっている。しかし、最近の世論調査が示す通り、彼と民主党のジョー・バイデン対立候補との間のギャップは、この米国史上最も奇想天外なる選挙シーズンが佳境へ近づくにつれて、縮まりつつある。挑戦的なトランプ氏は郵送投票(民主党は支持)の整合性に疑問を呈し、これによって11月3日の投票は不正となる可能性があると訴えている。
識者たちの間では、選挙の最終的な結果が出るまでに何週間、あるいは何ヶ月もかかる可能性があり、厄介な法的抗争が待ち受けていると予測されている。トランプ氏が負ければ、深刻なまでに分断された今の米国社会の只中で、選挙結果についての異議を唱えるだろう。どちらにしても米国はこの先数ヶ月にわたって非常に困難な日々に直面する。
しかし、中東にとってはトランプ大統領の二期目は何を意味するのか?大胆不敵なトランプ氏は大統領選に先立って二つの重要な外交政策上の勝利を勝ち取った。先週、アラブ首長国連邦に続いて、バーレーンがイスラエルとの国交正常化を発表し、これらの歴史的合意に よって、対立と混乱の絶えない中東地域における ピースメーカーとしてのトランプ氏のイメージが高まることになるだろう。
他のアラブ諸国も11月3日以前に同様の足取りをたどる可能性があり、もしもトランプ氏が二期目を勝ち取ることになれば、中東におけるニュー・ノーマルが期待でき、そうなればイスラエルが新たな地域同盟の支柱として台頭することになろう。トランプ大統領は中東における米国の物理的存在を引き続き低減していく一方で、イランとトルコによる脅威に対抗することを目的とするイスラエル−アラブ代理連合を支援していくことになる。とりわけ湾岸諸国は、これら二つのライバル国がアラブ地域で影響力を拡大させようとしており、両国が実質的な脅威を呈していると考えている。この点が中東に対するトランプ大統領の新たな安保方針の根拠だ。それによる主な影響として、これまでアラブの中核的な主義主張であったパレスチナ問題から、イスラエルの新たな同盟国たちが解放される。
イスラエルとパレスチナとの間の和平に対するトランプ氏のビジョンが、この何十年にもわたる抗争を収束させるための多くのイニシアチブの一つであることに変わりはない。トランプ政権二期目では、そうした抗争の解決に向けた働きかけが低減するはずだ。代わりに、トランプ大統領の和平チームは、新たなイスラエル−アラブ連合の結束強化に力を入れることになろう。米国がパレスチナに対して思わせぶりな態度を見せるとしたら、そこには誠意がない。
トランプ大統領はイラク、アフガニスタン、そしてある時点でシリアからの米軍撤退を推し進める意向だ。彼の対イラン戦略は、新たに形成されたイスラエル−アラブ連合路線をもって完全保たれる形となる。トランプ大統領の二期目続投は、すっかり資金不足に陥っているイランにとっては絶望的なものになろう。イラン封じ込めによって、イラン政府へのプレッシャーが高まるだけではなく、それはさらにイランをロシアと中国寄りにさせることにもなる。イラン政権の崩壊が近い将来に起こることはないが、強硬派たちがいわゆる中道派を犠牲にしてでも国のコントロールを拡大していくものと思われる。イラクやシリアの国政に対するイランの干渉も継続するだろう。イラクにとってさらに米軍が撤退していけば、凶悪な武装軍団に対抗しようとしているムスタファ・アル・カーズィミー首相の使命を一層難しいものとするだろう。トランプ大統領の優先事項は、何がなんでも米軍を帰国させることになるはずだ。
トランプ大統領の二期目続投は、すっかり資金不足に陥っているイランにとって絶望的なものになるだろう。イラン封じ込めによってイラン政府へのプレッシャーが高まっていく。
オサマ・アル=シャリフ
中東地域の分裂は米国が地域的代理権に依存すればするほど深刻化を増す。地域の不安定化要因として台頭しつつあるトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領への対処について、トランプ氏は何の明確な戦略も持っていない。イラク、シリア、カタール、地中海東部のいずれにおいても、トルコ政府は大胆なる植民地目標をもった主要プレーヤーとなっている。自国が加盟しているNATOを無視したロシアとの同盟関係についても、米国政府は黙認している。トランプ大統領の二期目においても、エルドアン大統領の周辺国に対する大胆な動きに対して彼が態度を変えるとは思えない。
トランプ政権二期目における地域的な最大の課題は、米国が立ち去った後の空白を誰が埋めるのかという問題だ。2015年のロシアのシリア介入は、中東で増大するロシアの影響力に関する一大事件となった。 その影響力は今やリビア、トルコ、イラン、そしてイラクにさえ及んでいる。トランプ政権二期目には、中東におけるロシアの活発な外交的・経済的・軍事的活動を見ることになる可能性が高い。米国の中東撤退によって、中国が経済的影響力を及ぼし、新たな提携関係を構築するチャンスが与えられることにもなるだろう。
トランプ氏が勝利すれば、イスラエル−アラブ連合を中心とした新たな地政学的現実が明確化されるものと考えられる。この同盟がいつまで続き、どのような試練を受けることになるのか、興味深く見守りたい。米国は連合を支援し擁護していくだろうが、トランプ氏が米国にとって戦略的重要性が低下したと考える地域からの意図的な米軍撤退と時期を同じくすることになる。このように米国の関与が薄れることにより、新たな同盟の形成という意味において、一体どのようなことが起こるのか、そしてイラク、シリア、イエメン、リビアといった国々における国内抗争がどう移り変わっていくのか、今後の成り行きを見守りたい。
オサマ・アル=シャリフはジャーナリストで、アンマンを拠点とする政治評論家でもある。ツイッター: @plato010