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イラン:米国大統領選挙までの戦略と戦術

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28 Sep 2020 05:09:12 GMT9
28 Sep 2020 05:09:12 GMT9

今年になって米国とイスラエルがイラン政府に大きな圧力をかけたという事実にもかかわらず、テヘランは両国に対して大規模な軍事攻撃による報復を戦術的に控えている。イランの指導者は、11月の米国大統領選挙が終わるまでこの政策を続けるものとみられる。

イランでは最近数か月の間に、ナタンズの核施設やコジールのミサイル製造施設など、軍事および核関連の重要施設において大規模な爆発と火災が発生している。これらは、その洗練されたやり方から、イスラエルによる攻撃とみられている。テルアビブはまた、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)に関連しているとされる、イラクとシリアの複数の軍事基地を攻撃したが、イランはイスラエルに対して同様の攻撃による報復には出ていない。

イランの内外政策について最終決定権を持つアリ・ハメネイ最高指導者でさえ、核施設の爆発についてイスラエルを非難することを控えている。彼はまた、イスラエルに対する大規模な攻撃を行う指示を、IRGCにもその代理勢力や民兵に対しても出していない。

同様に、カセム・ソレイマニ司令官がトランプ米大統領の直接の指令によって1月に殺害されて以降、テヘランは、攻撃を声高に非難しながらも、米国の利益に対する大規模な軍事攻撃は行っていない。ソレイマニ氏の死後、イランがイラクの米軍基地に発射した数発のミサイルは、米軍関係者を誰一人殺害することはなかった。ワシントンには攻撃の事前警告さえあったという。

これは、イラン政府がイスラエルや米国に対する大々的な報復を意図していないということではない。イランの指導者は、2つの理由から、米国の大統領選挙が終わるまでは慎重な姿勢が得策であるとみているようだ。
第一の理由は、核施設の破壊やシリア・イラクの基地への攻撃に対してイスラエルに大規模な報復攻撃を開始すれば、イスラエルがイランと直接戦火を交える契機として利用されることをイラン当局が懸念している点だ。トランプ政権は同盟国を軍事的に支援し、この危機的な時期にイランに壊滅的な打撃を加えるだろう。

政府は、米国に対する攻撃がトランプ氏の再選を後押しすることを恐れている。

マジッド・ラフィザデ博士

イランの経済状況も切迫した状況にあり、政府財政は破綻に近づいている。イランの通貨リアルは、今年の夏に記録的な低水準に急落した。米国がテヘランに対する「最大限の圧力」政策を開始する前には1ドル約3万リアルの水準だったが、7月には約24万リアルに暴落した。イランの原油輸出も、米国の制裁措置により過去最低水準に落ち込んだ。イランの国家予算は、原油輸出による収入に大きく依存している。

政府は公務員に対する給与を支払うことさえ難しくなっている。炭鉱や鉄道の労働者を含む多くの公務員は、未払い賃金に関して抗議を行っている。今年4月、ある抗議者はイラン・ニュースワイヤーに次のように語った。「コロナウイルスに感染したい。みんなそう思っている。自殺は難しいが、私たちは毎日死を願っている。私たちが過ごしているのは人生ではない。これを生きていると言うだろうか」

また同国の政府当局の中には、海外の傭兵に給与を支払うための十分な資金がないところもあると公に伝えられている。たとえば、モスタザファン財団の総裁でもある、IRGCのパルヴィーズ・ファターフ氏は、春に次のように述べている。「私はIRGC協力財団にいたが、ソレイマニ氏は、ファテミユン(アフガニスタンの傭兵)の給与を支払う資金が不足していると言った」

「彼は、彼らはアフガニスタンの同胞であると言い、我々のような立場の人間に助けを求めたのだ」

また、新型コロナウイルス感染症の第2波が同国を襲い、政府は、広範囲にわたる不安や政治体制の崩壊の可能性について懸念を深めている。

米国に対する大規模な軍事行動を控えている第二の戦術的な理由は、攻撃が実施されれば、トランプ氏の支持者は結集し、態度未決定の有権者もバイデン候補ではなくトランプ氏支持に回る可能性があり、結果的にトランプ氏の再選を後押しすることになるのを恐れている点だ。過去に米国が外国勢力から大規模な攻撃を受けた際には、決まって現職の大統領が再選されている。

イランは、イスラエルと米国に対する軍事的な報復の好機が来るのを待っている可能性がある。バイデン氏が11月の選挙でトランプ氏に勝利するチャンスを脅かしたくはないからだ。

  • イラン系米国人のマジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学卒の政治学者である。Twitter:@Dr_Rafizadeh
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