
紅海地域の安全性と安定性に対する懸念が劇的に高まったことで、ここ数年、同地域における影響力をめぐる国際競争が激化している。大国や貿易国は、この地域での足場を得ようと互いにしのぎを削っている。アメリカはジブチにアフリカ最大の基地、キャンプ・レモニエを維持し、一方のフランス、イタリア、日本、その他の国々も大きな軍事的存在感を有している。中国政府はジブチに中国人民解放軍支援基地を設置している。
しかし、多くの国々が紅海地域で軍事的な足場を得ようとしている一方で、競争を管理し、最善の結果を得るための有効なプラットフォームがないため、これらの国々の間での協力は限定されている。しかし、アデン湾、アラビア海、ソマリア沖での海賊、武器密輸、密貿易への対策においては、効果的な国際パートナーシップが存在する。33ヶ国の連合である合同海上部隊(CMF)は最も良く知られておりで、第150合同任務部隊(海上治安活動)、第151合同任務部隊(対海賊作戦)、第152合同任務部隊(アラビア湾の海上治安活動)といったタスクフォースを通じて、かなりの効果を上げている。また、ソマリア沖の海賊と戦うEUの「アタランタ作戦」もある。ただこれらの取り組みは、その任務や地理的範囲に限りがあり、紅海や新しい脅威も対象に含めるよう、拡大する必要がある。
5月15日に行われたジブチのイスマイル・オマル・ゲレ大統領の5期目の就任式に集まった注目は、国際社会がこの地域の安定をいかに重視しているかを示している。ジブチでの式典には、近隣の国や政府の首脳や、大国の著名な使節が出席した。ゲレ大統領は1999年以降その地位にあり、同国の高まる戦略的重要性と、影響力をめぐる国際的・地域的競争を目の当たりにしてきた。
隣国ソマリアやエチオピアの混乱とは非常に対照的なことに、ジブチの安定性は、同国が近隣諸国と比較して相対的に繁栄していることと同様に、紅海の安全保障にも貢献してきた。人口約100万人のジブチは、アフリカの角の最も小さな国だが、1人当たりの所得は最も高い。1人当たりの国内総生産は3400ドル強とやや控えめではあるが、これはエリトリアやエチオピア、スーダンの6倍から8倍だ。
対照的に、紅海を見渡せるいくつかの国々では、地域紛争、政情不安、貧困、ガバナンス不足などにより、多くの領域において統治が行き届いておらず、テロリストや海賊、組織犯罪集団、無法国家などに、これらの空白を利用して、地域の安全を脅かすチャンスを与えてしまっている。
紅海は、バブ・エル・マンデブ海峡とスエズ運河の2つの重要な狭い航路の間に広がっており、世界貿易の約10%と1日400万バレルの石油がここを通っている。しかし、これらが封鎖された場合には、閉塞状態に陥る可能性がある。
湾岸協力理事会の観点から見ると、紅海の安全保障への対応は非常に緊急性が高い。最も差し迫った安全保障上の脅威は、ドローンボートや対艦ミサイルによる攻撃、機雷、海賊、テロ、武器密輸などである。また、人身売買、麻薬、サイバー攻撃などもある。
内戦、政治的争い、貧困、汚職は、紅海地域の一部が無法国家になっていることに大きく関連している。国家権力の崩壊は、紅海の多くの国で治安部隊の能力が限られていることと同様に、非統治空間を生み出すことで、脅威を増大させてきた。
ソマリア沖で海賊の脅威は低下した一方、かつての海賊らは違法漁船の警護を行っており、その一方で、中にはダーイシュやその他のテログループに協力している者もいる。イランは、この地域の不安定さを利用して武器を密輸し、航行の自由を脅かしている。同国の船もまた、違法漁業の主な受益者の中の1つだ。
人身売買は紅海地域の重要な問題となっている。例えば、サウジアラビアで逮捕される不法入国者のほぼ全員が、紅海やイエメンの国境を越えて来ている。人身売買業者はまた、紅海沿岸の比較的貧しい国々から子どもや10代の若者をヨーロッパに密輸したり、地元の部族長やテロリストにお金を払って取引の手助けを行っている。かつてはアジアからイラクやシリアを経由していた違法薬物取引の大半は、現在では東アフリカを経由しており、組織犯罪集団がその運営を行い、テロリストグループが手助けを行って、これらの取引からその資金の一部を調達している。
内戦、政治的争い、貧困、汚職は、紅海地域の一部が無法国家になっていることに大きく関連している。
アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士
要するに、このような状況は、組織犯罪集団、テロリスト、無法国家に、厄介な協力のチャンスを生み出してきたのだ。そして彼らは、法と秩序の隙間があれば、それをより巧妙な方法で利用しているのだ。
このような複数の増大する脅威に対処するためには、地域レベル、国際レベルでより良い連携を行うことが急務となっている。先週、ドイツのベルクホフ財団は、紅海の海洋安全保障に関するタイムリーなディスカッションを主催した。この素晴らしいバーチャル・ディスカッションからは、紅海の両岸地域でも、国際的にも、広い意味での紅海の安全保障の強化に大きな関心が寄せられていることが明らかとなった。また、紅海両岸の国々や地域機関、国際的な当事者を含めた3者間の連携の枠組みにも大きな支持が得られている。この3つのグループは、全ての問題で合意したり、協力したりする必要はないが、それぞれの取り組みの調整を行う必要がある。
防衛協力はおそらく最も緊急性が高い。その性質上、このような協力は、同じ考えの国や協力可能な軍隊の間でしか行えない。合同演習、訓練、能力開発は強化すべきだ。合同海上部隊の連合パートナーは、任務を地理的に拡大して紅海を含むようにし、対象範囲を拡大してサイバー攻撃や人身売買などの新たな脅威を含むようにすることを検討すべきだ。また、EUのアタランタ作戦の任務拡大も奨励されるべきだ。
テロと戦い、テロリストの動きや資金調達に困難にし、勧誘した若者を過激化させることを防ぐには、沿岸警備隊の訓練を含め、治安部隊間の協力と知識共有の拡大が必要だ。
貿易や投資協力は、雇用と合法的な暮らしを提供することにより、安全保障上の脅威のいくつかの根本原因に対処する鍵となる。
国際機関や地域組織は、競争を管理し、それぞれの能力を活用するために、紅海沿岸国間の協力関係の強化や、関連する地域や世界の当事者間の対話のための有用なプラットフォームを提供できるであろう。これらの機関は、貿易、投資、援助の流れの調整や強化にも取り組むべきだ。