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香港の抗議活動の代償の数々

香港の湾仔でのデモ中に催涙ガス弾を消火しようとする、身柄引き渡し法案に反対する抗議活動参加者。(『ロイター通信』)
香港の湾仔でのデモ中に催涙ガス弾を消火しようとする、身柄引き渡し法案に反対する抗議活動参加者。(『ロイター通信』)
23 Nov 2019 12:11:32 GMT9

香港では抗議活動が6ヶ月以上続いている。当初は、香港市民の身柄を中国本土に引き渡すことを可能にする法案に対して、極めて平和的な抗議活動が街頭で行われていた。

抗議活動開始直後には、上層部の実業家などの香港の支配層の人物も含めて、全員が抗議活動に参加した。新法を通してビジネス面で中国政府から不当な圧力がかかるのではないかと心配していたのだ。

香港の林鄭月娥行政長官の対応は遅れ、法案を明白に撤回するのではなく、施行を遅らせるとの対策しか行われなかった。その後同法案は撤回されたが、その時には時すでに遅しという状況になっていた。抗議活動参加者からは、より民主的な体制や林行政長官の辞任を求める声が上がり始めた。よくあることだが、事態はそれ自身の力学を展開し始めたのだ。抗議活動はより暴力的になり、双方で強硬な姿勢が強まった。

香港基本法(香港の憲法)は一国二制度のもと運用されているが、最近の動きではこの制度自体に対する疑問も投げかけられている。この制度はもともと、1997年に香港がイギリスから中国政府に返還された際に、それから50年間自由市場経済を維持し特定の自由権を保証するために鄧小平氏が制定したものだ。

この制度は、イギリスから見ても中華人民共和国から見ても納得できるものだった。イギリス政府とクリス・パッテン香港総督は、ある種の自由権と民主的体制の維持を確たるものにできたと感じることができた。香港の「資本主義」体制、それに世界の資本市場にアクセスできる香港の株式市場は、中国政府の経済成長戦略にとってもありがたいものであった。1997年には、香港の経済規模は中国の18%だった。中国の経済規模はそれから14倍に成長したため、香港の相対的な経済規模は現在は中国本土の3%になっている。また、上海株式市場も世界的に重要な株式市場になった。

だからといって、中国政府は香港への関心を失ったわけではなく、依然として香港は潜在的に有用な地域だと考えている。問題は、相対的な経済力に反映された有用性がどれほどのものかということに過ぎない。アリババは今週、香港での上場で110億ドルを調達した。また中国は、粤港澳大湾区をサンフランシスコの巨大なシリコンバレーに匹敵する経済クラスターに成長させる計画である。どちらの例でも、その指揮権は中国及び中国企業が堅く握ることになる。

香港の有用性に鑑みれば、なぜ中国政府がこれまで忍耐強い対応をしてきたのか納得できるだろう。しかし、大湾区を整備する計画や、一国二制度がハーフタイムを迎えた事実に鑑みれば、習近平国家主席や同主席が率いる政府がなぜ忍耐強い対応を終わらせつつあるかがわかるはずだ。

実際、香港では統制の取れない状況になっており、それに対し中国政府は権限を行使し始めている。林行政長官が抗議活動参加者が覆面をかぶるのを禁止したが、それは基本法に違反しているとの判断が今週これまでに香港高等法院から示された。これに対し中国政府は、24時間と経たないうちに高等法院の管轄権を無効にする対応を取った。中国政府は、基本法は中国の全国人民代表大会が独占的に管轄権を持つものだと主張したのだ。

いずれかの時点で、中国政府の忍耐の範囲を完全に超えることになるだろう。そうなれば、厳格な法律が完全に適用されることになると考えられる。例えば抗議活動参加者は、もし暴徒であると認められた場合、最大懲役10年となる。

また同時に、抗議活動の代償も、経済分野や外交分野にのしかかり始めている。香港の2019年の経済成長は、昨年の3%から0.3%に減速すると予測されている。スイスの時計メーカーらは、香港での騒動のため販売が10%落ち込んだと訴えている。その他の高級品メーカーも、世界的な贅沢消費の聖地の1つである香港が徐々に混沌とした状況に陥っていることに対し、不満を表明している。香港の航空会社であるキャセイパシフィック航空が8月に発表した決算の中間報告はパッとしないものであり、香港国際空港での多くの抗議活動や封鎖を受けて、同航空会社の財政状況はさらに悪化することが予想される。中国やその他の国の航空会社も香港へのフライトを減らし、大きな経済の中心地としての香港の地位がさらに揺らいでいる。

香港では統制の取れない状況になっており、それに対し中国政府は権限を行使し始めている。

コーネリア・メイヤー

外交分野でも火花が散っている。イギリスのドミニク・ラーブ外務大臣は、香港のイギリス領事館員が拷問を受けたとされていることに関して、中国の大使を外務省に呼び出した。外国政府からの香港の状況に関する批判は内政干渉だとしている中国政府はこれに激怒した。中国にとって特にイギリスは脇腹に刺さっている棘のような存在だ。イギリスはかつての領土であった香港での事態に関して関心があると主張するが、中国は過去領土であったということに基づくイギリスの「道徳上の権限」はどれも一切合法的ではないとしているのだ。

アメリカ政府は香港の抗議活動参加者の人権の擁護を求める法案を大多数で可決し、また特定の軍需品の香港への輸出を禁止した。習近平国家主席の反応は、烈火のごとく激怒したというだけでは足りないくらいだった。この衝突は、ドナルド・トランプ大統領にとっては最悪のタイミングで発生したものだ。同大統領は現在、中国との貿易協定の「第1段階」を掴み取ろうとしている最中なのだ。

抗議活動参加者に賛同する人は多いかもしれないが、デモが統制の取れない状況となり暴力的になったことは、抗議活動の趣旨に資するものではない。最近の動きによって、当初デモ参加者が街頭に繰り出して成し遂げようとした目標、つまり香港市民の自由権の拡大と一国二制度の現状維持の確約が遠ざかってしまう可能性も十分ある。中国政府には、過去数ヶ月でどちらも可能性は低くなったと映っているようだ。

  • コーネリア・メイヤーはビジネスコンサルタント、マクロエコノミスト、及びエネルギー分野の専門家である。Twitter: @MeyerResources
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