






カリーヌ・マレック、ドバイ
幸福とは、言うまでもなく個人の主観的な経験であり、一人一人に固有のものである。
そのため、社会全体の感情的傾向を測定し、他の社会と比較してランク付けすることは、科学的には不完全であると考えられるが、国内総生産(GDP)の数字だけに頼らずに、比較対象となるその社会の幸福度をより公平に反映している可能性はある。
しかし、ひとつだけ確かなことがある:それは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、それに伴う無数の社会的制限が、人類の精神を高揚させることなく、孤独感、不安感、そして実存的な恐怖感をもたらしているということである。
実際、世界の紛争地域や伝染病が蔓延している地域以外では、最近の記憶の中でこれほど悲惨な年を思い出すことができる人はほとんどいない。
専門家が知りたがっているのは、社会のパンデミックへの対処(あるいは対処の誤り)が、国民に閉塞感を与えるのにどれだけ明確な影響があったかのか、また、健康や安心を育む上でどの国が他国より優れているのかということである。
国連の持続可能開発ソリューションネットワークが3月に発表した「世界幸福度報告2021」を見てみよう。昨年の年次報告では、COVID-19が世界の生活の質に与える影響を測定することを目的として、幸福度指数で95カ国をランク付けしている。
独立した専門家チームによって編集された本報告では、グローバルヘルスイノベーション研究所(Institute of Global Health Innovation)が提供するCOVID-19データハブの一部としてICL-YouGov 行動トラッカー(Behavior Tracker)のデータが組み込まれている。
報告の共同執筆者の一人であるジェフリー・サックスは、次のように述べている:「今年は、私たち自身の人生の上で、また『世界幸福度報告』を編集する上においても、これまでに経験したことがない年になったことは間違いありません。なぜなら、私たちは、世界中の人々が直面している非常に複雑な課題や変化をリアルタイムで理解し、監視しなければならなかったからです」
2021年の報告では、パンデミックが健康、経済、心理に与えた影響に対する政府の対応を評価し、国家機関への信頼、COVID-19への対応と社会の幸福度との関係を明らかにしている。
報告の一部では、パンデミックが職場環境に与える影響、社会的関係の質、個人のメンタルヘルス、政府の手続きに対する信頼、ウイルス発生による影響を克服する国の能力などを評価している。他のセクションでは、失業率や格差、孤独感の蔓延などについても取り上げている。
幸福度ランキングでは、4年連続でフィンランドがトップとなり、次いでアイスランド、デンマーク、スイス、オランダの順となった。ランク下位の5ヵ国は、カンボジア、インド、ヨルダン、タンザニア、ジンバブエが占めた。
サウジアラビアはアラブ諸国の中で1位、世界全体では21位だった。アラブ首長国連邦(UAE)は27位、バーレーン(35位)、モロッコ(80位)、イラク(81位)、チュニジア(82位)、エジプト(87位)と続く。
報告では信頼関係が、COVID-19と報告された幸福度を結びつける重要な要因であることが示されている。幸福度を支える6つの要素の中で、信頼関係は、各国がCOVID-19対応戦略を成功させるために最も強い役割を果たしていると考えられる。
報告では、COVID-19によって公私の生活全体をパンデミック対策に集中させなければならなくなったとき、信頼関係が一段と重要性を増すことが分かっている。
本報告に基づく研究では、「2020年のCOVID-19による死亡率で測定すると、公的機関との信頼関係が高く、所得の平等性が高い社会では、COVID-19対策に成功していることが示されている」
「最も成功した戦略は、市中感染をゼロにし、それを維持することであることが分かっている。それを達成した国は、2020年末には人命を救い、より開かれた社会と経済を実現している。こうした国は、2021年以降、より幸せな社会を目指すことができると思われる」
サックスは、「世界幸福度報告2021」の発表を記念するウェビナーセミナーで、10年前に比べて世界が幸福度や健康や安心に注目するようになったと述べ、理解の向上が最終的に幸福度の向上につながることに期待を寄せた。
今回のレポートのデータを提供したギャラップ社のグローバル・マネージング・パートナーであるジョン・クリフトンは、幸福度に関する研究では、孤独が非常に有害な影響を与えることが実証されたと述べている。
「COVID-19は孤独感を悪化させている。現在、世界では3億人以上の人々が、1週間のうち1時間も1人の友人や家族と過ごしていないという、深い孤独を体験しており、それが格差を広げている。この問題への対処が、こうした人たちの生活をより良くするためのスタートとなる」ともクリフトンは述べている。
アラブ諸国では、生活満足度に関するデータに改善が見られ、特にサウジアラビアは2017年からスコアが着実に上昇している。
「生活満足度は、住宅、教育、医療、雇用へのアクセス、道路、電気、そして人々の基本的なニーズの提供度合いを示すGDPと非常に高い相関関係がある」と中東ジャーナル・オブ・ポジティブ心理学(Middle East Journal of Positive Psychology)の編集者であり、エミレーツセンターフォーハピネスリサーチ(Emirates Center for Happiness Research)のキャパシティ・ビルディングとトレーニング開発の責任者でもあるルイーズ・ランバート博士は述べている。
「生活満足度は、優れた統治と富があれば容易に達成できます。ですからサウジアラビアが上位にランクインするのは、国民に報いる手段を多く持つことから、特に驚くことではありません。UAEも同様です。同国は、例えば、社会福祉プログラムが充実しています」
しかし、富はさておき、ランバートは、サウジアラビアで起きている「大きな変化」を取り上げ、それが間違いなく国民の間に楽観的な感覚をもたらしていると指摘する。「変化は表面的なものではなく、行動によって裏付けられています」とランバートはアラブニュースに語った。
特に女性は、後見法の改正により、車を運転したり、仕事に就いたり、自分で収入を決めたりと多くの選択をすることができるようになったと、ランバートは述べている。「今やコンサートにも行けるようになり、こうした自己決定できるようになったことが本質的に生活の質を高めている」ともランバートは述べている。
「これは、サウジアラビア政府が行ってきたことの中でも、特に大きな効果があった施策です:若い人たちに、単なる見せかけだけで中身が無い施策ではなく、本質的に楽観的になれる施策を提供しています。それは、男女とも対象としていますが、特に女性にとって大きな変化であり、政策や経済の変化によって裏付けられ、非常に現実的な社会の変化につながっています」
その他、GDP成長率、社会的支援、平均寿命、人生の意思決定の自由度、寛容さなどがサウジアラビアにとってポジティブな指標として挙げられている。サウジアラビアでは、ストレス、心配、悲しみなどのネガティブな感情のスコアが統計的に大きく低下している。
ランバートは、サウジアラビアの社会構造と結束力が、国民のサポートシステムとして組み込まれていることを指摘した。
「中東では一般的にメンタルヘルスのサービスを受けることができますが、大家族で暮らしている場合は、誰かと話ができるというメリットがあります」とランバートは指摘する。
今後についても、サウジアラビアの経済多様化計画である「ビジョン2030」で、正しい方向に進んでいるとランバートは述べた。また、より広義には、身体的・精神的健康、肥満や糖尿病の割合、早期心臓発作の減少などの改善が期待できると彼女は指摘する。
また、COVID-19によって、メンタルヘルス、心理的な幸福感、現実の幸福度をより重視する傾向という予想外の好結果も見られるともランバートは述べている。
「国民はこうした問題を真剣に受け止めており、国民がどのように感じているかが本当に重要であるという事実にスポットライトが当たっています」
「これは、サウジアラビアのビジョンの一部です。プログラム、サービス、イニシアチブ、メンタルヘルス・ホットライン、大学でのメンタルヘルスに関する研究などで、こうした動きをバックアップしてくれることに期待していますし、またこうした問題の小さな事象だけではなく、より広義の健康や安心を得られる機会にも取り組んでくれることを願っています。ここにポジティブ心理学の出番があります」とランバートは述べている。
ツイッター:@CalineMalek