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生活費危機がアラブの政治経済を無惨に破壊する

レバノンポンドは2019年以降約95%の価値を失った。エジプトポンドの価値は2022年3月以降対ドルで半減した。(写真:LTA)
レバノンポンドは2019年以降約95%の価値を失った。エジプトポンドの価値は2022年3月以降対ドルで半減した。(写真:LTA)
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31 Jan 2023 09:01:06 GMT9
31 Jan 2023 09:01:06 GMT9
  • 中東・北アフリカ諸国の中流階級は今、生活費高騰の影響を感じている
  • 彼らはパンデミック、食料・燃料価格の上昇、ロシアによるウクライナ侵攻という三重苦に見舞われている

ジュマナ・アル・タミミ

ドバイ:経済が危機に陥り、通貨が圧力に晒され、インフレが購買力を奪う中、アラブ地域の貧しい人々が苦しんでいることはかなり前から明白になっている。しかし、一部の国では中流階級までもが危機を感じ始めており、食卓に食事を用意することにさえ苦労する家庭が増えている。

エジプト人で二児の母であるマナルさん(38)はAFP通信に対し、「まるで地震に遭ったようです。ある日突然、全てを諦めなければならなくなったのですから」と話す。

「曲がりなりにも人間らしいものだった人々の生活が、パンや卵の値段を気にするばかりの生活になってしまいました」

ウクライナ侵攻の影響で、一部のアラブ諸国ではパンの価格が急騰している。(AFP)

エジプトが国際通貨基金(IMF)との30億ドルの融資合意の一環として要請された通貨切り下げを実施した昨年3月以降、エジプトポンドの価値は対ドルで半減した。同国の公式な年間ヘッドラインインフレ率は12月に21.9%を記録し、食品価格は37.9%上昇した。

エジプト経済は新型コロナパンデミックからなかなか回復できずにいたところ、ロシアによるウクライナ侵攻によって現在のような危機に陥った。両国はどちらもエジプトへの小麦の主要輸出国であり、多くの観光客の供給源でもある。

世界銀行によると、現在エジプトの人口1億400万人の三分の一近くが貧困線以下の生活を送っており、同じくらいの数の人々が「貧困に陥る危機にある」という。

一方、2023年については既に暗い経済見通しが影を落としている。エコノミストは、世界的景気後退の深まりとともに、さらなる通貨下落、物価高騰、失業率や貧困率の上昇が生じると予測している。

この1年間、世界経済を妨げる出来事が何度も起こった。ロックダウンや制限などの新型コロナパンデミックの影響からやっと回復し始めたばかりの国や企業は、約1年前に始まったウクライナ侵攻によって新たな打撃を受けた。

ウクライナ戦争は世界のサプライチェーンを混乱させ、食料・燃料価格の急騰を引き起こし、インフレ圧力に拍車をかけた。こういった状況は各国の通貨や景況感にさらなる負担をかけ、雇用を脅かし成長を妨げた。

アラブ諸国の通貨が対ドルで下落していることは、最も脆弱な国々にとって特に懸念すべきことだ。景気後退に先立って貯蓄を積み上げていた家計は貯金の価値の下落に見舞われ、セーフティネットからも切り離されている。

レバノンを破綻させた高官の汚職を非難するパフォーマンスとして、「ロラー」と呼ばれる模造紙幣を掲げる同国の活動家。2022年5月13日、ベイルート。(AFP)

最近、レバノンポンドは再び過去最安値を記録した。2019年後半にレバノンの金融危機が始まって以降、今や通貨価値の約95%が失われたことになる。

ヨルダン、シリア、イラクでも同様に、食料、燃料、その他の必需品の価格が大幅に高騰している一方で国民の購買力は下がり続けており、デモや、時には暴力的な騒乱の波が起こっている。

国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)が昨年12月に発表した「アラブ地域の経済社会発展に関する調査」によると、現在、アラブ地域に住む約1億3000万人の生活が貧困によって損なわれている。

この調査が示すところでは、現在、リビアと湾岸協力理事会(GCC)諸国を除く地域の人口の三分の一以上(35.3%)が貧困の中で暮らしている。この割合は今後2年間で増加して2024年までには36%に達すると予測されている。

この調査は、2022年のアラブ地域の失業率が12%で世界最高だったことも明らかにしている。これは、経済的低迷の広がり、企業への圧力、政府による緊縮措置の影響などを反映したものだ。

ただ、インフレの影響は地域内で一様に感じられているわけではない。この調査レポートの筆頭著者であるアフメド・モウミ氏は、GCC諸国をはじめとする石油輸出国が引き続きエネルギー価格高騰から利益を得る一方で、石油輸入国はいくつかの社会経済的困難を経験するとの見方を示している。

同氏は次のように述べている。「現在の状況はアラブの石油輸出国に、準備金を蓄積し、包括的な成長と持続可能な発展を生み出すプロジェクトに投資することを通して、エネルギーセクターから脱却し経済を多角化する機会を提供している」

サウジアラビアは今年、G20の中で最も高い成長率を示す国になると予測されている。一方、政治的麻痺と復興計画実施の遅れの只中にあるレバノンの経済は昨年縮小した。

街頭に繰り出し生活費高騰への不満を訴えるチュニジアの人々。2019年1月14日。(AFP)

エコノミストによると、最近のインフレは、食料やその他の生活必需品を輸入に依存するアラブ諸国に不釣り合いに厳しい影響を与えている。アラブ世界は以前から世界で最も食料供給が不安定な地域の一つだが、食料が不足している世帯の数は過去1年間で増加した。

経済協力開発機構によると、ウクライナ侵攻開始前は、ロシアが世界最大の小麦輸出国で、ウクライナは第5位であり、それぞれ全世界の輸出額の約20%と約10%を占めていた。両国はその他の重要な商品の主要輸出国でもあった。

そのため、昨年ウクライナの黒海に面する港が封鎖されると、穀物、食用油、肥料などの市場価格が大幅に急騰した。その結果、アラブ地域全体でパンなどの主食の価格が上昇した。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻によってウクライナからの穀物輸出が妨げられた結果、世界中で食料価格が急騰した。(AFP)

国連の仲介による昨年夏の合意によって黒海からの穀物輸出が再開されて供給側の不足の恐れは緩和されたものの、炭化水素燃料を含むロシア製品に対する欧米の制裁により燃料価格が高騰し、結果として輸出入のコストが上昇した。

国連ESCWAの国際比較プログラムで地域担当マネージャーを務めるマジェド・スカイニ氏は、アラブニュースに対し次のように語る。「いくつかの国では食料安全保障が危機に晒されている。特に紛争や(政情・経済)不安に見舞われている国では、食料バスケットを買えない人がますます増えている」

一方、政府や企業に対してさらなる圧力が加わっているため、生活費上昇に賃金が追いつかず、多くの国では生活水準の低下とともに国民の怒りが高まっている。

ユーロモニターで消費者調査部門グローバル責任者を務めるアン・ホジソン氏はアラブニュースに対し、アラブ地域の人々は「おそらく生活費上昇の悪影響をより多く受けており、それには2つの理由がある」と語る。

「第1に、アラブ地域の消費者の貯蓄率は比較的低いため、生活費危機を乗り切る助けとなる経済的緩衝材があまりない」

「中東・北アフリカ地域の2022年の貯蓄率は可処分所得の10%で、世界平均の17.6%を下回っている。一方、アジア太平洋地域の2022年の貯蓄率は可処分所得の26.7%だった」

第2の理由は、アラブ地域が食料を輸入に大きく依存していることだ。

「2021年(ユーロモニターがデータを持っている直近の年)には、中東・北アフリカ地域の食料輸入額は平均で1人あたり105ドルだった。一方、アジア太平洋地域では44ドル、中南米では67ドルとなっている」

「つまり、アラブ地域の消費者は世界のサプライチェーンや食料生産の混乱から生じる食料価格高騰の影響をより大きく受けるということだ」

生活費高騰による圧力を特に受けているのは、社会において最大かつ経済的に最も活発な集団であることが多い中流階級だ。

ホジソン氏は次のように語る。「所得の伸び悩み、高インフレ、生活費危機といった状況の中で、世界中の中流階級が社会経済的地位だけでなく生活水準を維持するのに苦労している」

「実際のところ、先進国、特に西欧の中流階級は、2008~2009年の世界金融危機で経験した経済難から未だ立ち直っていない」

この経済難の結果、消費者習慣が幅広く変化している。誇示的消費が減少し、支出がより慎重になり、全般的な倹約志向が高まっているのだ。

ユーロモニターによる世界的な消費者動向についての最新の調査結果によると、大多数の家計は今後1年間は節約に力を入れようと考えている。約75%の消費者は全体的な支出を増やすことを予定しておらず、43%はエネルギー消費を減らしているという。

世界経済フォーラムが最近実施した調査では、回答者の92%が、自国の人々は「食費を捻出するために予算を調節しており、食事を抜く人もいる」と答えている。

このレポートには次のようにある。「価格上昇は消費者にどのような影響を与えたかという質問に対し、68%は家計債務が増えたと、59%は医療の利用の仕方が影響を受けたと回答している」

2023年もアラブ地域の一部にとっては厳しい年になると多くの人が思っている。富裕な産油国と、不安定で輸入に大きく依存するレバントや北アフリカの国々の間の格差がさらに広がると思われる。

エジプトでは新たな現実により、かつては中流階級に属すると見られていた家庭も助けを求めることを余儀なくされている。慈善団体「アブワブ・エル・ヘイル」のアフメド・ヘシャム氏は、エジプトでは支援を求める中流階級が増えていると言う。

同氏はAFPに対し次のように語る。「多くの人には取っておいた生涯貯蓄があった(…)今、彼らはそれを医療費や生活費に使っている」

「彼らはかつては良い暮らしをしていたが、今はやりくりできていない。今までこんな状況になったことはなかったので、私たちのところに来るのを恥だと思っている」

「ある人は、子供を食べさせるのと学校に通わせるののどちらかならできるが両方は無理だと言っていた」

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