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イスラエルによるパレスチナでの「セキュリティ」実験がグローバル化に至った経緯

2021年11月12日、ヨヨルダン川西岸占領地域、ナーブルスの東のベイト・ディガン。パレスチナの土地にイスラエルの前哨基地が設置されることへの反対デモ中に、イスラエル治安部隊から発射された催涙ガス弾から逃げるパレスチナ人のデモ参加者たち。(AFP)
2021年11月12日、ヨヨルダン川西岸占領地域、ナーブルスの東のベイト・ディガン。パレスチナの土地にイスラエルの前哨基地が設置されることへの反対デモ中に、イスラエル治安部隊から発射された催涙ガス弾から逃げるパレスチナ人のデモ参加者たち。(AFP)
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17 Nov 2021 03:11:55 GMT9
17 Nov 2021 03:11:55 GMT9

米国家安全保障局(NSA)が数百万人の自国民を対象に大規模な監視を行っていたことが数年前に暴露され、政府による不正行為や人権、プライバシー関連法規違反に関する議論が再び活発となった。

しかしながら、イスラエルは、パレスチナの人々に対する違法なスパイ活動の手法だけでなく世界中の人権団体から厳しく非難されているテクノロジーの開発国として受けるべき批判を最近まで免れてきた。

2013年の政府による監視に関連した多様な論争の最中でも、イスラエルに焦点が置かれることは無かった。世界中のいずれの政府よりもイスラエル政権こそが、人種プロファイリングや大規模な監視を活用し、パレスチナの軍事占領を維持するための多種多様なスパイ技術を多用していたにも関わらずである。

ガザでは、200万人のパレスチナ人が、イスラエルによる封鎖下で生活している。分離壁や電気フェンス、地下障壁、海軍の艦船、さらには狙撃手に囲まれた生活をガザのパレスチナ人たちは余儀なくされているのである。頭上からは無人の武装ドローン複数が全てを監視し記録している。時には、イスラエル側の「セキュリティ」の観点から疑わしいと判断されたものを破壊するために、こうした武装ドローンが用いられることもある。

他方、ガザとの行き来をしようとするパレスチナ人は (そうした許可を得られること自体珍しいことだが) 、政府のいくつもの情報機関やイスラエル軍によって行われる保安点検を含む非常に厳しいセキュリティ対策の対象とならなければならない。パレスチナ人であれば幼児であっても、死期の迫った女性であっても同様なのだ。

イスラエルのセキュリティ「実験」は、ヨルダン川西岸地区において、さらに多くの形態で実行されている。パレスチナ人を閉じ込めておくことがガザにおけるイスラエルの目的であるのに対して、ヨルダン川西岸と東エルサレムでの目的はそれに加えてパレスチナ人の日常生活を管理することである。1,660kmに及ぶ分離壁に加えて、さらに数多くの他の分離壁やフェンス、塹壕、そして障壁がパレスチナ人コミュニティを分断するためにヨルダン川西岸地区には存在しているのだ。孤立化させられたコミュニティは、周到かつ入念な注意を払って設置されたイスラエル軍の検問所経由でしか互いに行き来できない。こうした検問所の多くは常設のものだが、それらに加えて、日々のセキュリティ上の目的に応じて多くの検問所が設置されたり撤去されたりしている。

日常的な監視の大部分はこうした検問所が担っている。イスラエル側はパレスチナ人に対する行いの正当化のために「セキュリティ」という便利な語句を用いているが、実際のセキュリティは検問所で行われていることとはあまり関係がない。イスラエル側のセキュリティチェックを待ちながら、数多くのパレスチナ人たちが死亡し、数多くの母親たちが出産し、または、新生児を失ったりしているのだ。このような苦しみに日々耐えなければならない理由は、パレスチナ人たちが、イスラエルが自らの利益のために行っている実験に、意図せずに参加させられてしまっているからなのである。

幸運なことに、イスラエルの反民主主義的な行為に関するニュースはより広い層に知られるようになってきている。ワシントン・ポスト紙は、先週、イスラエルの大規模な監視オペレーションではブルー・ウルフと呼ばれるテクノロジーが用いられており、それによって全パレスチナ人のデータベースが作成されつつあることを明らかにした。このオペレーションにより、イスラエル軍は可能な限り数多くのパレスチナ人の写真を撮影し、そのあまりの網羅性故にある元兵士が軍用極秘「パレスチナ人フェイスブック」とまで呼んだデータベースと照合することが出来るようになる。

このデータベースについては、マスメディアで明らかになったこと以外、あまり分かっていない。しかしながら、イスラエルの兵士たちがパレスチナ人の写真をなるべく多く撮影することを競い、最も多く撮影した兵士には報酬が与えられていることは事実として知られている。

悲しいことに、イスラエルの違法かつ非民主的な行いは、犠牲者たちが高位の人物たちであった場合にのみ、国際的な非難を浴びた。

ラムジー・バロウド

ブルー・ウルフについての報道が国際的にマスメディアで注目を集めたとしても、それはパレスチナ人に何の変化ももたらさない。占領下で暮らすパレスチナ人であるということは、つまり、いくつもの許可証と磁気カードを持ち歩き、様々な検査を受け、定期的に写真を撮られ、移動を逐次監視され、友人や家族、同僚、知人に関するいかなる質問にも常に答えられるようにしておくということなのだ。それが、例えば包囲されているガザで暮らしているといった理由で、実行不能な場合、上空や地上、海上を監視する無人ドローンがその任にあたる

マスメディアがブルー・ウルフに注目している理由は、最近イスラエルが世界最大の諜報戦に関与していたためである。

ペガサスは破壊工作ソフトの一種で、iPhoneやAndroid機器に入り込み、写真やメッセージ、電子メールを抽出し、さらには通話を録音する。世界中の何万人もの人々がこの破壊工作ソフトによる被害を受け、その中には、著名な活動家、ジャーナリスト、政府当局者、ビジネスリーダーが含まれていた。

驚くには当たらないことではあるが、ペガサスはイスラエルのテクノロジー企業であるNSOグループによって作成されていた。ダブリンを拠点とするフロント・ライン・ディフェンダーズによって確認され、ニューヨーク・タイムズ紙によって先週報じられたように、NSOグループの製品は、パレスチナ人に対する監視とスパイ行為に深く関わっている。

悲しむべきことに、イスラエルの非合法で非民主的な行いが国際的な非難の対象となるのは、その犠牲者がフランス大統領のエマニュエル・マクロン氏といった高位の人物の場合に限られる。パレスチナ人がイスラエルのスパイ行為や監視、人種プロファイリングの対象となったとしても、それは報道するに値する記事にはならないのだ。

さらに悪いことには、イスラエルは長年にわたってその邪悪な「セキュリティ技術」を「現場実証済み」として世界中に宣伝してきた。それは、イスラエルがその占領下のパレスチナ人たちに対して使用してきたことを意味している。この文言には眉をひそめざるを得ないが、イスラエルの「セキュリティ技術」は多くの試練に耐えたブランドとなり、イスラエルを世界第8位の武器輸出国に押し上げるに至っているのだ。イスラエルのセキュリティ製品は輸出され、現在世界各地で使用されている。北米やヨーロッパの空港やメキシコと米国の国境線、多様な情報機関、EUの領海などで、主として、難民や亡命希望者を捕捉するために用いられているのだ。

イスラエルのパレスチナ人に対する非合法で非人間的な行いを隠蔽することは、米政権を含む、セキュリティの名においてイスラエルの行為を正当化する人々にとって不利益に他ならないことが証明された。米バイデン政権は、今月、「米国の国家安全保障や外交政策の利益に反した」行為があった事を理由として、NSOグループをブラックリストに載せるとの決定を下した。これは言うまでもなく適切な措置ではあるものの、パレスチナ人へのイスラエルの不法行為への対処とは成り得ていない。

実のところ、イスラエルがパレスチナの軍事占領を継続し、イスラエル軍がパレスチナ人を大規模なセキュリティ実験の対象と看做し続ける限り、中東が、それどころか全世界が、その対価を支払い続けることになるのだ。

  • ラムジー・バロウド氏は、20年以上にわたって中東関連の記事を書き続けてきた国際的に活躍するコラムニストで、メディアコンサルタントである。数冊の著書があり、PalestineChronicle.comの創設者でもある。

Twitter: @RamzyBaroud

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