
ラマッラー:パレスチナ自治政府のアッバス議長の最大の批判者が拘留中に死亡して以来、退陣を求めるデモ隊への治安部隊の行動をめぐり、アッバス議長への批判が高まっている。
エルサレムの米国大使館は29日、平服の警官がデモ参加者らを脅し、暴力をふるっているとの報道を受け「深い憂慮」を表明した。また、国連は「到底容認できない」攻撃として非難した。
パレスチナ治安部隊は、デモ隊に対し平服の警官を投入したことを否定している。
しかし、国際社会の有力な後ろ盾からのパレスチナ自治政府に対する批判は、すでに多くの問題に直面しているアッバス議長への更なる圧力となっている。アッバス議長は今年85歳で、現職に就任して16年となる。
パレスチナ自治政府に対する著名な批判者で、拘留中の6月24日に亡くなったニザール・バナート氏の家族は、治安部隊が西岸ヘブロンにある自宅に押し入り、金属製の棒でバナート氏を何度も殴打して拘束したと語っている。
パレスチナの人権団体は検視を行った後、バナート氏の頭部に打撃による外傷があったと明らかにした。
パレスチナ自治政府はバナート氏の死の状況に関する直接の言及を避けているが、哀悼の意を表明し、ムハンマド・シュタイエ首相は29日、パレスチナの司法により「有罪の者はすべて法に照らして裁かれることになる」と述べた。
バナート氏の死により、西岸では数日間デモが続き、デモ隊と治安部隊との間で衝突が起きている。
米国大使館の報道官は「パレスチナ治安部隊の平服の警官隊が週末にかけて、デモ参加者やジャーナリストを脅し、暴力をふるっているとの報道に接し、我々は深い憂慮を表明する」と発表した。
被占領パレスチナ地域にある国連人権高等弁務官事務所は、27日の西岸ラマッラーでのデモにおける人権状況を監視していた調査官の1人が、「到底容認できない方法」で攻撃された大勢の人々の中にいたことを明らかにした。
そして「平服で現れた者たちが殴打、催涙スプレーの使用、状況を記録しているスマートフォンを取り上げようとするなどの攻撃をしかけてきた」とフェイスブックに投稿した。
パレスチナ治安部隊の報道官、タラル・ドウェイカット氏はそのような報道は「真実ではない」と訴えた。
「恥ずべき話だ。治安部隊に平服の隊員はいなかった。隊員が平服を着用するなどありえない」とドウェイカット氏はRamallah Mixの取材に対して語っている。
ロイターはドウェイカット氏にコメントを求めたが、回答は得られていない。
パレスチナ自治政府はバナート氏の死に関しては調査を進めているとし、シュタイエ首相はパレスチナ住民に対しこのことを政治問題化しないよう求めた。
世論調査によれば、2005年の当選以来、アッバス議長の支持率は落ち込み続けている。アッバス議長は布告により10年以上現職にあり、政権は多くの汚職疑惑にさらされながら、これを否定している。
中東和平交渉は2014年以降、停滞している。アッバス議長は安全保障問題に関してイスラエルに協調姿勢を取り続けてきたと批判されており、反対派はこのことが1967年のイスラエルによる西岸占領を招いたとしている。
アッバス議長が予定されていた選挙を取りやめたことで、反発はさらに強まった。
バナート氏の死、およびアッバス氏率いるファタハがガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスや他のライバル政党が状況の背後にいると批判したことで、治安部隊のやり方への批判はますます高まっている。
人権団体「アル・ハク(Al-Haq)」のメンバーのアシール・ アルバジェさんは、平服の男たちに押さえられ、27日のラマッラーでのデモの様子を録画していたスマートフォンを取り上げられたと述べている。
「隣にいるまったく普通の恰好をした人が殴りかかってくるかどうかわからないのですから、少しも安心できないでしょう」と26歳のアシール・ アルバジェさんは語った。
「本当に辛い。パレスチナ人には2つの闘いがあります。1つは占領者であるイスラエルに対するもの、そしてもう1つは独裁政権に対するものです」
パレスチナ・ジャーナリスト・シンジケート(PJS)によれば、記者たちは取材を妨害され、平服の警官に脅されたという。PJSはパレスチナ自治政府に対し「ジャーナリストを攻撃した者たちを起訴し、法の裁きを受けさせること」を要望した。
ロイター