Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 新型コロナとの共生:デルタ株ウイルスの登場で戦略変更したイスラエル

新型コロナとの共生:デルタ株ウイルスの登場で戦略変更したイスラエル

急速なワクチン接種の展開によりコロナウイルスの感染者および死亡者が減少した後、イスラエルの国民はマスクの着用をやめ、ソーシャルディスタンスのルールを放棄した。(ファイル/AFP)
急速なワクチン接種の展開によりコロナウイルスの感染者および死亡者が減少した後、イスラエルの国民はマスクの着用をやめ、ソーシャルディスタンスのルールを放棄した。(ファイル/AFP)
Short Url:
14 Jul 2021 01:07:54 GMT9
14 Jul 2021 01:07:54 GMT9
  • イスラエル政府は、「ソフトな抑制(soft suppression)」政策という名の下で国民にウイルスとのつきあい方を学ばせる方針
  • 昨年12月にイスラエルはワクチン接種プログラムを開始し、その迅速性は世界でもトップクラスとなっている。その約1週間後には最後のロックダウンへと突入

エルサレム:4週間前のイスラエルは、新型コロナウイルスとの奮戦が終わり、普通の生活に戻れることを祝っていた。 

イスラエルでは急速なワクチン接種運動によってコロナウイルスの感染者および死亡者が減少した後、マスク着用やソーシャルディスタンスなどのルールはすべて中止されていた。

その後、感染力がより強いデルタ株によって感染者が急増したため、ナフタリ・ベネット首相は、新型コロナウイルスの規制を再び実施し、戦略の見直しを余儀なくされている。

ベネット首相は「ソフトな抑制」と呼ぶ政策のもとで、イスラエル国民がウイルスとの共生する方法を模索することを期待している。つまり規制を最小限にとどめ、経済にさらなる打撃を与える可能性のある第4回目となる全国レベルのロックダウンを回避しようとしているのだ。

イスラエルでは高リスクのグループに属する国民のほとんどが新型コロナウイルスのワクチンを受けているため、感染が拡大した場合でも重症化する人が以前よりも少なくなるものと、ベネット氏は期待している。

「この戦略の実施は一定のリスクを必然的に伴うが、経済的な観点を含め総合的に考慮すれば、これが必要とされるバランスだ」と先週、ベネット氏は発言している。

この戦略への転換の主な根拠は、入院中の重度の新型コロナウイルス症例数であり、現在は約45例となっている。実施にあたっては、感染状況の監視やワクチン接種の奨励、迅速な検査、マスク着用に関する広報活動も同時に行われるのは当然である。

イスラエルにおけるこの戦略は、ロックダウンを中止により経済を再開させようとするイギリス政府の計画と比較されている。しかし規制を解除したイギリス政府に対し、イスラエルは一部の規制を復活させるプロセスの最中だ。

復活した規制には、屋内でのマスクの着用義務や、イスラエルに入国したすべての人の隔離措置などがある。

ベネット氏の戦略は英国政府のものと同様に、一部の科学者からは疑問を投げかけられている。

イスラエル保健省は、感染抑制のためのより積極的な活動を提唱している。その保健省の公衆衛生責任者、シャロン・アルロイ・プライス氏は、日曜日のカン・ラジオで次のような発言を行った。

「重症患者が大きく増えない可能性はあるが、私たちが懸念しているのは過ちによってそのような状況が起きた場合の代償だ」

それでも、他の多くの科学者は支持している。

同国のベン・グリオン大学公衆衛生学部のナダブ・ダビドビッチ学部長は、「私はイスラエル政府の取り組み方に強く賛同します」と述べ、イギリスの規制緩和、そしてオーストラリアのようなより厳格な路線の中間にある「黄金の道」と表現した。

「抑えきれない」ウイルス

イスラエルで最後のロックダウンが実施されたのは、世界最速クラスで展開されたワクチン接種プログラムの開始から約1週間後の12月のことだった。

現在の新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数は約450人で、インドで初めて確認されたデルタ株は現在、感染者の約90%を占めている。

保健省のナックマン・アッシュ長官は先週、「これまでのような重症患者の多発はないと予測している」と発言したものの、同時に「しかし、重症患者の数や増加率が(医療)システムを危険にさらしていると判断した場合は、さらなる措置を講じる必要がある」とも述べている。

イスラエルの人口930万人のうち、約60%がファイザー社/バイオンテック社のワクチンを少なくとも1回は接種済みだ。さらにイスラエル政府は日曜日、免疫力の低下している人々に3回目のワクチンを提供し始めた。

政府の新型コロナウイルスに関する専門家委員会のラン・バリサー委員長は、新型コロナウイルスに関連した死亡者が2週間にわたってゼロとなった後、同国で先週、1日あたり平均約5人の重症患者および1人の死亡者が発生していると報告している。 

同氏はデルタ株の影響を指摘した上で、制限の解除に慎重を期すよう同委員会は助言していると伝えている。

バリサー氏は、「規制を解除した場合、何が起こるかを正確に予測するために必要な、国内での大感染に関する十分なデータはない」と発言。

ファイザー社/バイオンテック社のワクチンは、デルタ株に対する有効性は高いとはいえ他のコロナウイルスに対する有効性よりは低めとなっている。一部の科学者からの批判を受けたファイザー社/バイオンテック社は、接種から6ヶ月後の感染リスクの増加を防止するため、アメリカおよびヨーロッパの規制当局に対して追加接種の許可を求めるとしている。

ブースター注射が必要であることを示す明確なデータがまだないことを理由に、イスラエルは公的なブースター注射の承認は急いでいない。免疫力の低い人に対してのみ、必要に応じて症例毎に許可を出している状況だ。

また12歳以下の子供で、ウイルスに感染した場合に重篤な合併症を引き起こす危険性が高い健康状態にある場合には、症例毎にワクチンの接種を認めることも当局は検討している。

アッシュ氏によれば、イスラエル国内でワクチンを接種した550万人のうち、後に新型コロナウイルスに感染したのは「数百人」に過ぎないという。

デルタウイルスの登場前は、イスラエルにおける「集団免疫」、つまりこの感染症の拡大を抑えるために必要とされる免疫獲得した人口の割合を実現するためには、人口の75%がワクチンを接種する必要があると考えられていた。しかし、現在ではこの割合は80%とされている。

このようなデータがある限り、医師らの不安は消え去らない。

「(略)ウイルスを止めることはできない。ウイルスが進化しているのは、自然の摂理にかなったことだ。しかし生き残ろうとすることは、人間の本質である」とガディ・シーガル医師(テルアビブ近郊のシェバ・メディカルセンター)は話している。

ロイター

特に人気
オススメ

return to top