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スウェーデンのコーラン焼却事件で、ヨーロッパやラテンアメリカでイスラム嫌悪と闘うことの重要性が改めて明確になる

南米のイスラム教への関心を高めようと活動するコロンビアのイスラム教徒の女性。ブラジルでは特に女性の信者を狙った嫌がらせが増加している。(提供)
南米のイスラム教への関心を高めようと活動するコロンビアのイスラム教徒の女性。ブラジルでは特に女性の信者を狙った嫌がらせが増加している。(提供)
学生グループにイスラム教とイスラム嫌悪について話すマリア・ホセ・アセベド氏。(提供)
学生グループにイスラム教とイスラム嫌悪について話すマリア・ホセ・アセベド氏。(提供)
学校で布教活動を行うマリア・ホセ・アセベド氏。多くの少女たちがイスラム教に興味を持ち、ヒジャブを着けてみたいと言った。(提供)
学校で布教活動を行うマリア・ホセ・アセベド氏。多くの少女たちがイスラム教に興味を持ち、ヒジャブを着けてみたいと言った。(提供)
コロンビアでボーイスカウトのグループにイスラム教について話すマリア・ホセ・アセベド氏。宗教の多様性への関心を高めることが目的だ。(提供)
コロンビアでボーイスカウトのグループにイスラム教について話すマリア・ホセ・アセベド氏。宗教の多様性への関心を高めることが目的だ。(提供)
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07 Jul 2023 02:07:23 GMT9
07 Jul 2023 02:07:23 GMT9

エドゥアルド・カンポス・リマ

サンパウロ:ラテンアメリカでイスラム教徒の数が増加し、イスラム系コミュニティの認知度が上がるにつれ、地域内ではイスラム嫌悪の事例の報告がますます増えている。女性が多くを占めるコミュニティのリーダーたちが、この問題の解決に取り組んでいる。

イスラム教徒の人口が80万人から150万人と推定されているブラジルは、イスラム嫌悪に関する包括的な研究が行われているラテンアメリカで唯一の国である。

この問題が関心を集めているのは、6月28日にスウェーデン当局の容認のもと、ストックホルム中央モスクの外でコーランの写しが燃やされる攻撃的行為が起こったのがきっかけだ。南米では、このような粗野な不寛容の動きは表に出ていないが、イスラム嫌悪は多くの国で水面下に存在していると考えられている。

2023年6月28日、イード・アル・アドハーの祝日に、ストックホルムのモスクの外で、数年前にイラクからスウェーデンに亡命したサルワン・モミカ氏がイスラム教の聖典を汚そうとするのを注視するスウェーデン警察。(JAFP)

サンパウロ大学教授で、自身もイスラム教改宗者である人類学者のフランシロシー・バルボサ氏が率いたこの研究では、653人のイスラム教徒を対象にした調査も行われた。調査では、ほとんどの回答者がすでに何らかのイスラム嫌悪の被害を受けた経験があることが明らかになった。

バルボサ氏はアラブニュースに対し、「回答者の大多数は女性です。最も被害を受けているのは女性であることがすでに示されていると言えます」と説明した。

この研究に参加した男性(生まれながらのイスラム教徒と改宗者の両方を含む)の約54%は、自身の宗教が原因で嫌な目に遭ったことがあると述べた。その事例の多くは、街中、職場、学校で発生していた。

その割合は女性のほうが高く、生まれながらのイスラム教徒の66%が、信仰が原因で嫌な思いをしたり、攻撃を受けたりしたことがあると答え、改宗者も83%が同様の報告をしている。

その多くは、軽いコメントや冗談を言われたというものである。たとえば、職場にイスラム教徒がいることを知った同僚が彼を「自爆テロ犯」と呼ぶようになった、スカーフは男性優位の象徴だからかぶるべきではないと友人に説教される、といった例だ。

しかしこの研究では、ヒジャブをかぶった女性が何者かに目に殺虫剤を吹きつけられた、少女がモスクから出たところで男性に殴られた、など、身体的暴力を伴う深刻な事例も報告されている。

「女性改宗者はイスラム嫌悪の被害者の大半を占めます。より弱い立場にあるからです。彼女たちの多くは貧困地域の出身で、公共交通機関を利用しなければなりません」とバルボサ氏は言う。

女性改宗者は家族からの圧力にも対処しなければならない。結果として、攻撃を受けた女性たちはスカーフをかぶるのを止めても、そのことで「神の戒めに従っていないと感じて苦しむ」のだとバルボサ氏は説明した。

ブラジルでは、特に女性の信者を狙った嫌がらせが増加している。(提供写真)

また、ジャイル・ボルソナーロ前大統領(2019~2022年)の政権下で、さまざまな反イスラム団体が力を伸ばしたために、ブラジルでイスラム嫌悪が増大したという。

「その時期には、たとえば、親シオニスト的な福音派教会が急成長しました」とバルボサ氏は言った。調査の回答者は、差別者について、宗教別では福音派キリスト教徒が最も多いと述べている。

バルボサ氏は、今年初め、人権・市民権省主催のヘイトスピーチについて議論するワークショップに招かれた。

イスラム嫌悪に関するバルボサ氏の研究は同団体で発表され、政府の不寛容と闘うための政策を方向づける最終報告書の一部になる予定だ。

「調査には、宗教やイスラム教に関する教育への投資の必要性など、イスラム嫌悪と闘うためのガイドラインを盛り込みました。ようやく、この提案が、(ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領の)新政府によって日の目を見るかもしれません」とバルボサ氏は述べた。

アルゼンチンでは、イスラム嫌悪に反対する活動家たちが、政府機関との連携にも期待を寄せている。

2022年、イスラム・パラ・ラ・パス(平和のためのイスラム)は、宗教差別に反対するために協力関係を深めることを目的に、国立反差別・ゼノフォビア・レイシズム機構(スペイン語の頭字語INADIで知られる)との協定を締結した。

イスラム・パラ・ラ・パス代表のメロディ・アマル・ハリル・カバラン氏によると、昨年のFIFAワールドカップ開催時に、多くの報道機関がカタールに関する誤情報を広めたため、同団体とINADIでジャーナリスト向けにカタールについてのワークショップを展開したという。

ハリル氏は、「今年、私たちは『差別のない学校』というプログラムを進めます。生徒向けにイスラム教の習慣を教えるワークショップなどを行います」とアラブニュースに説明した。

アルゼンチンのイスラム嫌悪は、ヨーロッパ諸国で起こっている事件とは比べものにならないが、最近になって件数が増加しているという。ブラジルと同じく、ほとんどの事例の当事者は女性である。

アルゼンチンでは、公共の場で露出の少ないブルキニ水着を着ているだけでも、イスラム教徒であることを連想させて憎悪を引き起こす可能性がある。(提供)

「ひどい例では、女性がブルキニ姿でメンドーサ(都市)のプールに入ることが禁止されました」とハリル氏は言った。

「また、女性がヒジャブを着用して書類用の写真を撮ろうとして政府職員に止められたケースもありました。ヒジャブの着用は権利です」

イスラム嫌悪の被害を受けた場合、INADIに通報することができるが、多くは「当局が他の集団を擁護するのと同じレベルでイスラム教徒を擁護することはないと考えているため」何もしないのだとハリル氏は説明した。

「そのような認識になるのは、イスラムのコミュニティに、アルゼンチンの他のコミュニティと比べて差別に抵抗するしくみがないのが一因だと気づきました」

ハリル氏は、イスラム教徒のニーズと特殊性についてアルゼンチン社会に知らせ、教育を提供するのはイスラム教徒の責任だと述べた。

そして、「私たちには自らの生活様式を人々に伝える責任があります。政府だけの問題ではないのです」と付け加えた。

イスラム・パラ・ラ・パスは最近、イスラム教徒にかかわる事案の監視機関を設立し、地域社会の問題に関する情報を収集している。

コロンビアでは、マリア・ホセ・アセベド・ガルシア氏が率いる女性グループが、5年前にイスラム教徒の女性の保護とイスラム嫌悪の防止を目的に「コロンビアのイスラム女性のイスラム財団アッサラーム」を設立した。

コロンビアで信教の自由に関するイベントに出席したマリア・ホセ・アセベド氏。(提供)

アセベド氏によると、最も多いのは、学校、職場、政府機関での差別だという。

「女性は、職場でヒジャブを着用しているのを理由に差別されることがあります。そのような問題が起こったときは、責任者に手紙を送り、関係者にイスラム教について知ってもらうための企業訪問の実施を申し出ます」と、アセベド氏はアラブニュースに語った。

カトリック教徒の家庭で育ったアセベド氏は、20年前にイスラム教に改宗した。当初は、攻撃的な言葉をかけられては憤慨していたが、そのうちに「冷静に対応し、相手を教育することを学んだ」という。

「アッサラームは、頻繁に学校や大学を訪ね、差別に反対するワークショップを開催しています。それが状況を変える唯一の手段です」

アセベド氏によると、シリア内戦やタリバンによるアフガニスタン占領など、イスラム諸国の危機時にはイスラム嫌悪が高まることが多いという。

「今のところ、身体的な攻撃を受けた例は少ないですが、公共交通機関で女性がヒジャブを脱がされそうになった事件がすでに報告されています」とアセベド氏は言った。

学生グループにイスラム教とイスラム嫌悪について話すマリア・ホセ・アセベド氏。

先日、アッサラームは、政府当局と面会し、コロンビアのイスラム教徒の女性のニーズを伝えた。

たとえば空港では、イスラム教国から来た女性が検査の際にスカーフを外すよう言われるといった問題が頻繁に起こる。

アセベド氏は、将来、イスラム教の本質を理解する政府職員が増えていくことを期待していえると語った。

メキシコでも、ここ数年でイスラム教徒のコミュニティが成長している。イスラム嫌悪はアート、書籍、ニュースなどによく見られ、人類学者サマンサ・レイバ・コルテス氏がアラブニュースに語ったところによると「イスラム教を取り上げるときに否定的な表現がよく使われる」という。

メキシコシティとサン・クリストバル・デ・ラス・カサスのイスラム教徒コミュニティを研究していたレイバ氏は、ヒジャブのせいで外国人扱いをされた例を多くの女性から聞いた。

「彼女たちがメキシコの住民ではないと思い込み、高値を吹っかける店員は後を絶ちません」

メキシコ人でイスラム教に改宗したソニア・ガルシア氏は、同じくラテン系でイスラム教に改宗したマイテ・グティエレス氏と協力し、イスラム教徒のティファナ滞在を快適にするためのまったく新しいセンターの建設と運営を支援している。(写真:ラティーナ・ムスリム財団)

スカーフをかぶった女性は、路上や公共交通機関であらゆる種類の性差別的発言を投げかけられる、とレイバ氏は語った。

「権利を剥奪された従順な女性だと思い込んでいる人が多く、彼女たちが自分たちの選択でヒジャブを着用しているとは考えもしないのです」

しかし、最近では若い世代が新たな道を切り開いている。多くのイスラム教徒の女性がソーシャルメディア上で存在感を高め、公の場に姿を現している。

「オンラインの布教活動も盛んで、インターネットは彼女たちにとって重要なスペースです」とレイバ氏は言った。

バルボサ氏は、イスラム教徒の指導者の多くはイスラム嫌悪への対応が不十分だと述べた。そして、「彼らはたいてい宗教を広めることばかりを考えていて、差別や暴力について話すのを、問題を大きくするだけで良くないことのように思っているのです」と説明した。

バルボサ氏の次の目標は、同じ調査を他のラテンアメリカ諸国でも行い、地域全体のイスラム嫌悪の問題を知らしめ、コミュニティや政府が行動を起こせるようにすることだ。

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