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ガザでハマスに拘束されたイスラエル人人質が死亡:イスラエル軍の交戦規定はどうなっているのか

ガザ地区境界付近のイスラエル人コミュニティから誘拐された3人の人質。左からアロン・シャムリズ氏、サメル・アル・タラルカ氏、ヨタム・ハイム氏。3人の人質をイスラエル軍が誤って射殺した。(AFP)
ガザ地区境界付近のイスラエル人コミュニティから誘拐された3人の人質。左からアロン・シャムリズ氏、サメル・アル・タラルカ氏、ヨタム・ハイム氏。3人の人質をイスラエル軍が誤って射殺した。(AFP)
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24 Dec 2023 03:12:22 GMT9
24 Dec 2023 03:12:22 GMT9
  • 12月15日、アロン・シャムリズ氏、サメル・タラルカ氏、ヨタム・ハイム氏がイスラエル軍の誤射によって死亡
  • 今回の死亡事件は軍の規律の欠如や市民の命を軽視し続ける傾向を示していると、批評家たちが主張している

ロンドン:先週、自軍の部隊がイスラエル人人質3人を射殺して以来、イスラエル軍はガザの戦闘で交戦規定を無視し続けていると新たに批判されている。

このような間違いは、イスラエル国防軍の過度な暴力依存、あるいは規律の欠如の可能性に鑑みれば必然の結果だと、批評家たちは述べている。

3人の男性が救助してくれるはずだった味方に殺されたこと自体、十分に悲劇的である。しかし両手を上げて降参の白旗を振っていた非武装の個人に、イスラエル軍が発砲しても良しと判断したことは、残酷な戦況をさらに浮き彫りにしているといえる。

3人の男性(アロン・シャムリズ氏、サメル・アル・タラルカ氏、ヨタム・ハイム氏)が12月15日にガザ地区シュジャイヤで殺害されたとき、彼らは兵士に近づきながらヘブライ語で助けを求め、「SOS」と書かれた白い布を振っていた。

イスラエル国防軍はすぐに殺害は交戦規定違反だったと非難し、3人の男性は「脅威と…誤認された」と述べている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は3人の死に「深い哀悼の意」を表明した。

しかし、殺害された男性の1人の父親であるアヴィ・シャムリズ氏がNBCニュースに語ったところによると、今回の発砲は人質の安全と健康に十分配慮せずに戦っているせいで起きたのだという。

10月7日、ハマスの武装勢力が南イスラエルを攻撃したとき約250人が人質となった。イスラエルの最新のデータによると1,139人が殺害され、その大半は民間人だった。

先月、カタールとエジプトが仲介した1週間の停戦中に、イスラエル人と外国人の人質100人以上が、収監されていた240人のパレスチナ人と引き換えに解放された。

人質事件の政府の対応にテルアビブで抗議の声が上がった際、イスラエル軍のヘルツィ・ハレヴィ参謀総長は降伏者が出た場合の交戦規定を明らかにした。

「2人の人間がシャツを脱ぎ両手を上げているのを見たら、2秒考えろ」と、ハレヴィ氏は発砲事件に言及しながら兵士たちに告げた。今回の事件で3人の男性は、自爆ベストを着用していないことを示すため全員シャツを脱いでいた。

「もし2人のガザ人が白旗を掲げていたら? 私たちは撃つか? 絶対に撃たない。たとえ敵であっても武器を置いて両手を上げていれば、撃たずに拘束するのだ。」

2023年12月15日、ニューヨーク市で、ハマスに拘束されている人質の家族らが、アントニオ・グテーレス国連事務総長の自宅の外で抗議活動に参加した。(AFP)

このような言質があってもなお、批評家たちはイスラエル軍の物議を醸す武力行使と、ガザやその他のパレスチナ領土にいるイスラエル人の安全に優先順位を付ける態度が、今回の人質殺害事件に反映されていると指摘している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)のデータを引用して情報筋がアラブニュースに語ったところによると、2008年から現在の紛争が始まる1か月前までの間に、イスラエル軍の行動で5,300人以上のパレスチナ人が爆撃や銃撃の犠牲になったそうだ。

カナダのカルガリーにあるロイヤル・マウント大学で社会学の教鞭を取るムハンナド・アイヤーシュ教授は、交戦規定に対するイスラエル軍のいい加減な態度は、ハマスの攻撃があった10月7日以前からよく知られていたと述べている。

イスラエル軍将校たちの証言を基にアイヤーシュ教授が語るところによると、現在の紛争が始まって以来交戦規定はさらに緩くなっているという。「疑わしい敵を撃つ前の確認事項を少なくするため」だが、「疑わしい敵」の中には明らかに降参している者も含まれる。

「それ以来調査してきた事実に基づくと、将校たちの報告には信ぴょう性があります」と、アイヤーシュ教授はアラブニュースに語った。

「たとえば狙撃手は病院も含め民間人を標的にしています。また学校内に避難していた女性、子ども、赤ん坊を集団処刑したという報告が少なくとも1件あり、他にも事例はたくさんあります。」

2023年12月17日にイスラエル軍が公開した写真。残飯を利用した間に合わせのメッセージで、「助けて、3人の人質」とヘブライ語で記されている。報告によると、このメッセージはイスラエル軍に誤射された3人のイスラエル人人質が書いたもので、事件現場に隣接する建物を捜索した後で見つかったという。(AFP/公開/イスラエル軍)

アイヤーシュ教授らは、イスラエル国防軍によるイスラエル人人質の誤射と、無害なパレスチナ人を射殺しようとする明確な意思との間には直接関係があると指摘している。

たとえば2020年5月に32歳の自閉症の男性イヤド・ハラク氏が、2022年5月にジャーナリストのシリーン・アブ・アクレ氏が射殺された事件などが挙げられる。

またイスラエルの人権監視団体ベツェレムは、ヨルダン川西岸地区を襲撃していたイスラエル軍が、2人のパレスチナ人を「違法に処刑した」と非難している。2人のうち1人は行動不能で、もう1人は丸腰だった。

ベツェレムの広報ディレクターであるロイ・イェリン氏がタイム誌に語ったところによると、12月15日に3人のイスラエル人人質が殺害されたことは「非常に胸の痛む事件だが驚きはしない」という。

長年にわたり、イェリン氏の団体は「明らかに降伏しているにもかかわらず撃たれた人々の事例」を数えきれないほど記録してきたという。これはすべての戦争法に違反しているが、行動の責任を負う者に対する罰則がほとんどないため、抑止することも将来の事件を防ぐこともできないのだと、彼は語った。

一方で、テルアビブ大学と提携する独立シンクタンクである国家安全保障研究所、およびミスガブ安全保障研究所のコビ・マイケル主任研究員は、このような事件がイスラエル国防軍による通常の業務手順の一環であるという主張を否定している。

拘束した民間のイスラエル人をガザ地区境界付近のキブツ・クファル・アザからガザ地区へ移送するパレスチナ人たち。2023年10月7日撮影。(AP)

「金曜日にシュジャイヤで起きたことは、規則から外れた非常に痛ましい例外です。あれは過ちで規則違反だと、誰もが理解していると思います」と、マイケル氏はアラブニュースに語った。

「だからといってイスラエル国防軍全体が規則を無視していることにはなりません。このような事件が起きた背景を理解する必要があります。事件現場は、10人のイスラエル人兵士と上級指揮官が殺された場所でした。

「ハマスの戦闘員だらけの地域で、相手はイスラエル軍兵士をだまして混乱させようと必死です。兵士たちは撃つべきか撃たざるべきか一瞬で判断しなければなりません。イスラエル軍の交戦規定を反映できる状況ではないのです。

イスラエル軍は「戦争法を遵守」し、自軍を犠牲にしてでも民間人の犠牲者を最小限に抑える努力をしていると、マイケル氏は付け加えた。

だが英国を拠点とする人権団体「Law For Palestine」の役員であるハッサン・ベン・イムラン氏は、マイケル氏の評価に納得していない。

2023年12月20日、イスラエル軍の爆撃を受けたガザ地区南部のラファから避難するパレスチナの人々。(AP)

「そのような対応は、彼ら全員が読むガイドブックの中にしか見られず、現地の実情を反映しているわけではありません」と、イムラン氏はアラブニュースに語った。

イスラエル軍の退役兵士団体「Breaking the Silence(沈黙を破る)」によって文書化された元イスラエル兵士たちの証言は、交戦規定の無視による事件が、イスラエル政府や軍が認めたがらないほどに一般的で広範に渡って起きていたことを示唆している。

団体の代表アブナー・グバリヤフ氏は、3人のイスラエル人人質が「交戦規定違反」によって殺害されたというイスラエル軍の主張には「懐疑的」だと、タイム誌に語った。

ガザ地区で過去の軍事作戦に従事していた兵士たちの証言を基に、グヴァリヤフ氏は以下のように述べた。イスラエル国防軍が「民間人はいなくなった」と判断すると、兵士たちはその地域で「動くものすべてを撃て」と命じられるそうだ。

シャムリズ氏、アル・タラルカ氏、ハイム氏が殺害された地域は、イスラエル軍が激戦区と宣言しており民間人を退避させようとしていた。そもそもなぜ3人の男性がそこにいたのか謎に包まれたままだが、一説では拘束者から逃れた可能性がある。

2023年12月21日にイスラエル軍が公開した写真。イスラエル軍とパレスチナの武装勢力ハマスとの戦闘が続く中、ガザ地区で活動する兵士たちが写っている。(AFP/公開/イスラエル軍)

「都市戦の混乱の中で兵士が瞬時の決断を簡単に下せると考えている人は、皆世間知らずです」と、テキサス工科大学の刑法の教授で軍事法および政策センター所長のジェフリー・コーン氏がアラブニュースに語った。

「戦時中は常に間違いが発生するものです。そして悲しいことですが、意図的な規則違反もときには起こります」

「今回の事件が一連の流れのどこに位置づけられるのか現時点ではわかりませんが、いずれにせよ悲劇でした。もし過ちとするならば、ハマス側が戦争のルールをほとんど無視していることも認識する必要があります。それがイスラエル兵士の対応に影響を及ぼしていることはまず間違いありません」

「だからこそ規則の抜け穴を突いて、優位に立つために裏切ったり戦争規則を破ったりすること自体が、国際人権法に抵触するのです」

火曜日のイベントで米国のジョー・バイデン大統領は、イスラエル国防軍が対峙している敵の目標はただ1つ「テロという手段でイスラエル国家全体を殲滅すること」だと述べた。

ただ、このような敵と向き合うことを「さらなる負担」と表現したうえで、バイデン大統領はイスラエル軍がハマスの構成員とパレスチナの民間人を区別し、非戦闘員の死亡を最小限に抑えなければならないと強調した。

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